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追放された悪辣幼女の辺境生活 〜チート魔法と小人さんのお陰で健康で文化的な最高レベルの生活を営んでいます〜  作者: もーりんもも
第一部

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29 領民募集②

「決めたわ。私はゲルツ伯爵領の手前までしか行かない。姿も見せないようにするわ。その代わりに、さっきの人に領内に入ってもらって、引っ越して来そうな知り合いに声をかけてもらうわ。あ、さっきの人の名前を後で聞いておいてね」

「お嬢。ちょっと待ってください」

「いくら生活に困っているからって、住み慣れた街を出て引っ越すとなると、考える時間もいるでしょうから、そうねえ……三日後とかに答えを聞かせてもらうことにしましょう」

「お嬢――」


 あー、でもなー。

 老人ばっかに来られても困るなー。いくら領民が増えても当初の目的の達成にはならない。

 うーん……でもある意味、被災者の受け入れでもある訳だから……どうしても弱者って高齢者になっちゃうかぁ……。


 移住希望者の受け入れに条件を付けちゃう? それって非人道的な行い?

 悩むなー。


「ねえ、アルフレッド。うちの領地に誘う相手の年齢に制限をかけるのってどう思う? 私としては若い世代に来てほしいんだけど。あとメイドとして働いてくれそうな女性も。でも、若い人たちなら自分の力で何とかしそうだから、伯爵領を出て行こうなんて考えるのは、いよいよ働けない人たちのような気がするのよね」


 アルフレッドは何とも言えない表情で私の話を聞いているけれど、それって私の性格が捻じ曲がっていたことを改めて確認したっていう侮蔑の現れじゃないよね?


「はぁ。どうしてもと仰るなら、先ほどの男に心当たりの人間について尋ねてみればいいでしょう」


 確かに!


「そうね! そうするわ。じゃあ――」

「一刻を争うような話じゃないですよね?」


 まぁ……そうかな。そう言われたらそんな気がするけれど、早いに越したこともないような……。

 あ、でも。受け入れ態勢を整えるのに時間がかかるか。じゃあ、急がなくてもいいか。


「分かったわ。また後日改めて話を聞くわ。それでいいでしょう?」

「はい。ではそのように手配いたします」

「よろしくね」



   ◇◇◇   ◇◇◇



 ゲルツ伯爵領から来た男性はブレッツという名前だった。年齢を聞いてビックリ! まだ三十歳になったばかりだった。

 例の災害で妻と子を失ったらしい。それもあって、別の土地へ行こうと思い立ったのだという。

 一応、そんな感じでブレッツの情報をインプットしてから面談に臨んだのは三日後の昼食後だった。

 てっきり翌日には会えると思っていたのに。

 アルフレッドが、「私の方で少しだけ地ならししておきます」とか言っていたけれど、それに時間がかかったってこと?

 領主に呼び出されるのは領民にとっては寿命が縮むことだと後で聞いたんだけど、そこまでとはね。

 目の前のブレッツは挨拶してから一度も私と目を合わせないから、そういうことなんだろう。


「ブレッツ……だったわよね?」

「はい、シャーロッテ様」

「仕事を抜けてもらって悪かったわね。すぐに済ませるから心配しないで」

「はい、シャーロッテ様」


 え? まさか全部、「はい、シャーロッテ様」と答えるつもり?

 アルフレッドに「はい、シャーロッテ様」の練習をさせられたんじゃないよね?


「コホン。あなたが言っていた呼び寄せたい仲間のことなんだけど」

「はい、シャーロッテ様」


 あ、なんか、だんだんイライラしてきた。


「それって何人ぐらいいるの? どういう人たち? 誘えば来そうな感じなの? 返事はいいから、具体的に答えて」

「は――い」


 ちょっとばかり目を吊り上げちゃったかもしれないけれど。

 そこまでガッチガチに固まらなくていいでしょうに。

 ブレッツはアルフレッドに、「助けてくれ」と無言で懇願した。


「ブレッツ。大丈夫だ。シャーロッテ様は本気でお前の知り合いをこの村に呼ぼうとお考えなのだ。そのために必要なことをお聞きになっているだけだ」

「え? そうなんですか?」


 おいおい。随分と気安いな。アルフレッドとはすっかり信頼関係を築いたんだな。

 まあ、いいや。

 さあ、答える気になった?

 一つずついこうか。


「何人いるの?」

「ええと――七、八人です。その、私が出て行く前に一緒にどうかと誘った人数ですけど」


 ん?


「じゃあ、もしかして。他にも誘えそうな人がいるのね?」

「は、はい。どうしようか悩んでいる奴らは結構いると思います」


 へぇ。


「あなたが声を掛けた人たちだけど。だいたい何歳くらいなの? 全員独身かしら?」

「歳――ですか。あの、全員世帯持ちで、私とそれほど変わらないと思います」

「世帯ってことは、子どももいるの?」

「はい。ガレンのところは十になるかならないかぐらいの子が。レダのところはまだ小さい子が二人います」

「ちょっと整理させて。あなた八人って言ったけど、やっぱり七人じゃないの? 夫婦が二組と子供が三人でしょ?」


 そう問うと、ブレッツが、「え?」と言いながら正面の私を見た。


「ええと。ガレンも私と同じで妻を亡くしています。レダはおっしゃるように妻と子がいて、あと、子どものいないトーイが、あの、妻はいるんですが、それで――全部で八人になります」


 ちっ。私が子どもがいるかどうか聞いたせいだとでも?


「じゃあ、ガレンのところが子どもと二人。レダは妻と子と合計四人。トーイが妻と二人ね」

「はい。そうです」

「その八人は誘えばこの村に来ると思う?」


 なぜかブレッツは一度アルフレッドを見てから、私に答えた。

 答えるだけなのに、いちいち背中を押してもらう必要がある?


「はい。『このままだと一家揃って盗人になっちまう』って言っていたくらい、相当追い詰められていましたから……」


 いかんなー。結構猶予がないんじゃない?


「アルフレッド」

「そうですね。急いだ方がいいみたいですね」

「あの……」


 アルフレッドに言おうか私に言おうかと、キョロキョロ視線を動かした末に、ブレッツが私の方を向いて言った。


「シャーロッテ様。年齢を気にされておられるようですが、何歳くらいでしたら受け入れていただけるのでしょうか?」

「どういう意味?」

年端(としは)もいかぬ子は力仕事ができないから難しいでしょうか?」


 もしかして、親を亡くした孤児のことを言っている?


「子どもは将来の働き手だから、私に忠誠を誓って真面目に働くのなら受け入れてあげなくもないけど?」

「ほっ、本当ですか!」

「親のいない子を連れて来たいのね?」

「はい。中には娼館に行くしかないと思い詰めていた子もいましたから」


 おいおい! 早く言えよ!


「ヤバいじゃないの! すぐに連れて来なさいよ!」

「え?」

「お嬢、いくらなんでもそれは――」


 いや、急ぐでしょ!


「ここからゲルツ伯爵領までどれくらいあるの?」

「えっ、ええと、私が歩いて……だいたい半日くらいでした」


 弱りきってももう駄目だと思って、この村に賭けたんだよね?

 衰弱した人間が半日で歩ける距離って……十キロくらい? まあ二十キロでも三十キロでもおんなじだけど。

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