28 領民募集①
「あなた。どうして伯爵領を出て、こんな辺鄙な村に来たの?」
逆なら分かるんだけどね。
「そ、それが。春先の水害で家も畑も無くしてしまって、ずっと食うや食わずの生活が続いたものですから、いっそ、一から始めてみようと思いまして。この村なら働けば食べるだけはできると聞いたことがあったので」
「そう。でも見込み違いだったのね?」
男性はチラリとヒッチを見て、申し訳なさそうに続けた。
「……はい。もし私以外にも受け入れてもらえる余地があれば、伯爵領に戻って仲間を呼ぼうと思ったのですが――」
当てが外れたって訳ねー。来てみたら仕事はないし、細々とした援助だけで、こっちも食うや食わずの生活だったと。
ん? あれ?
「ちょっと待って。仲間っていうことは、じゃあ伯爵領には、あなた以外にも当てがあれば移動しようと思っている人がいるってことなの?!」
「……? は、はい」
ちょっと興奮しちゃった。思わず前傾姿勢で噛み付くように見えたかもしれないけれど、そこまで怖がらなくていいでしょう。
「ねえ。その人たちって、仕事ができて食べていければいいのよね?」
引越しに際して幾ばくかのお金を渡したりする必要はないんだね?
それに、これって、要は被災者の受け入れだもんね。
村から人が流出したってことは、いくらか家も余ってんじゃないの?
ま、最悪無かったら、それこそマンションの出番じゃん!
うん。どうとでもなる。
といっても、まんま前世のマンションを建てる訳にはいかないよね。
さすがにこの世界でそれはない。それに膨大な魔力が必要だろうし。
……うーん。
……うーん?
この世界に馴染むように、木造アパートをそれらしく改造して建てる?
いやいや。
マンションデベロッパーが展開している、マンションのいとこのような『○○エリアの戸建て』とかをイメージすれば、平屋の小さな家を建てられるんじゃない?
それができれば、元々の住民の家もグレードアップできるね。
後から来た住民が新築に入居するって、そんなのないよね。
「ねえ、アルフレッド――」
「お嬢。ヒッチたちにはそろそろ仕事に戻ってもらいましょう」
「え? ああ、そうね。あなたたち、もう仕事に戻っていいわ」
まあ、この先の相談は領民たちに聞かせる話じゃないからね。
ヒッチたちはペコペコと頭を下げながら部屋を出て行った。
「ねえ、アルフレッド――」
「私は反対です」
「はぁん?」
「ゲルツ伯爵領に行って、移住を希望する者を募ろうとお考えですね?」
「そうだけど? それが何か問題? 現に一人来ているのに?」
アルフレッドはいつもの、「はぁ」を繰り出して肩を窄めた。
「事情が異なります。何らかの理由で住むところをなくし仕事もない人間が、領主の支援を受けることができずに領地を出ていくことは、ままあることです。自発的に一人二人領民が出ていくのと、隣の領主が乗り込んできて、まとめて領民を連れて行くのとは、天と地ほども違います」
ああ、人的リソースを奪うことになるって言いたいんだね。略奪行為に当たるのか。
「でも被災して生活がままならないのに、十分な支援をしていなかったんでしょ? 下手したら死んでいたかもしれないのに?」
「それでも、です。もしどうしてもと仰るのでしたら、きちんとゲルツ伯爵へのお目通りを願い出て、それなりの対価をお渡しした上で、下手にお願いするしかありませんが――そんなことがお嬢にできるとは思いませんね」
「フィッツジェラルド公爵家の方が伯爵家よりも序列は上よ!」
「お嬢が国王陛下の命によって、辺境の村に飛ばされたことは国中の人間が知っていますよ。おそらくフィッツジェラルド公爵令嬢と名乗っても、全く、これっぽっちも相手にされないと思います。おそらく面会は断られますよ」
「何ですってー‼︎」
ムキーッ!
「ゲルツ伯爵にしてみれば面倒なだけですからね。なんの益もありません。どうしてもとおっしゃるのなら、お父上に頭を下げて、取り次いでいただくしかないと思います」
それはできない相談だ。
最後に交わした父親との会話を思い出すと、どの面さげてっていう話だもんね。
くぅぅ。
今更だけど、あの時、もうちょっとだけ低姿勢でゴマをすっておけばよかったかなぁ。
ちっ。
何だって貴族はそう四角四面の対応をするんだろうな。
ん? ってことは、貴族じゃなきゃいいんじゃない?
「待って。領主と領主だから、そんな面倒な話になるのよね? さっきの人も言っていたじゃないの。『受け入れてもらえる余地があれば、伯爵領に戻って仲間を呼ぶつもりだった』って。つまり、領民同士で情報交換をした結果、自発的に出て行く分には問題ないんじゃない?」
「それは――」
アルフレッドが言葉に詰まっている。
ね、そうでしょ?
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