27 領民を増やそう
それにしても、こうして門が完成すると、本当に領地って感じがしてきたわ。
まさに、一国一城の主人になった気分。
小さな村だけど、外観はそれらしく整った。
食べていく分にはどうにかなる見通しもたった。
……それでも。
現状は、まだまだ最低限のレベル。
将来のことを考えると、解決しなきゃいけない問題がある。
歪な人口ピラミッドだ。
長期的な展望を考える前に、大前提として若年層に移住してもらう必要がある。
あー。領民ってどっかに売ってないかなー。激安で。
子育て世代の誘致ってどうやればいいんだろう?
背中越しに私の思考が伝わるのか、私があれこれ考えを巡らせていたり、妄想に耽っている時は、アルフレッドは話しかけてこない。
ぼーっとしている間に、西側の街道の辺りまで来ていた。
あ。ここも門がいるな。
「お嬢。門のことは一旦忘れてください」
なんか似たようなセリフを最近聞いたばかりだけど。
「別に門のことを考えていた訳じゃないわ。領民のことよ。老人ばかりで先が思いやられるなあって思っていたのよ。若者を呼び戻すにはどうすればいいかしら?」
「そうですね。この村を出て行った者たちは、既に新しい生活の基盤を築いているでしょうし、この村の生活を知っているので、戻ってくることはないんじゃないでしょうか」
やっぱりかー。
「じゃあ、新しい家族を呼び込まないといけないわね」
「呼び込むって、募集したからって、そんな簡単に引っ越してくる訳ないでしょう」
ムッ。
もうちょっと領主に寄り添ったアドバイスとかできない?
「とにかく、私たちよりも長くここに住んでいる領民に聞いた方がいいかもしれないわ。何かしら情報を持っているかも」
「ええと、周辺との交流はほとんどないと聞きましたよ?」
うっさい!
糸口くらいあるかもしれないでしょ!
くぅぅ。振り向いて一発お見舞いしたいのに、できないのがもどかしい。
「はいはい。じゃあ、一旦領主館まで戻りましょう」
私の背中から立ち昇る怒りのオーラを感じ取ったのか、アルフレッドが手綱を引いて馬の向きを変えた。
◇◇◇ ◇◇◇
アルフレッドから、「昼食後に会談の場を設けます(それまで大人しくしていてください)」と言われたので、もちろん大人しく待った。
せっかちな私が領民たちのところに突撃しないように、アルフレッドがヒッチと他数人を招集することにしたらしい。
応接室に、いや、領主館に誰かを招き入れるのは初めてだな。
部屋に入り、緊張した面持ちの領民たちを見て、そんなことを思っていたら、ヒッチが跪いた。
は?
他の領民もヒッチの真似をして彼の後ろで跪いている。
「りょっ、シャーロッテ様。お、お呼びとのことでしたが、何か、わ、私ども――」
「ちょっと待って。とりあえず立ってちょうだい」
もぉー!
暴君じゃないって言ったでしょ!
「アルフレッド。これはどういうこと? あなた、彼らに何て言ったの?」
「いやあ。参りましたね」
こっちが参ってんだよ!
「ヒッチ。済まなかった。どうやら私の言葉が足らなかったようだ。君たちに不満があって呼んだ訳ではない。少し話を聞きたいだけなので、そう緊張するな」
「は、はい」
そう言われたからって、急に和んだりはできないよね。
まあ、領主と領民っていう立場上、無礼講で歓談っていう訳にはいかないけど。
「ヒッチ。確か、つい最近までは、国からの援助物資がたまに送られてくるくらいで、周辺の領地とは交流がなかったのよね?」
「は、はい。その通りです」
ヒッチは、おっかなびっくり答えている。
もしかして、間違った答えを言おうものなら私に首を刎ねられるんかもって思っている?
「コホン。でも街道があるくらいだから、昔は交流があったのよね?」
「は、はい。その通りです」
いい加減、イエス、ノーで答えるのを止めてくれないかな。
「そう。それっていつぐらいの話なの?」
「ええと、それは――」
いや、アルフレッドの顔を見たって答えなんか書いてないよ?
「いつなの?」
「は、はい。この村ができた当初は、潤沢な資金を用意していただきまして、必要な物資は西のゲルツ伯爵領からやって来る商人から買っておりました」
「へぇ」
なるほどね。
いちいち王都から物資を運ぶよりも近所の商人から買った方が早いもんね。
それで、『金の切れ目が縁の切れ目』になったっていうところかな。
「あなたたちが、そのゲルツ伯爵領へ行くことはなかったの?」
「私らはそんな、伯爵領なんてところへ行くのは……」
ん? 都会へ出るのは怖いみたいな?
「そう。今じゃ商人も来なくなって、すっかり交流がなくなってしまったのね。じゃあ、そのゲルツ伯爵領の様子も分かんないわね……」
「……あ」
何よ?
「その。りょ、シャーロッテ様がいらっしゃる少し前に、こいつがゲルツ伯爵領からやって来まして」
「え?」
ヒッチが「こいつ」と、後ろにいた中年男性の腕をぐいっと掴んで前に出した。
その男性は、「ヒッ」と声を上げただけで、私と目を合わせようとしない。
こんな幼気な幼女を化け物みたいに!
それにしても、全く往来がない訳じゃないじゃん。
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