25 始動
ハッチだかヒッチだかは、まとめ役の経験があるようで、きちんと領民たちを畑や家畜の仕事に従事させた。よしよし。
部屋の窓からも、農具を持った領民たちが歩いている様子が見える。
働くのが嫌で無気力な生活を送っていた訳ではなさそう。
どうやっても成果が出ないせいで、心が折れていただけみたい。
私って、さながら救世主だね。ふふふ。
保存のきく根菜は大量に持って来ているけれど、葉物野菜は無いからたくさん作ってほしいと言いつけてある。
肉も調達は無理そうだと思い、干し肉を持って来ているので、新鮮な野菜が収穫できれば食生活はまず問題ないな。
しかも乳牛を買ったから、搾りたての乳からチーズを作れるらしい!
そんな知識のある人間がいて驚いたよ。
畑チームも、牛糞や鶏糞を肥料にするって言っていたしね。
まあ、こんな辺鄙なところじゃ、自助努力で生き抜くしかないから、そういう人たちが集められたのかな。
私は弱火で殺菌してもらったミルクを飲めるので、どんどん背を伸ばして成長するつもり。
リーチが短いとパンチがヒットしないからね――なんてことを考えるのはシャーロッテちゃん譲りかも。
そんなこんなで生活に余裕ができたので、殺風景な領主館を彩ることにした。
必殺! マンションの屋上緑化!
低木と多様な花が咲き乱れる間を、タイルの小道があるような風景をイメージして、目を閉じ、「あー、眠たいなー」と、ほんの少し眠りかけるだけ。
すると、あーら不思議!
領主館を囲むように緑の木々が現れ、可愛らしい花があちらこちらで咲き揃った。
ヒャー! 我ながらすごい魔法!
思わず窓から身を乗り出しそうになってしまった。
ちょうど外に出ていたアルフレッドが、足元の変化に驚いて、「うわっ!」って飛び退いている。
ククク。
「あ、お嬢! またおかしな魔法を使いましたね! 魔法が使えるようになったばかりの子どもは、そうやってむやみやたらと魔法を使いたがりますが、魔力切れを起こしてもしりませんよ!」
「大丈夫よ。子どもじゃないんだから」
リミッター付きって指示してあるからね。
「子どもはみんなそう言うんですよ!」
本当に子どもじゃないんだけどね。
「アルフレッド様! 大変です!」
またかよ、キース。
「報告は領主様に言え」って何度言ったら分かるの!
キースは、そう言ってから屋敷の周辺の変化に気づいたみたいで、「うわっ。なんだ?」と呟いている。
それから自分の方をチラとも見ずに、上の方を見ているアルフレッドの視線の先に私がいるのを見つけて、「あ」とアホ面を晒した。
「『あ』じゃないでしょう」
「……シャーロッテ様。その――ご報告したいことがございます」
「そう。じゃあ、そこで待っていなさい。私がそっちに行ってあげるわ」
二人のところへ行くと、キースが乱暴に草を踏んでいた。
このヤロー。人がせっかく整えた庭先で狼藉を働きやがって!
「私の作った庭を破壊しようとしてるの? そんなことをしてただで済むとでも?」
「え? あ、いや――いいえ。その、今まで無かったものが急にあるので、一体何だろうかと不思議に思い確かめていただけです」
じゃあ、そっと手で触れて確かめなさいよね!
「フン。まあ今回は見逃してあげるわ。それで?」
「あ、はい。それが、突然、集落を囲うような建造物が現れて、領民たちが不安がっておりまして――」
……ん? それって、チタンのブロックのこと? 邪魔な物が並んでいるなって思われちゃった?
「あ、あれね。小さくても規則正しく並んでいると不気味に見えるのね」
「へ? 小さ――くはないと思うのですが」
……ん? まあ感じ方は人それぞれだけど。
「じゃあ、私が直々に視察をして、領民に説明するわ。それでいいんでしょう?」
「はい。よろしくお願いいたします」
「はい」と言いながら、「それでいいのですよね?」とアルフレッドの顔色を窺うキース。腹たつ。
「まあ、お嬢の言うとおりだと思います。私たちが確認している姿を領民たちに見せた方がいいでしょう」
心当たりのある南の街道へ向かうと、明らかに様子が違っていた。
「ねえ、アルフレッド。あんな高かったかしら?」
「……お嬢。いつの間に――こ、こんな――」
マジで、「でっかくなっちゃった!」っておどけてしまいたくなるほど、塀が高くなっていた。
私の胸のあたりまである。
そしてぐるりと領地を囲うように延伸している!
これって――馬で領地の外周を走った時に、私が『領地の境』だと認識したところに防護壁が建造されているってことだよね!
それにしても最初に見た時には、ブロックを横に並べていったくらいだったのに、わずか数日でここまで出来上がるとは!
最初のブロックの量から考えると、単純に一定の量で増えていった訳じゃなく、倍の倍の速さで増えていってない?
「ねえ、アルフレッド。魔力切れを起こすギリギリのラインって、毎日毎日アップするものなの?」
「お嬢が仰りたいことは分かりますが、ちょっと常識の範囲外と言いますか……」
「でも、そういうことよね? 私の魔法で作っているんだもの。魔力を使い果たすことのない範囲で作っているんだから」
「それにしても、ここまで劇的に魔力量が増えるのは……」
ずっと呆然としたままのアルフレッドってちょっと珍しいかも。
じゃなくて。しっかりしてちょうだい。
「ねえ、アルフレッド。魔力量を増やすには普通はどうするの?」
「まず、普通は魔力量を増やそうとは考えません。使える魔法の種類を増やしたいと思うものです。まあそれでも魔法を使用しているうちに魔力量は増えるので、成長するに連れて段々と規模の大きな魔法が使えるようになります。正しくは、魔法の熟練度が上がるので魔法の威力が増す訳ですが」
ほうほう。するとあれかな?
魔法をうーんと沢山使えば、熟練度が上がるし、魔力量も増えると。
じゃあ、私は領地に着いてからというもの、ずぅーっと眠くて居眠りばかりしていたから、その間、無意識で魔法を使っていたってことだよね。
しかも最初の頃は使い果たしてバタンってなっていたぐらいだから、相当無理をしていたってことか。
倍倍方式で増えるにしたって、スタートの量が大きい方が増え方が大きいに決まっている。
私……今……とてつもなく、すんごい魔力量なんじゃない?
私の魔法は攻撃魔法じゃないから、『威力が増す』っていうよりも、文字通り『熟練度が上がる』のかもしれない。
……あれ? そうしたら、そのうち小人とも意思の疎通ができたり、触れたりできするようになるのかな?
……あ! 女神を召喚する魔法が使えるようになるかも!?
召喚したいなぁ、女神。
ダークな魔法陣とかの上に召喚して、私が「いい」と言うまで帰れなくしたいなぁ。
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