22 現状把握②
森を通り過ぎたあたりで緩やかに右に回り込んで行く。
ほんと、どうしてここが境って分かるんだろう?
「……あら?」
草ボーボーの土地だけれど、何となく区画整理されていたような跡がある。
もしかして……この辺りは昔農地だったのかな?
耕作放棄地?
労力に見合うだけの収穫がなかったのか、はたまた労働力不足のせいなのか。
どっちにしろ悪循環の行き着いた先が今って感じだな。
でもこれからは国からの補助は出ないから、どうしたって自分たちの食べる分くらいは自分たちで作らなきゃいけない。
農業の復活は急務だなぁ。
それと、何気に防衛も。
魔獣がいて、襲ってくるかもしれないんだよね?
そんな状況じゃ安心して寝られないよ。騎士団もいないのに。
やっぱ、マンションとかの目隠し的な塀じゃなくてて、松濤とかの大豪邸にあるような高い塀で領地を囲みたいなぁ。
安心、安全、が第一。それから衣食住。
あ、でも。
来年の食糧は今年生産して保存しておかなきゃいけないから、野菜や麦の植え時は逃さないようにしないとね。
今だに私が使える魔法がよく分かんないんだけど、小人と相談するにはどうしたらいいのかな?
「魔獣が侵入できないような塀を作れ」ってどう命令すればいいんだろ?
あー、壮大な建造物は駄目なんだっけ。
私の魔力でできる範囲か……今日から始めて何年くらいかかるんだろう……。
ほんと、あの使えない女神のせいで魔法の使い方が分かんないよー!
「お嬢。そろそろ出発地点に戻りますよ。大体の広さはつかめましたか?」
分かったような、分からなかったような……。
「そうね。まあ、大体ね」
「では屋敷に戻りますね」
「ええ。戻ったら一休みして、これからのことを決めるわ」
小学生って午後のお昼寝をしていたっけ……?
八歳っていうことは前世でいうところの小学二年生だ。
子どもには違いないけれど、お稽古事がない日はずっと遊んでいたと思う。
それなのに現シャーロッテちゃんは、お茶を飲んで一息ついたら、「ねむぅ」とベッドに倒れ込むように寝てしまった。
どゆこと?
この私の精神が、ちびっこの肉体の欲求に負けたの?
どーにかなんないかなぁ。活動時間が少なくなっちゃう。やらなきゃいけないことが目白押しなのに。
目が覚めたら、相変わらず部屋に一人。
なんだろうなー、この気持ちは……。構ってほしい?
それって八歳のシャーロッテちゃんの気持ち?
うーん。分からん。まぁ、いっか。とりあえずアルフレッドと話をしなくちゃ。
一階に下りても人の気配がなかった。
話し声が聞こえないし、物音もしない。
おいおい。みんなどこに行ったの?
全員が外に出ている?
エントランスへ近づくにつれて数人の声が途切れ途切れに聞こえてきた。
外に出ると、悲壮な顔の領民が数人、アルフレッドに何かを頼み込んでいる。
「おねげーですだー」と頭を下げている絵面だ。
そういや、領民たちは日中何をして過ごしているんだろ?
「今更そんなこと言われても……」
「わしらはもうそんな……」
アルフレッドが何か無茶を言ったのかな? 無茶振りは私の仕事だと思うんだけど?
「アルフレッド」
「あ、お嬢」
「何の騒ぎなの?」
「騒ぎって。相変わらず大袈裟ですね」
いいから、早く説明してよ!
「あ、あの領主様」
「『シャーロッテ様』」
「は、はい。シャーロッテ様」
「あなたたちは何なの? もしかして村長? 私が着任するまでここを仕切っていたの?」
一番前でアルフレッドに泣きついていた男性にそう尋ねると、ブンブンと首を横に振られた。
「い、いいえ。そんなものではないです。一応、食糧等を受け取る際の村の代表をしていただけで……」
村の代表が村長だと思うけどね。
村長としての仕事をしていなかったから、違うって言いたいのかな?
「そう。それで?」
「そ、その。こちらの騎士様から、『もう国からの援助はない』と言われたのですが」
あー。なるほど。そういうことか。
「そうよ。これまではこの領地は国の管轄だったけれど、これからは私の管轄になったんですもの。当然でしょ?」
「そ、それは――じゃ、じゃあ――」
アルフレッドが「こほん」と咳払いをして、おそらく私がいない時に領民たちに告げたであろう言葉を言ってくれた。
「だから、あなたたちは自分の食糧をここで生産しないといけないのですよ」
ったり前でしょう!
何をショックを受けてんの?
「で、ですが。畑は駄目だったんですよぉ。何をやっても無駄だったんですぅ」
え? 泣くの? 嘘でしょ?
今にも膝から崩れ落ちて、「わーん」って泣き出しそうなんですけど。いい大人がやめてよね。
「だから私が来たんでしょ」
違うけど。
不毛な土地を蘇らせる力があるから赴任したみたいな言い方しちゃったけど。
領民たちも、半信半疑って顔で私を見ている。
「えー、オッホン」
いざ、格好をつけて領民たちに私の凄さを説明しようとした矢先、ものすごい勢いで話の中に飛び込んできた男に邪魔された。
「アルフレッド様! 大変です! おかしな物が地中から――あ。シャーロッテ様」
キース、このヤロー。
「あ」じゃないよ!
報告は私にあげろっつってんだろ!
渾身の目つきで睨むと、キースは渋々私に報告した。
「その。シャーロッテ様。南の街道の両側に昨日まではなかった変な物が置かれているのです」
「変な物? そんな子どもみたいな報告をするんじゃないわよ」
「なんか変なんですぅ」って何だよ。
「ですが……あの。ご覧いただいた方が早いと思います。一緒に来ていただけませんか」
フン。まあ行ってやらんこともないけど?
「お嬢。行きましょう。さっき私たちが出発した時には何もおかしな物はありませんでした」
確かに。この短時間で変な物が置かれたってどういうことだろう。
まあ犯人は百パーセント、この領内にいるはずだけどね。
なぜか領民までもが私たちに付いて来た。
それは遠目からもよく見えた。
私たちが馬車でやって来た方向――王都に通じる南の街道の、その街道と思われる道幅を残して、左右に薄いグレーの物が置かれている。
いや、よく見ると、グレーじゃなくてシルバーだ。
それの高さはせいぜい十センチほどで、幅は……直線で数十メートルくらいかな?
明らかに人工物。
……え? まさか ……アレなの?
「キース。ちょっと蹴ってみて」
「え? あ、はい」
キースはものすごい形相で警戒しながらそろりと足を上げ、つま先でチョンと触ってみせた。
「……」
「……」
「……」
「……」
なんじゃそりゃ?
「こうでしょ!」
私が足を上げてガツンと振り下ろすと、その場にいた男どもが全員ギョッとして目を見開いた。
……それにしても。
これって、やっぱ、正真正銘チタンだよね?
どゆこと?
何が起こってんの?
そりゃ、前世のチタンで出来た塀がほしいなぁって思ったよ。でも小人さんと会話していない。
さっき――。
『マンションとかの目隠し的な塀じゃなくて、松濤とかの大豪邸にあるような高い塀で囲みたいなぁ』
ってぼんやり考えただけなのに。
……………………!!!!
もしかして……!
『マンション』って、魔法を発動するキーワードか何かだったの?!
私が頭でマンションになぞらえて、こうなればいいと考えることで『建築』されるの?
あれ? じゃあ、小人は?
それに中途半端な仕上がり。
あっ! 私の魔力の範囲内で収めると、一回あたりこれくらいの出来高ってこと?
じゃ、じゃあ!
あれだ!
農業に関しては、マンションの敷地内で住民たちの家庭菜園を思い浮かべて小人に命じればいいんだ!
うっふっふっふっ。
あっはっはっはっ。
解決じゃん。
「結構、頑丈な物みたいね。いいじゃないの。もし私の許可なく馬車で乗り込んでくるような不埒な奴がいたら、そいつらの邪魔になるんだし。それよりも畑の話をしましょう」
アルフレッドは私に何やら心当たりがありそうだと察したらしく、反対することなく従った。
「お嬢。領民たちは元々農奴だったらしいので、畑さえ用意できれば作業自体は彼らに任せることができると思います」
畑……用意できるんですよね? って視線で問いかけられたけど。
できるみたいなんだよねー。
「そう。よかったわ。そういえば畑らしき残骸を見かけたけれど、ちょっと遠かったわね。小麦とかはあの辺りでもいいけれど、まずは野菜を植えたいわね。あなたたちの家の近くに実験的に作ってみましょう」
領民たちは、「何を言ってるんだろう?」とポカンとした顔をしているけれど、すぐに分かるから。
「そこのあなた」
元村長もどきを指差すと、「は、はい」と返事だけはしっかり返ってきた。
「よさそうな場所に案内しなさい」
「は、はい。わしらの家の近くで畑仕事ができるようなところですね?」
「そうよ」
すぐにはピンときていないみたいだけど、私の剣幕に煽られて、とりあえず歩き出した。
ま、どこでもいいと思うけどね。
村の真ん中に畑をつくろうが、誰も困らないんだから。
元村長もどきは、領主館からは少し遠いところにある空き地の前まで行くと立ち止まり、「この辺でしょうか?」と私に伺うように言った。
「いいんじゃない。じゃあ始めるわ」
うふふふ。
小人さん。さあお仕事ですよー。
前世でよく見た家庭菜園を展開してちょうだい。
出て来い、小人ども‼︎
シーン……。
「ここを畑にするわよ!」
いでよ、小人ども‼︎ おりゃあ‼︎
シーン……。
「ええと。お嬢。ここを領民たちに再度耕してもらえということですね?」
アルフレッドがフォローした!
くっ! 屈辱‼︎
最初が肝心なのに、こんな風に恥をかかされるとは!
おのれっ、女神‼︎
覚えてろよー‼︎
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