21 現状把握①
「お嬢! 聞いています?」
ん? 聞いていなかった。
ちょっと女神のことを思い出したら怒りが込み上げてきちゃって。
「ああ、ごめんなさいね」
「ふう。本来ならば同じ属性の者をお嬢の家庭教師につけるところですが、まず見つけられないでしょうね。お嬢は、ご自分の魔法を誰かから教わるということはできないので、魔法を使いながら覚えていくしかないと思います」
「何それ? つまり私が使役している――と思われる小人と対話することで、魔法のあれやこれやを探っていけって言っている?」
「ええ。そうです」
はぁん?
「それにしても小さい人間って……お嬢が成長したら、その小さい人間も大きくなるのですかね?」
ならないよ。小人ってアレが完成系だからね。
「いったん小人のことは忘れてちょうだい。それよりも領地の話をしましょう。私たちは支援のない中、この寂れた場所で生き抜かなきゃいけないんだから」
シャーロッテの自業自得とはいえ、ちょっとくらいサポートしてくれてもいいのにね。
「そうですね。まず領地の広さですが、ざっとフィッツジェラルド公爵家の敷地の五個分ほどの広さでした。ただ大部分は荒地になっていましたけど」
「そう」
村って言うから、もっと狭いと思っていた。
冷静に思い返すと、フィッツジェラルド公爵家の敷地が広すぎるのか。TDLくらいあった気がする。
まあ、子ども目線でそう感じていただけだから、本当はもう少し狭いかもしれないけれど。
ならばこの村は、ランドとシーを合わせた広さの倍くらいってところかな。
「ねえ。領地の周辺を馬車でぐるりと周ってみたいわ」
「それは――まあ、そうですね。一度ご覧いただくのもいいかもしれませんね。ただ――」
「何よ?」
「その。全く魔獣がいない訳ではありませんから。一応、私とキースが護衛につきますが、危険な目に遭わないとは言い切れません」
「分かったわ。ちゃんともしもの場合の覚悟はしておくわ」
結局、馬車よりも馬の方が早いし、よく見渡せるということで、お尻をアルフレッドの膝で挟まれるような格好で馬に乗せられた。
公爵邸の部屋にあった服は全部持ってきていたから、一度も着ていない乗馬服もあったのだ。
前世でも馬には触ったことがなかったので、初体験だ。
馬の背中は八歳のシャーロッテの身長より高い。
アルフレッドが私のお腹を抱えているけれど、両手で掴めるものがないので不安で仕方がない。
「うわぁぁぁ」
馬が動き出した時、変な声が出ちゃった。
「大丈夫ですよ。最初はゆっくり行きますから。ほら」
そう言われても、体が固定されていないので直にスピードを感じるというか、安全バー無しでジェットコースターに乗っているみたいで、やっぱり怖い。
それに、馬が歩く度にお尻に振動が……!
「絶対に馬を走らせないでよ? 私を怖がらせてやろうとか、そういう不埒なことは考えないでよ?」
「ははは。なんですか、それ? 誰も彼もがお嬢とおんなじ思考だと思わないでください」
ムッ。
「それよりも。あそこが我々がやってきた南の街道です」
街道? ただの地面じゃないの。
「西側からぐるりと周ってみますか」
「任せるわ」
少し進んだだけで住居などの建物がなくなり、雑草が生い茂る荒野が現れた。
いかにも辺境の土地って感じ。
「本当はこの辺りも開拓する予定だったんでしょうね。ただ目論見通りに進まず、若者は村を出て行き働き手がいなくなり――という悪循環に陥ったんでしょう。それでも王命で始めたことですからね。撤回などできるはずもありません」
あーあ。馬っ鹿だなぁ。
新規のプロジェクトなら撤退戦略も立てておかないとね。
それにしても、からっからに乾いた土地が、農地に変わるものなのかなぁ。
……あと。
やっぱり境界線が無いのが気になる。正確な測量なんてしてないだろうから、「ここまでが私の領地」って宣言したら、そうなりそうなんだけど。
「お嬢。あれが西の街道です。ほとんど行き来はないようですがね」
「ねえ。どこを見て『街道』って言ってんの? ただの荒れ地にしか見えないんだけど」
「ははは。お嬢は王都しか知らないですもんね。ほとんど使われていないせいで見分けがつきにくくなっていますが、よく見れば、ほら――遠くの方まで見てください。馬車や馬が通っていた名残が見て取れるでしょう?」
見て取れない。
ただただ野っ原が広がっているだけにしか見えない。
何か見分けるコツでもあるの?
「まあ、使っていないなら意味ないわね」
「本当はもう少し使われているべきなんですけどね。このままなし崩し的に荒野に戻ってしまうと人の生活圏が狭まることになりますからね……」
ん? それってどういうこと? 人間の生活圏には魔獣も安易には近寄らないってこと?
「それにしても、どこまでが私の領地か分からないわね。はっきりさせておきたいんだけど」
「ははは。国境ならまだしも、隣の領主が攻めてくるはずがないでしょう」
アルフレッドは意味がないっていう風に笑うけど、でも、もし貴重な資源が発見されたりしたらどうする?
『ウチの領地で採れたからウチのだ!』って争いになるでしょう?
「でも何が起こるか分からないから、やっぱり領地ははっきりさせておかないとね」
「はっきりさせるって……。杭でも立てますか?」
こいつ。馬鹿にしてるな?
「まさか。塀で囲うに決まっているでしょう! 魔獣だって襲ってくる可能性はゼロじゃないんでしょ? だったら必要なことだわ」
「まあ、そうですが。優先順位は低いでしょう」
「フン」
絶対にやってやるもんね。
だってさ、この私――シャーロッテちゃんて、非業の最後を遂げるんだよ?
あー、それにしても、あのざまぁ小説。もうちょっと読んでおくんだったなー。
『道連れに爆死』って言うことは、誰かと戦っていて、勝てそうにないからヤケクソでそういう選択をしたのかな?
敵対する勢力って? いや敵がいたとしても私兵とか持ってないのに戦うって……。
まさか自分の魔力を過信して単身、王宮に乗り込んだとか?
うわぁ……有り得る。
くぅ。馬鹿だねぇ。
いやいや。あの悪役っぽい顔のせいで、ちょっと国に反抗するような態度を見せただけで――現に今でも十分疎まれているというか憎まれているし――逆に討伐部隊を送り込まれたとか。
やっべー。
そうなったら、こんな辺鄙な村なんて、あっという間に占領されちゃうよ。
やっぱ魔法で塀くらい作れなきゃヤバいんじゃない?
あっ、建築!
塀を建築だ! 私の魔法、建築だよね? どうやって使うんだろ?
「我が領地を塀で囲め」とか唱えると、塀がうにょうにょっとできたりしないかな。
塀っていっても、土塀くらいじゃ魔法で簡単に突破されそう。
もっと近代的な鉄、いやチタンがいいな。鉄よりも強度があったよね。
チタンの塀で領地をぐるりと中が見えないくらいの高さで囲いたいね。
そんな妄想に耽っていると鬱蒼と木が茂っている森が見えてきた。
「さすがにここには塀は不要ですね」
んだとぉー!
「ねえ。この森から魔獣がやって来たりしないの?」
「それは、まあ、そうですね……可能性はあります」
「じゃあ、ここにも塀がいるじゃないの!」
「お嬢。いったん塀のことは忘れてください。今日は領地の周囲をぐるりと見て周るだけなので。ハッ!」
アルフレッドがいきなり、『ハッ!』って掛け声のようなことを言ったなと思ったら、馬が駆け出した!
ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっとぉー‼︎
「お嬢は雑念が多そうなので、少し駆けますね。どうせ風景は変わりませんし」
いやいやいやいやいやいやいや!
走らせるなって言ったよね?
お尻が上下して気持ちが悪いんだよ!
あー、でも今、口を開いたら舌を噛みそう!
アルフレッド、このヤロー‼︎ 覚えてろよ‼︎
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