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2 侍女を取り上げられました

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! あっ!」


 あれ? ここ、私の――いや、どう見てもシャーロッテの部屋だ。

 うっそーん!

 そうだ、鏡!

 仕方がないので、ベッドから下りて白とピンクのドレッサーのところまで行く。


「お願い! 嘘だと言って!」


 三面鏡を開くと、真っ赤な髪の女の子の顔が映った。


 お、オワタ。

 私、シャーロッテじゃん。

 というか、物心ついてからのシャーロッテの記憶があるし。


 あぁシャーロッテ……この子……どうしようもない悪ガキだよ!

 幼少期の頃の話なんて聞いていないから知らなかった。




 五歳のお披露目のお茶会で、シャーロッテが話しているのに話を聞かずにお菓子を食べていたっていうだけで、怒りを込めて女の子を睨んで気絶させたっけ……。

 お人形みたいな幼い女の子が泡を吹いて倒れた姿を思い出した。

 確か、無自覚に魔力で威圧したんだった。


 父親に、「むやみに怒りを相手に向けてはいけないよ。シャーロッテの魔力は普通の子の何倍もあるんだからね」って言われたのに、シャーロッテは、「私は最強!」って全然話を聞いていなかった。




 六歳になったばかりの頃、母親が亡くなって、喪が明けた途端に後妻がやって来たんだった。

 義母は、屋敷に来たばかりの頃はシャーロッテに気を遣って下手に出ていたように思う。

 それが最近、急に反抗的になった。

 いや、七歳の幼女が大人に対して「反抗的になった」とか思っちゃ駄目でしょ!

 シャーロッテの思考回路に汚染されそうで怖い。


 あ、そうだ。確かシャーロッテには義理の弟がいたから、今から生まれるのかも。

 ふーん。妊娠して強気になったのか。自分の子どもを跡取りにしたいって欲が出てきたのかな?


 確か、学園に入学する頃には父親とは碌に口も聞かない関係とか言ってたよね。

 おそらく義母の妊娠を機に――正確には義母がシャーロッテを疎ましく感じて段々憎く思うのと比例するように、父親とは距離が空くんだろうな。



 それにしてもなぁ。

 シャーロッテよ、もう少しどうにかならなかったかなぁ。

 この子はすっかり我が儘娘に育っちゃった。


「三つ子の魂百まで」っていうくらいだから、三歳からきっちり教育しないと(ろく)な大人にならない。

 それに、善悪の判断もできないような幼児に強力な力を与えるなんて、神様もどうかしてると思う。




 うぅぅ。鏡に映った自分の顔に慣れない。

 あ、まだ少し頬が腫れている。マジで加減もなく()ったんだな。

 口の中も切れていて血の味がするよ。まあ歯が折れていないだけ良しとするか。

 あれ? っていうことは、もう既にシャーロッテって父親に嫌われている?

 このままだと義母にいいようにされちゃわない?

 ため息をついて項垂れているとノック音がした。


「お、お嬢様。お目覚めでいらっしゃいますか?」


 誰? 聞いたことのない声なんだけど。

 私がドアを凝視していたから、そうっと開けたところから覗くメイドの子と目が合った。


「ひっ」


 はぁん? いくら何でも失礼でしょ!


「さっさとお入り!」

「はっ、はい!」


 あれ? 自然とキツい言い方になっちゃった。

 見たことのないメイドが部屋に入って来た。

 いつものピシッとした侍女とは大違いの田舎娘みたいな子。明らかに平民の下級使用人じゃない?


「誰に命じられて来たの? あなた侍女じゃないでしょう?」

「は、はい。それが、その――きょ、今日からは私がお嬢様のおせ、おせ、お世話を、お世話係に――」

「落ち着きなさい。つまり侍女じゃなく下級メイドが私の面倒を見るのね」

「も、申し訳ありません!」

 

 いや、あなたが謝ることじゃないよ。

 これは多分、私への罰だ。

 下級メイドじゃ、私の我が儘な要望には何一つ対応できないって、分かってて命じたんだ。

 この子も不憫だよね。元のシャーロッテなら、あっという間に手が出ていたところだよ。


「とりあえず、よろしく頼むわ。あなた、名前は?」

「ま、マイアです、あ。マイアと申します」


 もう面倒だから敬語はいいけどね。


「そう。じゃ、マイア。屋敷のことは知っているのでしょう?」

「は、はい! 最初は迷路かと思いましたが、もう迷子になったりしません!」

「そう」


 そういうレベルか。


「とにかくあなたは私の命令に素直に従ってくれればそれでいいから」

「は、はい! あ! あの――」

「何よ!」


 いっけなーい。どうして、こうキツい喋り方になっちゃうんだろう。癖ってすぐには直らないんだね。


「す、すみません。あ、も、も、申し訳ございません」

「いいから。何なの? 何か言いかけたでしょう?」

「はっ! そ、そうでした。旦那様がお呼びで――」

「それは最初に言いなさいよっ!」

「も、も、も――」

「いいからドレスを準備しなさい」

「は、はい!」


 テンパったメイドは「ドレス」「ドレス」と呪文のように唱えながら部屋の中をキョロキョロ見回している。

 そっか。引き継ぎも何もしていないから分かる訳ないか。


「そこを開けてごらんなさい。その中から何でもいいから持ってきて」

「はいっ」


 衣装部屋かと思うほどのクローゼットだ。いや、実際に部屋なのかも。

 うわぁ。半分以上が赤色のドレス……どうかしてるよ。

 高確率で赤になるなーと思っていたのに。

 メイドは攻撃的な赤色が怖くて触れなかったのか、青いドレスを手に取っていた。

 どっちにしろ濃いんだけどね。子どもならパステルカラーとか着ればいいのに。


「こ、こちらでよろしいでしょうか」

「いいわ。着せてちょうだい」

 

 手足の短い寸胴体型の子どもでよかった。

 私の方から積極的に袖に手を通したりして協力してあげて、二人がかりで何とか着れた。


「さあ、行くわよ」

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