16 小人さん?!
最初はぼんやりと、ただ目に映る事象を網膜に映していた。
でも情報が脳に伝わっていくうちに、段々と状況が飲み込めてきた。
どう見ても――。
三角帽子を被った小人さんたちが、わらわらと部屋の中で忙しなく動き回っている。
八歳のシャーロッテよりも小さい……幼稚園児くらい?
前世で子どもの頃に読んだ絵本に出てくるようなベタな三角帽子を被っていて、靴のつま先がゴンドラの舳先みたいに尖って上向いている。
いや、小人さん?!?!?!
小人さんが大量発生している?!?!?!
脳内では、「小人さん‼︎」と絶叫しているのに、実際には口を開けたまま言葉を失って、目の前の風景を黙って見ていた。
モゾモゾと固まった小人さんの群れの中からソファーが現れたと思うと、すぐにローテーブルも出てきた。
……へ?
どっから出てきた?
ありゃ?
ソファーもローテーブルも、ついさっき私が思い浮かべていたのと一緒じゃない?
前世のどこかか何かで見たようなデザイン……。
「ねえ、ちょっと」と話しかけたかったのに、声が出ない。
自分の体なのに自分の意思で動かせない感じ……熱でも出てんのかな?
なんか瞼が閉じていく。逆らえない感じ。
あー、駄目だこりゃ。
「お嬢!」
ん?
「お嬢!」
ええと?
大きな声を出しているのはアルフレッドか?
もう、来るのが遅いんだよ。もっと早く様子を見に来なさいよ!
……と。と、と、と?
ちょっとまだフラフラする……。
「お嬢! そのままで、そのままで大丈夫です。横になったままで。そうか……掃除に魔力を使い過ぎたんですね。初めての魔法で加減が分からなかったんですね。少し休めば回復するので心配はいりませんよ」
魔力切れってやつ? ファンタジーだねぇー。
私……それでダウンしたんだ……。
え? いやいや。「掃除に魔法を使って」っていうところが分からない。
それにしてもやっとアルフレッドと話ができるよ!
横向きに寝たままだけどいいよね?
「ちょっと、アルフレッド! 何度も話しかけていたのに、どうして最後まで聞いてくれなかったの!」
「え? 何か大事な話があったのですか?」
「あったから話しかけてたんでしょ!」
「えぇぇ……。大事な話なら、ちゃんとそう口に出して言ってくださいよ」
んだとぉっ! はぁん! そこは察しなさいよ!
「もう! 普通はそっちが気にかけるものでしょ! 私のことをもっと大事にしなさいよ!」
「うわっ。視線や表情で言われたことはありましたけど、言葉ではっきり言われたのは初めてですよ」
うるさい!
アルフレッドが子どもに接するように、私の顔の近くに自分の顔を持ってきたので、いつものように顎を掴んでやろうと手を伸ばしたのに届かなかった。
避けやがった! このヤロー!
ぐいっと顎を掴むことを想定して伸ばした手が空を切るほど悔しいことはない。
ムキーッ!
「元気ですね。ほぼほぼ回復されたみたいですね」
「それなんだけど」
思い知らせてやるのは今度にして、今はアルフレッドの考えを聞きたい。
「私って、風魔法を使えるの? あと、この屋敷がピッカピカになったのも私の魔法なの? どうしてそう思ったの? 根拠は? 絶対に間違いない? 私には自覚がないんだけど、魔法ってそういうものなの? それに風魔法が使えるなら、どうして風属性じゃないの?」
「ちょっ。ちょっと待ってください。落ち着いて。ええと、ええ? 風属性じゃない? それってどういうことですか?」
このヤロー! こっちが聞いてんだよ!
「質問してんのはこっち。まずはあなたが答えなさい」
「いや、その前に教えてください。風属性じゃないってどういうことですか? 風属性じゃなきゃ、何の属性だったんですか?」
これ……コイツに言ってもいいのかな?
何かものすごく重要な秘密事項の気がしてきたんだけど。
「ねえ。誰が何の属性とか、気軽に話していいものなの? 秘匿するものだったりしない?」
「は? 普通に話しますけど? そもそも魔法を見れば一目瞭然じゃないですか」
まあ、そうだよね。
「そう」
「そうですよ」
「ふーん」
「……で?」
「『で』?!」
『で?』っていう聞き方がある? 仮にも上司に向かって!
「もったいぶらずに教えてください。お嬢は何の属性だったんですか?」
「……のよ」
「え? よく聞こえません」
「だから! 無属性だったのよ!」
「…………‼︎」
あれ? やっぱりそんなに衝撃的なことなの?
アルフレッドが目を見開いたまま固まっちゃった。
「……で? どうして私が風魔法を使ったと思ったの?」
「いや……その……え? そんな……」
「どうして私が風魔法を使ったと思ったの!」
「そ、それは。あの場にいた全員に確認したのですが、誰も魔法を使っていなかったので。そうなると、一番可能性が高いのがお嬢ではないかと。教会で授かった魔法を使いたかったんだろうと」
まあ、そんなところだろうとは思ったけれど。
「それで? 私は風属性じゃないから風魔法を使えないけど? そうなるとどうなるの?」
「いや、そうなるとほんと……ちょっと待ってください」
「あとさぁ。それ見て」
「は?」
「そこのソファーとローテーブル」
「家具がどうかしたのですか?」
「さっきまでなかったの」
「はあ?」
もー。鈍いヤツめ!
「目が覚めたら置いてあったの」
「はあ」
「あのね。私が寝ている間に運ばれたとか、そういうんじゃなくて! なんていうか、その……えーと。小人さんとか、見かけなかった?」
「……」
「いい。なんでもない」
「……お嬢」
だーかーらー!
そんな可哀想な子どもを見るような目で見ないでよ!
「もういいから、出て行って!」
あーイラつく。
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