14 元ベンベルク領に到着
領地というからには、「こっから領内ですよ」と分かるような塀だったり、門だったり、とにかくそれらしき境界線があるのだと思っていた。
「お嬢。到着しましたよ」
そんなものは幻想に過ぎなかったらしい。
だだっ広いところを走っているなーと思っていると、突然馬車が止まり、アルフレッドがそう言って馬車のドアを開けた。
一応、我が領地への最初の一歩なので、自分の足で降り立ちたい。
なので、手を差し出したアルフレッドを無視して、一人で降りた。
くっ……!
ステップの一段が何気に高い。幼女には辛い段差。
本当は勇ましく駆け降りたかったのに、転ばないよう慎重に降りざるを得なかった。カッコ悪。
馬車は一軒の屋敷の前に止まっていた。
……え? えーと、え?
「ねえ、アルフレッド。まさかとは思うけど」
「そうですね。でも数人に聞いて確かめたので間違いないと思います」
「じゃあ、この屋敷が――私が暮らすことになる領主館なの?」
「はい」
はぁん!
この――こんな――オンボロ屋敷が?!
しかもちっちゃ! 二階建てだよ!
「とりあえず荷物を下ろして騎士たちを返さないと――」
「駄目よ‼︎」
「え?」
「『え?』じゃないでしょ! 外観がアレなのよ? 中がどうなっているか、大体想像がつくでしょ? 埃まみれのところに荷物を置かせたりしないわよ!」
「えぇぇ」
「ちゃんと騎士に言いなさいよ? もし荷物を汚そうものなら、私の財産を傷つけた罪で罰してやるから!」
「えぇぇ」
ったりまえでしょ‼︎
私、こう見えても不潔は嫌いなの! ズボラだけど不潔は嫌なの!
「マイア! リミ!」
「は、はい!」
「はい。なんでしょうか?」
おっかなびっくりのマイアがつんのめりそうになって駆け寄ってきた。
道中イチャイチャしていたリミは余裕だな。
「あなたたち、お掃除メイドでしょ? とりあえず私の部屋と応接室と厨房の掃除をしてちょうだい。綺麗になったところから荷物の搬入を許可するわ」
「お嬢。そのためにもまずは屋敷の中を確認する必要があります。まずはお嬢に自分の部屋を決めてもらわないと、どこを掃除していいのか分からないでしょう?」
確かに。
気は進まないけど。
「そうね。じゃああなたが先に入りなさい。主寝室は一番いい部屋なんだから、二階の角部屋でしょう?」
「主人用と夫人用とありますからね。お好きな方を選んでください」
「分かったわ」
そっか。普通はそうか。領主とその奥方が住む屋敷だもんね。
「マイア! リミ! アルフレッドについて行きなさい。私は一番最後を行くわ。部屋に入ったら全ての窓を開けるのよ」
「は、はい」
「かしこまりました」
人が住まないと家は傷むんだよね。
一体何年放置されていたんだろ……。
最初に私の部屋を見に行くかと思ったら、アルフレッドは一階を見て回り始めた。
ちっ。
厨房はそれなりの広さがあった。壁面が棚になっているのはパントリー?
テーブルもいくつかあるので、調理台にもメイドたちの食事にも使うのかもね。
うーん! それにしても埃が溜まっているよ!
はい、換気!
私の怒気を察したのか、メイド二人が手分けして窓を開けていく。
「ここの掃除は後でいいわ」
「応接室は一階にあると思うので、先にそちらをご覧になりますか?」
「そうね」
ついでに見ておくか。
アルフレッドの貴族の勘なのか、領主館がそもそも同じような造りなのか、彼は廊下を歩いて行った先のドアを開けて一発で探し当てた。
「ここのようですね。さすがに応接室は掃除だけではどうにもならないかもしれませんね。最低限、壁紙は張り替えないと……」
確かにね。でもこの部屋を使うような客人って来るのかな?
メイドたちが部屋に入るなり窓を開けたので、私は何も言わずに部屋を出る。
アルフレッドも苦笑しながら階段へ向かう。
うへっ。
階段も汚れている。絨毯が敷かれているけれど、なんか足跡がつきそう。
「お嬢は……午前中明るい方がいいかもしれませんね。東側の部屋でいいんじゃないですか?」
私がお子様だから?
夕方から夜にかけても稼働する大人なら西側なのか?
アルフレッドに先頭を任せてしまったので、ついて行くしかないんだけど。
東側の部屋は夫人用だったみたい。
調度品が女性の好みそうな色合いだ。
でもなー。なんか、こう、座面の綿の内部にまで目に見えない汚れが浸透しているみたいな――この部屋の家具は、ちょっと現役復帰が難しそうに見える。
ハンディークリーナーで埃を吸い取って丁寧に拭いたとしても、使うのはちょっと嫌かも。
でも家具は持って来てないから、ある物を使うしかないんだよねー。うぅぅぅ辛い!
「この部屋にするわ。まずはこの部屋に清潔を取り戻してちょうだい。私は馬車で待っているから」
アルフレッドが露骨に、「はぁ」とため息をついているけれど、知るもんか!
「じゃあ、そういうことだから」
捨て台詞を吐いて一人馬車に戻ることにした。
エントランスから私が一人で出て来たことで、騎士や御者たちが不安気な表情を見せた。
彼らの指揮官は実質アルフレッドだから、身動きが取れないんだよね。
へっ。知ったこっちゃないね。
私が馬車に乗るのだと察した御者が、もう一度ステップを出してくれた。
「アルフレッドが呼びに来るまで私は中で休むわ」
「……? かしこまりました」
御者が、意味が分からないと一瞬だけポカンとしたけれど、私の眼光に屈した。
「お嬢!」
びっくりしたー‼︎
私、寝ちゃってた?
「お嬢! え? 寝てたんですか? あれ? じゃあお嬢じゃないのか……」
馬車のドアを開けて興奮気味に覗き込んできてアルフレッドのテンションが、一気に下がっていく。
何? 何なの?
「ちょっとうとうとしていただけよ。それよりも掃除は済んだの?」
「そっ、それが! とにかく見てください。さあ!」
あっ。私を抱えて外に出そうとしている。
それ、嫌だから!
「出るから、どきなさい!」
自分で出るから邪魔! とばかりに、顔に蹴りを入れる動作を見せたら避けてくれた。
精一杯厳しい顔を作って、一歩一歩確実にステップを降りる。
地面に降り立って前を向く――と景色が変わっていた。
さっきと同じ場所に立っているはずなのに、目の前の風景が違う。
……………………へ?
何で? どうして? 何がどうなったの?
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