11 八歳の見極めの儀③
「ひぃぃ。す、す、す、すみません。ごめんなさい」
「あんた、誰? もしかして神様なの?」
「わ、わ、私は――」
「私をこの世界に転生させた張本人?」
「ち、ちがっ、違います! 私はこの世界の女神なので、私じゃありません」
「ふーん。まあいいけど。で?」
「……で?」
イラつくなー。
「聞いてたんでしょう? 私は何の魔法が使えるの? スキルは?」
「ええと、憲法に書いてある文化的な暮らし……生存権……でしたっけ?」
「おっ! 生存権を知ってるの? じゃあ話が早いじゃん。それ、叶えてちょうだい。とにかく早いところ望みを叶えてよ!」
「ひいっ」
うん? 何か今、頭の中をぐにゃりと何かが通り過ぎていったような……?
「えっと。あなたの望みは分かりました。前世と同じ暮らしを、その――マンション? での生活水準をそのまま――」
「え?」
「ひっ」
いちいちうるさいな。何なの? 神様が「ひぃ」とか「ひっ」とか。
「マンションくれるの? やったー! あ。ちゃんとペット可のマンションでしょうね?」
「ひぃっ」
「ちょっと! それ、『YES』ってこと? スキルはそれに決まりってことね?」
「……建築?」
は? 疑問系?
「……使役?」
は? だから疑問系なのはどういうこと?
「あのさ――」
女神に詰め寄ろうとしたら、神官の声が物理的に耳に届いた。
「無事に終えられたようですね。よろしゅうございました」
神官が話しかけてきたせいで、女神との会話が終わっちゃったみたい。
でも、どうして無事に受け取ったってわかるの?
「紅蓮の業火!」
ま、出ないか。火属性じゃないもんね。
あれ? 結局私の属性は何なの?
アイツ! 属性を知らせる前にいなくなりやがった。
「神官!」
「はい?」
神官は私の咎めるような言い方を不思議がっているけど、ちゃんと説明してよね。
「どうして無事に終わったって分かるの?」
「それは――コホン。神様の声をお聞きになっている間は、皆様のお体がぼんやりと白い霧状のものに包まれますので」
へえ。さっきの会話中に私もそういう状態だったってことか。
「そう。あれが神様との会話だったのね。でも私の属性をちゃんと言葉で伝えてほしかったわ」
「え? それはどういう――! ま、まさか属性が……」
「何?」
「お嬢様は――む、無属性のようです!」
「はあ!?」
何だとぉ!!
「神官! もう一度神様と話すにはどうしたらいいの?」
「え? あ、いや。その。そういった事例は聞いたことがありません」
「あなたのせいじゃないの? さっき私に話しかけた時、まだ会話中だったんだけど。神様から属性を告げられる前に会話が終わったから無属性になっちゃったんじゃないの?」
「そ、そ、そのようなはずが。私はちゃんと霧が晴れてからお声をかけましたし――」
「あぁん? じゃあどうして私が無属性なのよぉ!!」
「わ、私に言われましても――神々のお考えは私どもには――」
「キィィィィ!!」
その後、神官がドアの向こうのアルフレッドに泣きついて、私は無理やり馬車に乗せられた。
あんまり覚えていないけれど、アイツ、お姫様抱っこじゃなくて片手で横脇に抱えて運んでいた気がする。
私は癇癪を起こして、手足をばたつかせて結構な悪態をついていたと思う。多分だけど。
もし私が火属性だったなら、些細なことでスイッチが入って、怒りに任せていつか世界を焼き尽くしていたかもしれない。




