10 八歳の見極めの儀②
馬車の中で一人になると、不意にシャーロッテの記憶が降ってきた。
そうだ‼︎
シャーロッテは八歳の誕生日をとても楽しみにしていた。
なぜなら八歳になると、魔法属性の『見極めの儀』に臨み、身に宿る魔法の色が定まるからだ!
シャーロッテちゃんは火魔法をぶっ放すことを楽しみにしていたからなぁ。
あーでも、シャーロッテちゃんがシャーロッテちゃんのまま大きくなっていたら、ヤバかったかも……。
平手打ちがグーパンになるどころか火の玉を飛ばそうだなんて、一発ぶっ放したが最後、前科者になっちゃうんじゃない?
私でよかったよ。人に向けて放ったりしないからね。モラルがあるからね。
教会の前で馬車が止まった。
いよいよだ!
護衛騎士を引き連れ、公爵家の紋章の馬車から降りた私を、教会側はVIP待遇で迎えるらしい。
入り口の前にずらりと神官が並んでいた。
「お待ちしておりました」
一番大きな帽子を被った神官がそう言うと、残りの神官が一斉に首を垂れた。
「よろしく頼むわ」
あっ。なんか自然と不遜な物言いが出ちゃった。
「ではご案内いたします」
教会の中に入ると、奥の祭壇のようなところに、二メートルくらいの彫像が四体並んでいるのが見えた。
四大属性の神様の像だ。
シャーロッテが用があるのは、その中の火を司る女神様だ。
「どうぞこちらへ」
神官が祭壇横のドアを開けた。
「護衛の皆様はこちらでお待ちくださいませ」
そうだよね。神聖な儀式だもんね。確か、『神様との一対一の対話』を行うんだったっけ?
シャーロッテもうろ覚えらしい。
儀式のための部屋の中央には、外に並んでいた彫像のハーフサイズくらいの像が四体、背中を合わせるようにして四方に並んでいた。
パタンとドアを閉める音が聞こえたので振り返ると、案内役の神官一人だけがいた。
「フィッツジェラルド公爵令嬢。まずは無事に八歳を迎えられましたこと、お祝い申し上げます。また、聖なる儀式を当教会でお受けいただけますこと、誠に光栄に存じます」
神官は深々とお辞儀をして、更に続ける。
「既にご存知かと思いますが、お心に従って、呼ばれた神様の御御足に手を触れてくださいませ。そうすれば、ご自身の内にこれまでに感じたことのない力を感じることができるはずです。まれに神様からの神託を受けられる方もいらっしゃいます。さあ、どうぞ」
神官に返事もせずに、なぜかツンと顎を上げてしまう私。
細胞にシャーロッテの意思が宿っているのか?
火を司る女神様のお顔はいろんな本の挿絵で見ていたから、すぐに分かった。
女神様の像の足の甲に右手を伸ばす。
触った途端に眩い光に包まれたりなんかして……なんてことを想像しちゃうけど、そんな話は聞いたことがない。
ふう。では行きます! 心の中でそう呟いてから、そうっと触れてみる。
……………………。
……………………?
どゆこと?
何がどうなったら完了なの?
ずっと女神様の足に触れたままだったのがいけなかったのか、神官に咳払いをされてしまった。
「お嬢様。皆様、最初はご希望される属性の神様の元へ行かれるのですが、賜る属性が、ご自身の希望する属性とは限らないものです。もしかしたら稀に聞く『スキル』を授かるかもしれません。さあ。どうか、集中なさってくださいませ」
くっ。あまりの屈辱に昔のシャーロッテの癖で右手を振り上げそうになる。
こらこら。我慢だよ我慢。
どうやらピンと来なかったのは、火属性ではなかったということらしい。
シャーロッテ的にはガビーン‼︎ と立ち直れないほどショックを受けている。
あれ? でもおかしくない?
学園の卒業式で、「全員道連れにしてやるっ!」って爆死するんじゃなかった?
火魔法が使えないシャーロッテじゃ、爆発は起こせないんじゃ……?
やることなすこと、「悪魔かよ!」って言われていたシャーロッテ。
キャラ紹介のところに、『真っ赤な髪の毛から血が滴る様はブラッディサタン』とかなんとか書いてあったような記憶が……。
この状況って――もしかして私のせいなの?
そもそも公爵家を追放されるところからおかしいよね。ストーリーが謎改変されてる。
おっと。今はそんなことより、正しい属性を見つけないと。
『お心に従って』ってどうすればいいんだろ?
耳を澄ましても何も聞こえないし。
うーん。
しょうがないなー。もう順番に触ってみよう。
私が時計回りに次々と神様の足に触り始めたので、ずっと澄ましていた神官が初めてギョッとした顔を見せた。
いやー、すまん。すまん。
すぐに終わらせるので、もうちょい待ってて。
……………………。
……………………‼︎
どゆこと?
四体とも全部触ったよ?
全部無反応だったよ?
何で?
そもそもどういう反応が起こる訳?
ブチギレていいかな? せめて心の中でなら。
「ちょっと神様! 見てるんでしょ? 説明してよ! 早いとこ神託を降ろしなさいよ‼︎」
属性を教えてくれるだけでいいはずなのに。仕事をしろよなー。
「神様? 聞こえていますよね? 私を転生させた神様ですか? 責任を取ってくれるんでしょうね! 改めてよくよく考えれば、何なの、この世界? 文化レベルが低すぎ! 使用人がいたから何とか生活できていたけど、これからどうなるの? ってか、他人任せじゃこの先困るわ。たとえ一人で暮らすことになっても、ちゃんと衣食住が充足していて健康で快適に生活できるスキルをもらわなきゃ困るわ。私の元の生活水準、知ってるよね? 神様なら分かるよね? 憲法に書いてある『健康で文化的な最高の暮らし』だっけ? それを保証してくれないと! そっちが勝手なことをしたんだからね? 電化製品の代わりにメイドがいるみたいだけど、本来の、一人きりでも質を保ったまま生活できる力がなきゃ困るでしょう! こんな原始的でアナログだらけの、エアコンもエレベーターもない世界に転生させるなんてね! あー、言っている内に段々腹が立ってきた。マジでムカつく‼︎ 魔法が使える世界なら、眠っている間に小人さんが片付けてくれるとかいう例のやつがあると助かるんだけど! 一度は言ってみたいわ。『あっ、小人さんだ! きっと小人さんがやってくれたんだ!』っていうベタなセリフをね‼︎」
あー、もう。喋り始めたら止まんなくなっちゃった。
ストレス溜まってたんだねー。
そりゃあ溜まるよねストレス。自分で言うのもなんだけど、無理もないよねー。
それよりも――ちゃんと抑制できていたかな? まさか声に出していないよね?
そんな心配をしながら神官の顔色を伺おうとした時、なんか本当に神様の声が聞こえてきた。
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