1 嘘だ。絶対嫌だ。こんな悪魔みたいな幼女に転生なんて
新連載です。
よろしくお願いいたします。
「お嬢様。今日はこちらのドレスでよろしいでしょうか?」
侍女が手に持っているのは私の髪色と同じ真っ赤なドレス。
いずれ火魔法を操る予定の私に最も相応しいドレス。
後少しで八歳の誕生日を迎える。
八歳になると教会で魔法属性の『見極めの儀』に臨み、この身に宿る魔法の色が定まる。中には稀に特別なスキルを授かることもあると聞く。
私は絶対に火属性のはず。お父様が火属性で赤い髪だもの。
あー待ち遠しいわ! 早く教会に行きたい! 誰よりも激しい炎で天を焦がしてやるわ!
「お嬢様?」
「ええ。問題ないわ」
今日は、この国で我がフィッツジェラルド公爵家と対をなすローマイヤー公爵家が主催するお茶会に参加する予定。
「これで今日もお嬢様が一番目立つこと間違いないと存じます」
「まあ当然よね」
赤いドレスを身に纏い、上機嫌でローマイヤー公爵邸を訪問した。
「本日の会場は庭園でございます」
ローマイヤー公爵家の執事に案内され庭園に到着すると、先に来ていた客たちが散らばって花を眺めていた。
ふーん。
まあ、こっちから一声かけてもいいんだけど?
と思っていたら誰かが私に気が付いたらしい。そしてその気付きは伝播していき、認知した皆がサッと両脇に整列して頭を下げた。
とってもよろしくってよ。
いざ目前に開けた道を行こうとした時、あろうことか、右側に並んでいた一人が顔を上げて私を見た。
はぁん?
「ちょっとあなた! 何様のつもりなの? いつ私が頭を上げていいって言った? この私をそんな不躾に見るなんて、どういうつもりなの?! このフィッツジェラルド公爵令嬢のシャーロッテ様に向かって!! あら? あなた……見ない顔ね」
ほんと誰なの? この生意気な子は?
「ひっ」と顔を逸らせたので、右手でその子の顎を下から掴んで私の方を向かせた。
ふうん。金髪に青い瞳ねぇ。よくある顔だこと。
あら、嫌だ! 目と鼻の穴から汚い水が流れてるじゃないの!
「うわっ。私の手を汚す気?」
顎を離した手でそのまま頬を打ってやった。
「シャーロッテ!」
この私の名前をそんな風に――あら? お父様? どうしてここに?
「シャーロッテ……お、お前……何を……今、何をした?」
大袈裟ね。
「お父様。私はわからせてやったのですわ! このお行儀の悪い子に――」
「黙れ! 黙るのだ!」
「……? この子が悪いのです。それよりこの子、どこの家の者なのかしら。今日のお茶会は高位貴族の家の令嬢しか招待しないと聞いていたのに」
「いい加減にしないか……やめろと言っているだろう」
お父様の様子がおかしいわ。どうなさったの?
「この――こちらにいらっしゃるお方は、フラッペ王女殿下だ。何てことをしてくれたんだ! この、この馬鹿者がっ!」
ぐふぉ。
突然衝撃が走り体がふらついた。
口の中が痛い。血の味がする。
え? お父様に引っ叩かれたの? この私が?!
頬だけでなく後頭部を鈍器でガツンと殴られたように感じるのは何故?
あーもう駄目……体がふわふわする。それに何だか身体全体が燃えるように熱い。
王女殿下……いや、「フラッペ」という変わった名前。それに私の「シャーロッテ公爵令嬢」……あ、ダメおしで「ローマイヤー公爵令嬢」もそうだ。
それって――それって――確か、ざまぁ小説『生まれ変わってもまた君と』の登場人物じゃないのぉっ!!
◇◇◇ ◇◇◇
年末に久しぶりに家族揃って新幹線で祖父母の家に向かっていた時、高校生の妹が持ってきていた小説をぶんどってパラパラとめくっていた。
妹によれば、市井で育ったフラッペ王女が、悪役令嬢の嫌がらせにも負けず、『ヒロイン』としてみんなから愛される流行りのざまぁ小説らしい。
私は最初の人物紹介のイラストと簡単な説明を見て、妹がこんこんと語る悪役令嬢のブチギレっぷりが気に入った。
「こっちの悪役令嬢の方が気持ちいいじゃない。やれやれー! もっとやれー!」
などと、面白半分にシャーロッテを応援していた。
『えぇぇ。お姉ちゃん、変わってるねぇ。この子、最後は「全員道連れにしてやるっ!」って叫びながら爆死しちゃうんだよ?』
『えー! 酷くない? シャーロッテが最強なんだから無双してもおかしくないんじゃない?』
『そんなラストある訳ないじゃん。ざまぁされなきゃダメじゃん!』
『チッ』
私……私の名前はシャーロッテ……えぇぇぇぇ!!
私、ざまぁ小説の中の悪役令嬢シャーロッテになっちゃった。
そして今……ヒロインを……………………あ……オワタ。
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