第2話 親の忘れモノ
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「あー…集積回路が逝ってますね。」
聡真は大型コンピューターの前に座り、そう呟く。
「あら、そうなの?よくわからないけれど、その、集積回路?は聡ちゃん直せるの?」
依頼主のおばあちゃんが、横で作業を見守っている。この人は父の代からうちの店を利用してくれている。かなり懇意にしてくれていて、昔から依頼もよく貰っていた。
「大丈夫です。ちゃんと原因っぽいパターンは事前のデータでわかってたんで。すぐ直します。」
聡真は分解したパーツを新品のものに交換していく。
「そう、よかったわ。」
おばあちゃんの顔が笑顔になる。彼女は作業する聡真の姿に彼の父親を重ねていた。
「聡ちゃん、本当にありがとうね。聡ちゃんのお父さんも、こうやって昔よく直してくれたのを思い出すわ。」
聡真は作業をしながら、雑談に付き合う。
「まあ、やってることは親父の真似ですけどね。」
そう言いながらも、聡真は工具を手にした瞬間、父との記憶がふと蘇る。
幼い頃、父が同じように機械を直していた姿を、彼は何度も見てきた。
そして今、自分もその役割を担っているのだという事実に、どこか誇らしさを感じている自分がいた。
「でも、こうして頼ってもらえるのは嬉しいですよ。」
お茶を飲みながら、横でおばあちゃんがぼやく。
「この歳になると、もう新しい業者さんを探すのも一苦労だから。本当に助かるわ。」
この人の家に来るといつもこんな感じだ。上層の人たちのことは知らんが、他の人は感じが悪いのが多いのだとか。
聡真はおばあちゃんの話に付き合いながら、作業を進める。依頼主と話しながら修理をやるというこのやり方。聡真が父親から最初に教わった仕事の基本だった。
「目は見なくていい。だが、耳は常に相手に傾けろ。俺達が相手にしているのは機械だが、その背後には必ず人が居ることを忘れるな。」
聡真の父親はことあるごとに、それを口にしていた。
聡真がパーツを交換している間も、おばあちゃんは続ける。
「最近、ちょっと変なことが増えてきたのよねぇ。ガス爆発もそうだし、昔のようにはいかないわ…。」
「そうですか?」
「ええ。一つ一つは大したことはないのよ。でも、なんかこう、気づくでしょ?この街も、少しずつおかしくなってきてるんじゃないかって…。」
聡真はふと手を止め、少し考え込む。おばあちゃんの言葉に、なんとなく自分が感じていた違和感が重なる。
「まあ、あんまり気にしなくてもいいかもしれないわね。けど、聡ちゃんも気をつけてね。」
「そうですね、ありがとうございます。」
その後も作業はつつがなく進んだ。街の異常という影が、彼の心に近づきながら。
作業を終えた聡真はおばあちゃんの家の玄関で、次の依頼への準備をしていた。
「そうだわ。聡ちゃん、この間うちの蔵を取り壊したんだけどね。懐かしい物が出てきたのよ。」
そう言いながら、おばあちゃんは何かを取りに戻っていく。
「?」
聡真は何が来るのか、皆目見当もつかなかった。
おばあちゃんが戻ってくると、その手には長物を持って戻って来る。
「これね。あなたのお父さんのものなの。」
そう言って差し出されたものは旧式の戦術刀だった。
「昔、木の剪定の時借りたのよ。ここって鋭い刃物中々手に入らないでしょ?あの時は助かったわ。」
その鞘にはうちの苗字が彫られていた。
「親父の…」
聡真は、おばあちゃんの手にした旧式の戦術刀をじっと見つめた。鞘に刻まれた「高峰」の文字が、彼の胸に何かを揺さぶる。
幼い頃、父親がこの刀を持っていた姿をぼんやりと覚えている。機械を修理することが仕事の主だった父だが、この刀を手にしていた時の父の背中には、少し違う緊張感が漂っていた。聡真にとって、その姿は記憶の片隅にしまい込まれたままだったが、今こうして目の前にある刀が、その記憶を鮮やかに蘇らせる。
「あなたのお父さんが、戦術刀を持ち歩く姿はあまり見なかったけれど、何かあった時はこれを使っていたのよ。これ、思い出すわねぇ。」
おばあちゃんの言葉が、昔の風景をまるで今のように彼の脳裏に映し出す。機械を直す父と、時折見せたこの刀を携えた姿。それがどれだけ重要だったのか、当時は理解できなかった。
「ありがとうございます、預かりますね。」
聡真は丁寧に頭を下げ、戦術刀を受け取った。何の気なしに受け取ったが、その重みは思った以上にずっしりと感じられた。これはただの刃物ではない――彼の中でそんな思いが浮かび上がる。
「本当にありがとうね。お父さんもきっと喜んでいるわよ。」
聡真は微笑みながら、おばあちゃんにもう一度礼を言って、刀をバッグにしまった。次の修理依頼に向かう準備を終え、彼は再びバイクにまたがる。
だが、エンジンをかけた時、何かが彼の中で変わり始めているのを自覚していた。父の遺物が手元に戻ってきたことで、彼の心の奥に眠っていたものが、再び目覚め始めたのかもしれない。
「親父の刀…」
聡真はその思いを胸に、バイクのアクセルを開け、次の依頼へと向かっていった。
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