変わらぬ日々
翔也との日々が少しずつ積み重なり、私の心には彼に対する信頼が育まれていた。何気ない会話や、彼の優しい笑顔、そっと手を握ってくれる温もり――そのすべてが、私にとってかけがえのないものだった。だが、それは表面だけだった。
ある夜、いつものように翔也の部屋で過ごしていたとき、ふと違和感を覚えた。彼の視線がどこか遠く、言葉に少しだけ不自然な重みがある気がした。
外は、薄い灰色の雲が空を覆い始め、夜がゆっくりと降りてきていた。窓の外に目を向けると、街灯のぼんやりとしたオレンジ色の光が、冷たい雨の予感を漂わせていた。
翔也『なんか最近、仕事忙しいよな…。』
彼はいつものように、日常の一言をこぼす。その言葉に特別な違和感はないけれど、どこか私を遠ざけているように感じた。
美紅『…うん、そうだね。でも翔也がいてくれるから頑張れてるよ。』
自然と口に出た言葉だったが、その瞬間、彼の表情が一瞬曇ったように見えた。まるで、何か重いものを背負っているかのように。けれど、それも一瞬で、彼はすぐに笑顔に戻った。
翔也『そっか、俺もそう思うよ。』
彼の声は優しかったが、その言葉にわずかな空虚さを感じた。その夜、外からぽつぽつと小雨が降り始め、雨の匂いが窓からかすかに漂ってきた。湿ったアスファルトの香りが、少しだけ胸を締め付けるような感覚を引き起こした。
次の日、私はたまたまEdenの裏口近くで翔也の声を聞いた。背中がぞくりとする。陽菜の声も混ざっていた。
陽菜『もう少しでしょ、あの子も気づいてないみたいだし。翔也、ちゃんとやってよ。』
翔也『わかってるって。けどさ、なんかあの子さ…本当はこんなことしたくねぇんだよ。』
陽菜は低い声で笑った。彼女の笑いは鋭く、氷のような冷たさを帯びていた。
陽菜『なに、それ?情が移ったとか言うんじゃないでしょうね。あんたは私の言うこと聞いてればいいの。でしょ?』
心臓が一瞬で凍りつく。外の雨は次第に強くなり、打ち付けるような音が響き渡った。
その雨の匂いが鼻をつき、胸がざわめいた。心の中にあった信頼が、一滴ずつ溶けていくような感覚。翔也の言葉がまるで鋭利なナイフのように私の胸に刺さった。
――私に注いでいた愛情は、嘘だったの?
背後で二人の話し声が遠ざかっていく。雨音がその冷たい真実を容赦なく叩きつけてくる。体が動かず、その場に立ち尽くしていた。
陽菜はずっと翔也を操っていたのだ。彼の優しさも、彼の温もりも、すべては彼女の策略だった。私を陥れるための芝居だったなんて、どうして今まで気づけなかったのか。翔也が優しく抱きしめてくれた夜、すべてが嘘だったなんて。
外に出ると、冷たい雨が私の髪と肌を濡らし、湿った土と雨の匂いがさらに強く漂っていた。その匂いが私の心をかき乱すように、まるで逃れられない現実を突きつける。
翔也の言葉と陽菜の冷笑が、雨の中で消えることなく耳に残っていた。




