10年後
結婚した悠と沙希子。
苗字は悠が婿養子になり、橋本悠と沙希子である。
二人は三人の子どもに恵まれた。
一男二女で、一番上の子は結婚した翌年に生まれた。
9歳の女児を筆頭に、7歳の女児、3歳の男児である。
結婚当初住んでいた賃貸マンションが手狭になったことで、今は沙希子の両親と同居している。
同居を悠から申し出た時に、沙希子の父が実家を二世帯住宅に建て替えてくれた。
「悠には感謝しかない。」と沙希子も両親も思っている。
悠は計画通りに全て揃えていた。
10年前、結婚した時から決めていたことを……。
10年を祝うだけではなく、記念日にするために……。
沙希子の両親の協力を得て、今日、行うのだ。
用意したバラの花束を持って帰宅した。
玄関で「ただいま。」と言っても誰も出て来ない。
不思議に思った悠を待っていたのは………。
リビングが暗かった。
あれっ?っと思って「沙希子?」と妻の名を呼ぶ。
すると、リビングが明るくなった。
そこに家族が居た。
悠の両親も兄夫婦も妹夫婦も居た。
富田優一夫婦まで居た。
「えっ? 何? これ………。」
「友田悠さん、貴方は橋本沙希子を10年間も大切にしてくださいました。
その感謝を込めて、ここに表彰状とお祝いの品を贈ります。
妻 沙希子 」
「お父さん大好きです。はるか。」
「大好きです。あいな。」
「だいすき。しゅんた。」
バラの花束を妻に贈る前に、妻と子ども達から贈り物を貰った。
妻から貰う時に、バラの花束を妻に渡した。
「ありがとう。」
抱き付いてきた息子を抱き上げた。
息子を友田の母が代わりに抱っこすると言った後、息子を委ねた。
兄嫁が妻にベールを掛けた。
妻は白いワンピースを着ていた。
そして、橋本の父が妻をエスコートして、悠の前に連れて来てた。
まるで、バージンロードのようだった。
友田の父が神父のように……。
「友田悠、貴方は橋本沙希子を愛し敬い、その健やかな時も病める時も共に生きる
と誓いますか?」
「…………。」
「誓いますか?」
「はい。誓います。」
「橋本沙希子、貴女は友田悠を愛し敬い、その健やかな時も病める時も共に生きる
と誓いますか?」
「誓います。」
10年前のカフェウエディングではスーツ姿だった沙希子が、今、ウエディングドレスのようなワンピースを着てブーケを持ち、ベールで顔を隠している。
だから、友田悠なのだ。
今だけ旧姓なのである。
「やっと、晴れ姿を見せていだたきました。
沙希子さん、ありがとう。」
「お義父さん、お義母さん、私こそありがとうございます。」
「悠君、ありがとう。」
「いいえ、お義父さん、お義母さん……。
こんな素敵な…… 本当にありがとうございます。」
「さぁ、何泣いてんだよ! 悠!
キスしてないぞ!」
「そうよ。ベールを上げてキス!」
何故か子ども達まで「キス。キス。」と囃し立てた。
「否、子どもの前で………。」
友田の母が抱いていた息子が「お父さん!」と呼ぶので悠は息子を抱いた。
「お父さん、ちゅう して!」
「えっ?」
「ちゅう!」
兄夫婦と妹夫婦が悠と沙希子を近づけさせた。
その時、息子が悠にキスをした。
「ちゅう~!」
どうやら、母が息子に「お父さんに抱っこして貰って、ちゅう~しようね。」と言ったそうだ。
笑顔に包まれたその時、悠は息子を下ろして沙希子のベールを上げて、そっと……
あの初めての口づけと同じ優しさの口づけだった。
幸せだった。
この10年、これから先の長い時を二人で乗り越えたいと改めて誓った瞬間だった。
沙希子のサプライズに喜びの涙を流した悠が、サプライズを行う番だった。
沙希子の前で跪き、沙希子の手を取って言った。
「沙希子、これからも俺の妻で居てください。」
そう言って、沙希子の指にダイヤの指輪をはめた。
沙希子は泣きだしてしまった。
「沙希子、返事して!」
「はい。私を妻で居させてください。」
「ありがとう。」
「それで、新婚旅行が出来なかったので、両家の両親のご協力により、明日からエ
ーゲ海へ行きます。
遅すぎるけど、新婚旅行だ!」
「嘘………。」
「ホントだよ。」
「遅すぎるぞぉ~。」
「煩い! 優一。」
「否、優一の言う通りだよ。遅すぎるって……。」
「兄貴……。」
「でも、しないよりはマシじゃない?」
「もう、怒るぞ!」
「妹のくせに?」
「アハハ……。」
翌日、子ども達を橋本と友田の両親に預けて……。
橋本家に友田の両親が泊って4人仲良く孫育てをする1週間なのである。
そして、沙希子を連れて二人だけで旅行に行ける喜びを悠は感じていた。
沙希子は愛されている喜びを感じていた。
そして、沙希子は心の中で手を合わせていた。
「麻美さん、私たちを見守ってくださり本当にありがとうございました。
貴女の存在が私にとって辛かった時もありました。
いつも比較されるかもしれないという怖さがありました。
でも、それは生きているからこそ感じるのだと……。
それに……麻美さんのことを一途に愛したあの人だから……
私は好きになったのですもの。
これからも私たちを見守っていてください。」
「どうした?」
「ううん。あのね……。」
「何?」
「大好きよ。」
「えっ? 今なんて?」
「もう……。」
「もう一回、聞こえなかったから……。」
「聞こえてたでしょ。」
「否、聞こえなかった! なんて?」
「もう………だいすきよ。」
「もう一回。」
「もう……嫌!」
「あぁ~~っ、初めてだったのに……録音してなかった……。」
「もう嫌だ……。」
「大好きなんだろう?」
「もぉ~~っ。」
結婚して二人で過ごした時間が、沙希子から「私なんか……。」という気持ちを忘れさせた。
悠が望んでいたことだった。
そして、悠の愛がそれを叶えた。
悠と沙希子のエーゲ海への旅は始まったばかり、エーゲ海から帰ったら、また日常が待っている。
短い夫婦二人だけの時間を楽しもう。
そして、二人の夫婦の旅はまだまだ続く。
その命が尽きる日まで………。




