お見合い
お見合いの話は親に話さないまま、当日を迎えた。
ホテルのロビーには上司とその奥様が待っていた。
「良く来てくれたね。今日は私の妻も一緒なんだよ。」
「はじめまして。妻の加奈子でございます。」
「はじめまして。橋本沙希子でございます。
いつもご指導いただいております。」
「部下の方々に嫌われていないといいんですけれども……。」
「嫌われてなどいません。」
「そうなんですね。安心しました。」
「何を言ってるんだ。先様をお待たせしてはいけない。
さぁ、行こうか。」
「はい。」
向かった先に取引先の部長とそのご子息が待っていた。
「今日は私の我儘を聞いてくれて本当にありがとう。」
「こちらこそ、うちの部下ですが、今日はよろしくお願いします。」
「橋本さんもありがとう。」
「いいえ、こちらこそ私などを気に掛けてくださり誠にありがとうございます。」
「誠一郎、こちらが話していた橋本沙希子さんだ。」
「はじめまして。刈谷誠一郎です。」
「はじめまして。橋本沙希子でございます。」
「父が無理を言い申し訳ありません。」
「いいえ、私には勿体ないお話でございます。」
「さぁ、後は若い二人に任せて、私たちは席を外しましょう。」
「そうですね。……では、橋本さん、先に帰るよ。」
「はい。ありがとうございました。」
「うん。」
「では、刈谷部長。私たちはここで失礼します。」
「うん。私も帰るよ。実は妻が今は実家に帰っていてね。」
「そうなんですか?」
「うん。妻の父がね。少し具合が悪くなったんだ。今から私は妻の実家に行くんだ
よ。」
「そうなんですか……。良くなれらるといいですね。」
「ありがとう。じゃあ、悪いけれど、ここで……。」
「はい。失礼いたします。」
大人の3人はその場を離れた。
刈谷誠一郎と二人きりになって直ぐに、誠一郎が口を開いた。
「申し訳ない。今回のこと、父が無理を言ったんだと分かっています。」
「そんなことは……。」
「あるでしょう!」
「………。」
「この話は僕が断っておきますから、安心してください。」
「はい。」
「実は僕には好きな人が居るんです。」
「そうなんですか。」
「ええ、その人に告白する前に今回のお話だったので……
ご本人にお会いする日時も決まっていましたし……
本当に申し訳ない。」
「いいえ………それよりも告白が上手くいくことを祈っています。」
「ありがとう! いい人だ、貴女は……。」
「そんなこと、ありません。」
「貴女もいいことがありますように!」
「ありがとうございます。
それから、おじい様のご容態が良くなりますよう!祈っています。」
「ありがとう。今から向かいますね。」
「はい。」
「では、本当に直ぐですけれど、このまま失礼しますね。」
「はい。お気を付けて………。」
「ありがとう。では、さようなら。」
「さようなら。」
急に脱力感に見舞われた。
そのまま帰宅した。
そして、そのまま部屋に行きベッドで横になった。
⦅疲れた。いい人だったな。
告白が上手くいって想いが通じたらいいなぁ………。
頑張ってね。刈谷誠一郎さん。⦆
⦅私は……叶わない想いを抱き続けるのはやめなくっちゃ。
封印して消さなくっちゃ……。
消さなくっちゃ……。⦆
⦅あれっ? なんで涙なんか出てくるの?
平気だって、諦めるのは当たり前だって……
私みたいなモテない子は……
大丈夫。忘れられる。きっと………。⦆