理由
悠は沙希子の「結婚式をしたくない。」という言葉が耳から離れなかった。
仕事をしていても頭の隅にこびり付いて離れない言葉だった。
⦅俺が馬鹿だったんだな。
女性は結婚式を挙げたいと思い込んでいたのかな?
沙希子は違っていただけなのかな?
しなくていいのだろうか?
ご両親は沙希子に花嫁姿を見たいと思っておられるはず!
俺も見たい!
どういう形式にしても、二人の記念の日を作りたい。
どうすればいいのだろうか?⦆
退社してから駅に向かって歩いている時に、課長に会った。
「あら、友田君。」
「課長。 どうされたんですか? 本社で何か?」
「いいえ、プライベート。
元夫とこれから会うの。」
「そうなんですね。」
「どうしたの? なんか考え事?
話くらい聞くわよ。私でお役に立てるなら……。」
「お時間、いいんですか?」
「元夫と待ち合わせの場所でも良かったら……。」
「ご迷惑ではありませんか?」
「迷惑って思ってたら声を掛けないわよ。」
「すみません。」
「じゃあ、話を聞かせて貰うわね。」
「お願いします。」
本社の近くの店に入った。
落ち着いた雰囲気の店だ。
予約席に案内された時に、課長がボーイに言った。
「急で申し訳ないけれど、一人増えたの。本当にごめんなさい。」
「承知いたしました。もうお一人様は直ぐのご来店でございますか?」
「そうね、もうすぐ来ると思うわ。」
「承知いたしました。メニューは如何なさいますか?」
「三人とも同じメニューでお願いします。」
「承知いたしました。」
席に着いて直ぐに、もう一脚ボーイが持って来て、テーブルにももう一人分用意された。
「すみません。俺……喫茶店かなんかだと……。」
「まぁ、そうよね。
元夫が居ても、話を続けてね。気にしないでいいから……。」
「そういう訳には……。」
「いいのよ。気にしないでね。
さぁ、どうぞ、幾らでも聞くわよ。」
「はい。………あの……俺、さき……橋本さんに求婚したんです。」
「まぁ! おめでとう!」
「あの……女性は結婚式に憧れてると思い込んでたんですが……。」
「あぁ、それは人それぞれね。」
「やっぱり……。」
「橋本さんと…結婚式、挙げるのよね。」
「お話し中、悪いね。」
「あ……あなた……。」
「あ……いつも課長にはお世話になっております。」
「部下の方?」
「元・部下で、現・部下の婚約者なの。」
「そうなんだ。それは、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
「友田君、この人が私の元夫。」
「はい。今日は急にすみません。」
「いいえ。僕が居てもいいのかな?」
「はい。結婚式のことで相談してますので、ご意見を頂ければ幸いです。」
「僕も彼女も破綻したんだけどね。それでもいいのかい?」
「はい。」
「じゃあ、僕も伺おう。」
「お願いします。」
「友田君、続けて!」
「はい。その……結婚式ですが、彼女がしたくないって言ったんです。」
「えっ? 橋本さんが?」
「はい。」
「どうして……彼女、うちの課の後輩女子社員の結婚式で感動して泣いてたわよ。
その時に聞いたの。私……。
憧れる?って……はい!って答えたわよ。」
「そうなんですか?」
「他の理由って考えられないの?」
「彼女は、他の理由を言っていません。」
「そう。」
「食事が来たよ。食べながら話してくれるかな?」
「はい。」
「そうね。頂きましょう。」
「何かあるんだろうね。彼女の心の中で……。」
「友田君、二度目よね。」
「はい。」
「若いのに、二度目なのか。」
「はい。死別しました。」
「すまない。知らなかったこととはいえ……。」
「いいえ、何とも思っていません。」
「そのこと、知っているのかな? 婚約者さん。」
「はい。知っています。」
「……それかもね。橋本さんの性格なら……。」
「二度目が理由ですか?」
「うん。そう思うわよ。」
「どうして………。」
「単純に二度目の結婚式をさせて申し訳ない、とか……。」
「そうじゃないかもしれないな……。」
「そうよね……。
亡くなった奥様の存在かしら……。」
「…………。」
「時を経ても、親族にとって結婚式は覚えているからね。
上書きしてもいいのかなぁ?って考えてるかもしれないし……。」
「亡くなった奥様との比較?」
「うん。されるかもしれないよね。
そして、一番されたくない相手が、君だよ。
君にだけは亡くなった奥様と比較されるのが辛いのだと思うよ。
想像だけどね………。」
「橋本さんなら、両方ともね。きっと……。」
「話せないから、嘘をついてしまったんだろうね。」
「どうしたらいいですか?
俺、傷つけたくないんです。」
「それは、自分で考えないといけないわ。」
「その通りだよ。ただ、纏まったら話すことだよ。」
「はい。」
「さぁ、折角の料理だからね。美味しく頂こう。」
「はい。」
食事を終えて、悠が支払おうとすると、課長に止められた。
「無理に誘ったのは私だから、私が払うわ。」
「でも……。」
「そこは元・上司を立てて頂戴。」
「はい。ありがとうございました。
お先に失礼します。」
「お幸せに!」
「ありがとうございます。」
悠は今すぐにでも沙希子に会いたかった。




