涙の意味
父の話のお見合いは「沙希子がその気になったら」だ。
その気になっていないのだが、お見合いの話が降って湧いたのだ。
それも上司からだった。
仕事が終わり帰宅する前に上司に呼び止められた。
会議室に呼びだされたので、「私、何かしてしまったのだろうか……?」と不安が一気に募った。
友田悠から声を掛けられた。
「なんで? 呼ばれたか分かってるのか?」
「分かんない。………兎に角、行ったら分かると思う。」
「大丈夫か?」
「大丈夫!」
会議室のドアをノックする。
「どうぞ。」
「失礼します。
お呼びですか?」
「座って。」
「はい。失礼します。」
「あちらのフロアでは話しにくくてね。」
⦅何かしたんだ。私………。⦆
「はい。なんでしょうか?」
「君に会いたいという人がいらっしゃってね。」
「はい?」
「君、誰かとお付き合いしてなかったよね。」
「はい。」
「君をね。気に入ってくださったんだよ。」
「………?」
「取引先の部長さんがね。君のことを気に入ってくださってね。」
「………?」
「是非に、ご子息のお嫁さんにって仰ってるんだよ。」
「へ?」
「へ?って……。」
「すみません。ビックリしてしまって……。」
「そうか……。兎に角、一度お会いしたらいいんじゃないかと思ってね。」
⦅業務命令なんだ。⦆
「日時が決まっているんでしょうか?」
「そうなんだよ。」
⦅もう決定じゃん。⦆
「今度の土曜日の午前10時にね。ホテルのロビーで待ち合わせるというお話を受け
たんだよ。」
⦅やっぱ、決定じゃん。⦆
「承知しました。伺います。」
「ありがとう。助かるよ。お断りしてもいいんだよ。でもね、一回はお会いしない
とね。」
「はい。」
話を終えて会議室を出た瞬間、涙が出そうになった。
それが自分でも理解できなかった。
⦅嫌だ! お見合いしたくない!
友田君が好きなのに………
叶わない想いだけど、好きなのに……。⦆
溢れ出た想いに自分でも対処できずに居た。
「どうした? 何を言われたんだ?」
「……何でもない。」
「でも、お前、変だ。」
「何でも無いの。放っといて!」
友田悠に話しかけられたのに、そのまま振り切るように退社した。
もう、自分の心に嘘がつけなくなってしまっていた。