父と母
リビングには父が居た。
父の緊張が伝わってくる。
緊張していないのは母だけのようだ。
友田悠がリビングのソファーに座るよりも前に海の接待を受けていた。
海は人が大好きな犬なので、お客様を全力で出迎える。
お尻尾はブンブンと降り、コロンと寝転んでお腹を見せる。
今日も全力で友田悠を出迎えていた。
父はそれを見ていた。
少し嫉妬の炎が含まれているような視線だった。
海を離しながら、母が「座ってくださいね。」と促した。
「はい。」と答えつつ、友田悠は父に頭を下げた。
「初めまして。友田悠と申します。
沙希子さんと同期で、お付き合いをさせて頂いております。」
「初めまして、沙希子の父です。
お世話になっているようで……。」
「いいえ。そんなことはありません。
恥ずかしながら、僕は何も出来ていません。
僕の方こそ、沙希子さんの優しさで救われています。」
「そうですか……。」
「はい。」
「そう言って頂けると親として有難いです。
どうぞ、お座りください。」
「はい。失礼します。」
母は紅茶を出した。
「紅茶しか無いんですよ。」
「いえ、ありがとうございます。頂きます。」
「はい。どうぞ。」
「沙希子、良かったわね。こんな素敵な方……。」
「うん。」
「友田さん、初めてお会いして、こういうことを聞くのは変だと思います。
ですが、僕は父親なので娘のことを案じています。」
「はい。」
「貴方のお気持ちを教えて頂きたい!」
「はい。お答えいたします。」
「ありがとうございます。
……あ……沙希子との交際についてですが……
今後のことはお考えなのでしょうか?」
「今後とは結婚ですね。」
「結婚! お父さん、止めて! そんなこと聞かれたら……
友田君が困るから!」
「いいんだ。」
「良くないわ。友田君、もう帰ってもいいの。
後は私がお父さんに話すから……。」
「帰らないよ。僕が答えない限り僕の気持ちじゃないから……。」
「では答えて頂けるのですね。」
「はい。僕は沙希子さんとの将来を考えています。」
「それは?」
「はい。結婚を前提でお付き合いをしています。
ごめん。順番が違って……。
沙希子と夫婦になりたいって思ってるよ。」
「嘘っ!」
「本当の気持ちだから……嘘じゃない!」
「まぁまぁ……素敵!」
「友田君、まだ君の人となりを僕は知らないから……。」
「はい。」
「これからの二人の交際中に、君を知りたいと思っている。」
「はい。ありがとうございます。
知って頂くためにお話しないといけないことがあります。」
「お伺いします。」
「ありがとうございます。
僕は前に結婚していました。」
「えっ? 初婚じゃないの?」
「お母さん、黙って伺おう。」
「はい。」
「友田君、話さなくっても……。」
「いいや、ちゃんと話さないといけないことだから……
沙希子さんのお父さん、お母さん。
僕は大学を卒業し就職してから程なく結婚しました。
大学の頃から付き合っていた女性で、年上で離婚歴がある人でした。
とても愛していたので、結婚しました。
結婚は最初から期限が付いていました。
それは妻が余命宣告を受けた後だったからです。
プロポーズした時には、余命一年と宣告されていました。
結婚しましたが、その宣告通りに妻は逝きました。
ですので、二度目の結婚です。
沙希子さんと結婚出来ましたら、二度目の結婚です。
お話せねばならないことは、このことです。」
「辛かっただろうね。」
「はい。」
「うちの子でいいのかね。」
「はい。沙希子さんだから結婚したいと思いました。」
「ありがとう。」
「いいえ、聞いてくださって、僕こそ、ありがとうございます。」
「辛い話を……話してくださって本当にありがとう。」
父は急に頭を下げた。
「お父さん?」
「友田君。」
「はい。」
「この子は私たち夫婦にとって、大切な子なんだ。
どうか大切にして欲しい。
この通り、頼みます。」
「はい! 必ずお言葉を守ります。」
「よろしくお願いします。沙希子を……。」
「はい!」
沙希子は涙が出て止まらなかった。
ただ、一点の曇りがあった。
「無理させたのかしら?
本当は……無理させてしまって言わざるを得なかったのかしら?
もし、そうだとしたら……友田君に申し訳ないわ……。」




