土曜日のデート
沙希子は不安だった。
どの服を着て行けばいいのか分からない。
口から出る言葉は「どうしよう。」だけだった。
悩んで時間だけが経過して、もうこれ以上は家に居られない時間になって、やっと「いつもの通勤の服」を着て家を出た。
家を出る時に父が煩く聞いた。
「どこへ行くんだ?」
「誰と行くんだ?」
「何時に帰って来るんだ?」
その都度に母が父を制して、「お父さん、沙希子は高校生じゃありませんよ。」を繰り返す。
父を気遣う余裕がない沙希子は、支度が終わって直ぐに家を出た。
待ち合わせの場所で待っていると、友田悠がやって来た。
「かっこいいなぁ~……。」
そう呟いてしまった。
誰にも聞かれていなかった様子だった。
ホッとした。
「ごめん。待たせたね。」
「ううん。」
「行こうか……。」
「うん。」
二人で鎌倉に行った。
寺院を巡った。
桜が綺麗だった。
枝垂桜に八重桜……。
「綺麗……。」
「うん。綺麗だね。」
「麻美さんは、どんな花が好きだったの?」
「えっ?」
「聞いちゃ悪かった? ごめんな。」
「ううん。そんなことないよ。桜も好きだったし、ひまわりも好きだった。
バラもね……花は全て好きだった………。」
「似合うよね。花と麻美さん……。」
「そうかな?」
「うん。綺麗だもん。」
そう言って笑顔を見せながら、沙希子の胸は痛み……苦しくなっていった。
暫く沈黙が続いた。
それから、なんとなく二人で歩いていたが……言葉は少なくなっていた。
「沙希子!」
「何?」
「写真、撮ろう。」
「いいよ。」
「どうして? 俺は一緒の写真が欲しいけど……。」
「私……写真に写るの……好きじゃないの……。
ごめんなさい。」
「………好きじゃないの?」
「うん。……あまりないの……写真……。」
「じゃあ、目標出来たよ。」
「目標?」
「そ、俺と一緒に写真を撮っても良いって思って貰えること。」
「止めようよ。そんなの!」
「なんで?」
「止めよう。私、写真、嫌だから……。」
「ホントか? 前に見せて貰ったよね。スマホの中の動画、写真、写ってた。
なんで? なんで! 俺だと駄目なんだ?」
「あ…あれは、海の訓練の様子を撮っただけだから。」
「沙希子……俺は沙希子の写真が欲しいんだ。
だから、今は駄目でも撮ってもいいって思った時には一緒の写真を撮らせて!
頼むから……。」
「……………。」
「沙希子?」
「分かった。いつか……。」
「うん。いつか……。」
寂し気に俯いてしまった沙希子の手を取って、悠は歩き出した。
悠は「この手を放したくない!」と思った。
自ずと手に力が入っていたようだった。
沙希子の小さな「痛い。」の声で気が付いた。
「ごめん。強く……手に力が入った。
ごめんな。痛かったんだよな。」
「大丈夫。」
繋いでいる手を引っ張って沙希子を腕の中に入れたかった。
ゆっくり歩いて悠が予約していた店で昼食を摂る。
会話が少なくなってしまったままだった。
時間だけが過ぎていった。
沙希子を家まで送って行った悠は、このまま別れたくなかった。
「今日はありがとう。
桜、めっちゃ綺麗だったね。」
「うん。綺麗だった。」
「じゃあ……。」
「沙希子、またどこかに行こう。」
「………………。」
「沙希子、行こう! どこがいい?」
「分かんない。」
「じゃあ、俺が決めてもいい?」
「うん。」
その時玄関ドアが開いて、母が出て来た。
「沙希子、お帰りなさい。」
「お母さん!」
「初めまして、沙希子の母でございます。」
「僕は友田悠と申します。
沙希子さんとは同期で、お付き合いをさせて頂いております。」
「まぁ……そうなんですね。
友田さん、お急ぎでしょうか?」
「いいえ。」
「では、うちでお茶でも如何ですか?」
「お母さん!」
「はい。頂きます。」
「友田君、帰るんですよね。」
「いや、お邪魔させて頂くよ。」
「まぁ、嬉しいですわ。
さ、どうぞ中にお入りになって……!」
「お邪魔致します。」
思わぬ展開に沙希子は狼狽えた。




