恋人
スマホが鳴って、橋本沙希子がスマホを見た。
スマホを見た途端、俯いて顔を上げられなくなった。
「あ…の……友田君。」
「何?」
「……成功ね。」
「うん。大成功!」
「今日は4月1日。……エイプリルフールだもん。」
「……エイプリルフール?
そうだったんだ……。」
「…………もう、帰るね。」
「じゃあ、送っていく。」
「一人で帰る……。」
「急に、どうした? 俺、何か言って……。
どうして、泣いてる?」
「……ありがとう。……夢を見られたわ。」
「ちょっと待って……なんで?」
「………エイプリルフールよ。今日………。」
「今日、エイプリルフール……4月1日?
待って! もしかして……今日が4月1日だから?
俺が嘘を言ったって思った?」
「………ありがとう。」
「違う! なんでそんな……。
俺はそんなこと関係なく、沙希子に惚れてるんだ!」
「嘘……。」
「また同じこと繰り返すのか?
さっき言ったこと、俺の心からの……
あ――っ! もういい!」
「ほんと……なの?
今日はエイプリルフールよ。」
「帰るぞ!」
立ち上がった悠に手を取られ、連れ去られるように店の出口へ……。
友田悠が手を繋いだまま支払おうとした時、「ちぇっ!」と小さく言い沙希子の手を放した。
支払いが終わると、また沙希子の手を取り店を出た。
無言で歩いて、繋いだ手を放してくれなかった。
駅に着くと悠が聞いた。
「どの駅? 橋本が下りる駅……。」
「えっ?」
「送っていくから……。」
「あの……。」
「俺は彼氏だから、送る権利がある!」
「ほんと? ほんとに友田君、私のこと……。」
「何度でも言うよ。恋人になって欲しいんだ。俺は橋本が好きだ!
4月1日ぃ~知らねぇよ! 俺には関係ない!
俺の気持ちを信じて貰えるまで、俺、頑張るから!」
「本当に?」
「本当に! 好きだ!」
「嬉しい……。」
「信じてくれる?」
「うん。」
「良かったぁ~。やっと……
あの……な……俺、『沙希子』って呼んでいいか……?」
「………うん。」
「よっしゃぁ~!
沙希子は俺のこと何て呼んでくれる? もう、『友田君』じゃないよな。」
「えっ?」
「今すぐ、呼び方変えて欲しいけど……。」
「無理!」
「なんで?」
「何て呼んだらいいのか分かんないもん。」
「じゃあ、………優一のこと優君って呼んでるよな。」
「うん。」
「あれと被りたくないんだ……だから……悠ちゃん?」
「えっ?」
「ほんとは、優一のこと優君って呼んでほしくないんだけど、親戚だから我慢す
る。」
「……優君って呼ぶのは駄目?」
「駄目! だけど……親戚だから我慢する。
優一が優君なんだから、俺のことも友田君じゃない呼び方で呼んで欲しい。」
「……分かった。努力します。」
「うん。そうして……。
じゃあ、送るからね。……沙希子。」
「沙希子」と呼ばれて、恥ずかしくて頬が真っ赤になった。
繋がれた手も紅を差しているように感じた。
手を繋いでいても夢の中の出来事としか思えなかった。




