走る
今日は富田優一の家に行く。
午前10時に訪問する約束なのに、早く着いてしまった。
インターホンを鳴らすと、可愛い声で「はぁ~い。友田さん、ちょっと待ってくださいね。」と返事があった。
夫婦二人で出迎えてくれた。
「お邪魔します。」
「いらっしゃい。」
「もうちょっと早かったら沙希ちゃんに会えたのに……。」
「沙希ちゃん?」
「おう、沙希ちゃん……。」
「彼女、来てたの?」
「はい。毎週土曜日に私がお願いして、来て貰ってるんですよ。
海君とお散歩に行きたいから……。」
「悠、いつまでも玄関で立ってないで、入って来いよ。」
「今、さっき帰ったのか?」
「えっ?」
「だから、今さっき帰ったのかって聞いてるんだよ。」
「沙希ちゃん?」
「そうだ!」
「うん。今さっきだよ。」
「あの、奥さん、これご懐妊のお祝いです。」
「まぁ、ありがとうございます。入ってください。」
「失礼します。」
「えっ?」
玄関を走って出て行った友田悠。
澪は何が起きたのか分からなくて、その場で茫然としていた。
優一は急いでサンダルを履き、澪に「ちょっと追いかける。」と言い走って出て行った。
「一体、何なのよ! もぉ――っ!」
友田悠は走って出たが、どちらに橋本沙希子がいるのか分からなかった。
「そうだ……車だったのかもしれない……。」
そう呟いた時に、優一が声を掛けた。
「悠! 左だ! 左を真っ直ぐに行って、三番目の交差点で右だ!
行け―――っ!」
「ありがとう!」
友田悠は走った。
気持ちに蓋は出来ないと分かっていた。
暫く走っていると富田優一から電話が架かって来た。
「道順は教えるから……このまま繋いでおけよ!」
「ありがとう!」
電話を繋いだまま走った。




