月命日
亡くなった妻・麻美の月命日に、麻美の両親が訪れるという連絡が友田悠に入った。
久しく会っていなかった麻美の両親。
出迎えて顔を見てホッとした。
元気そうな様子で安堵した。
愛娘の死を乗り越えられたのかは分からないが、顔色が悪いという訳ではなかった。
仏壇の前で三人で手を合わせて、麻美の父が話し始めた。
「悠君、麻美を大切にしてくれて本当にありがとう。」
「お礼を言うのは俺の方です。
年下の頼りない俺に大切なお嬢さんを委ねてくださった。
最期の時までの短い時間を、俺なんかのために………
お義父さんとお義母さんが譲ってくださったこと感謝してもしきれません。
ありがとうございました。」
「悠君、そんな風に言って貰えて……
本当に麻美も僕たちも幸せだよ。
………今日来たのはね。麻美を返してもらいたくて来たんだ。」
「麻美を返すって……どういうことですか?」
「この仏壇の中に居る麻美を僕たち親に返して貰えまいか?」
「仏壇……。」
「位牌も返して欲しいんだよ。」
「位牌も……。」
「悠君、お父さんと私の願いは、貴方に次の人生を送って欲しいの。」
「次の人生ですか?」
「そうだよ。麻美のことを引き摺ってほしくないんだ。
君はまだ若い! これからの君の人生を考えて欲しいんだよ。」
「だからね。お願いに来たのよ。
麻美を返してもらって、貴方は貴方の人生を送って欲しいの。
麻美も天国でそれを願っているわ。」
「今まで、悠君、本当にありがとう。
前の結婚で姑の嫁いびりに遭って、あの子はボロボロになった。
ボロボロのまま、姑との間に入ってくれない夫との離婚で、より一層ボロボロに
なった。
そんな麻美を笑顔にしてくれたのは君だよ。
余命宣告を受けたあの子と結婚して新婚旅行にまで連れて行ってくれて……
新婚旅行の行先は近くて、その行先で急変した時のことまで考えてくれて………
もう十分すぎるほど大切にして貰えた。ありがとう。
あの子の最期の時まで君が愛してくれたこと忘れないよ。
本当にありがとう。
悠君、君は僕たちの息子でもあるんだ。
息子の幸せを望まぬ親が居るだろうか……。
君に幸せになって欲しいんだよ。
だからね、麻美は僕たちの傍に居させたいんだ。
返してください。麻美を…… 親の僕たちに……お願いします。」
涙を拭きながら話し終えた麻美の両親は、両手をついて頭を下げました。
「お義父さん………お義母さん、どうか手を挙げてください。
お願いします。」
「悠君……。」
「麻美はご両親にお返しします。
俺のことまで考えてくださって本当にありがとうございます。
俺の人生を、俺は生きていきますから……
どうか、安心してください。」
「悠君、ありがとう。
具体的なことは、僕たちに任せてくれるかな?」
「はい。」
「今まで、本当にありがとう。
幸せになってくれ! 君からの報告を首を長くして待ってる。」
「………はい。」
その翌週には麻美の物が両親の元へ行った。
仏壇も、位牌も……服も……化粧品も……。
友田悠は、妻・麻美の物がなくなった部屋で、暫く茫然と立ち尽くしていた。




