移ろい
スマホを手にした。
何度も同じ画面を見ている。
「知りたくて堪らない。」なのに、メッセージを送る勇気が無い。
富田優一に聞くしか術がない。
橋本沙希子の付き合っている男性のことを知りたいと思ったのだ。
「デート?」「どこまで?」「愛してるのか?」これらの言葉が頭から離れない。
スマホの画面と睨めっこのまま時だけが過ぎていく。
友田悠は今までの恋とは違う痛みを感じていた。
今までは「愛してる。」と言えた。
その言葉を伝えると、応えてくれた。
それが前妻の麻美だった。
年上の女性で結婚も経験していた。
ひたすら想いを伝えた。
今の友田悠は、それが出来ないのだ。
橋本沙希子には出来ないのだ。
麻美の時は先に恋したのは悠だった。
今度は違っていた。
知らない間に深く愛されていた。
そして、そのことに気付きもしないまま留学した。
留学してから、麻美のことと何故だか沙希子のことを思い出した。
それでも自分の心の移ろいに気付かなかった。
いや、気付くのは麻美を裏切るように思っていたんだと今は思う。
大きく息を吐いてスマホの画面に指を落とした。
文字を入力する指が震えてた。
富田優一から電話が架かって来たのは、メッセージを打ち込んでいた時だった。
「悠、俺、パパになるんだぁ~!喜んでくれ!
10ヶ月後にはパパだ!」
「おめでとう!
やったな! 良かったよ。」
「ありがとう!」
「奥さんを大切にな。」『聞けないや……。』
「おうよ。じゃあ、な。」
「またな。」
「あ……悠。」
「なんだ?」
「麻美さんの三回忌も終わって日も経っただろ?
そろそろ前を向いて進めよ。」
「うん。」
「アイリーンて子は、どうした?」
「今日、帰国したよ。」
「そっか……良かったな。結構、肉食女子だったな。」
「押しが強かった。付き合わなきゃ良かったんだ。
だから、俺が悪い!」
「最後は不満もあっただろうけど、分かってくれたんなら良かったんじゃない
か?」
「悪いと思ってるけど、好きじゃない子とは無理だな……。」
「次は好きになった子と付き合えよ。
恋はどっちかの片想いからスタートすると思うぜ。
俺達夫婦がそうだし、お前と麻美さんもそうだったろ?
お前の片想いからスタートした恋だったよな。
また、誰かを愛して告白するかもしれないんだから……。」
「………そうだな。」
「今はまだ麻美さんがお前の心を占めてるだろうけど、いつか、変わるよ。」
「そうかな。」
「おい、元気ないぞ! どうした? 具合悪いのか?」
「なんでもないよ。」
「そっかぁ?
………前にも言ったけど、麻美さんは幸せだったんだぞ。
お前といる時間が幸せだ!って言ってたんだぞ。」
「うん。」
「一人の愛する女性を幸せに出来たんだ。
自信持てよな。」
「自信、なくしてるって……どうして分かるんだ?」
「お前、元気ないから……。
麻美さんにプロポーズして断られて、別れた時と同じだ。
声が同じなんだ。」
「……そうか……。」
「何が原因で自信を無くしてるか分からんが、悠は凄い奴だと俺は思ってる。
自信持てよ、なっ!」
「ありがとう。」
「じゃあ、またな。他にも報告するから、子どもが産まれるってこと!」
「おう。頑張って報告しろよ。」
「おう! じゃあな。元気出せよ!」
「ありがとう。」
通話を終えて、大きなため息が漏れた。
優一に聞きたいことを聞く勇気すらなかった。
「麻美、ごめん。
俺、好きな子いる。
一生、お前のことは忘れられないと思う。
でも、他の人を想うようになった……
ごめん。麻美……。
本当に、ごめん………。」
目を瞑り仏壇に手を合わせて、目を開けた時に麻美の遺影が見えた。
遺影の麻美は美しい笑顔だ。
この笑顔を守りたいと願った日、誓った日を思い出した。




