少しの嘘
新しい噂が消えかけた頃、友田悠が支社にやって来た。
知らなかったから、昼ご飯を佐伯陽菜と食べている時に。社員食堂へ入って来た友田悠を見て心臓が止まるかと思うほど驚いた。
顔に出ていたらどうしようと焦ったが、陽菜のお陰で誤魔化せた。
「大丈夫?」
「陽菜が居てくれるから……大丈夫。」
「そっか……。」
二人に気付いた友田悠が近づいて来た。
頬が熱くなりそうで困った。
逃げたかった。
急いで食器を返しに行く途中だった。
すぐ目の前に友田悠が居た。
「友田君、お久し振り。」
「佐伯、久し振り。お子さん大きくなった?」
「うん。もう1歳だもん。その節はお祝いを頂戴して……
ありがとうございました。」
「いえいえ、当然ですよ。
……橋本は……元気だった?」
「うん。ありがとう。
友田君は?」
「ありがとう。元気だったよ。」
「友田君、今日は何?」
「ちょっとね、こちらの販促に用事があって来たんだ。」
「そうなのね。営業に来たんじゃないんだ。」
「うん。残念だった?」
「残念だったわ。営業に来たのなら奢って貰えたのに……。」
「家で可愛いお子さんがお待ちでしょう!」
「そうなのよ。めっちゃ可愛いの ♡
見て見て! ほら、可愛いでしょ ♡ 」
「うん! 可愛いね。
……橋本……。」
「……何?」
「あの……さ……あの……アプリしてたんだろ?」
「アプリ……。」
「うん、マッチングアプリ。」
「……してたよ。」
「ちょっと、待って! 友田君、誰に聞いたの? 噂?」
「噂……?」
「噂を聞いたのね。」
「陽菜……止めてよ。」
「噂……って?」
「噂じゃないの?」
「橋本……噂って何だ?」
「………。」
「佐伯、噂って?」
「ちょっとね、ある人と付き合ってるんじゃないかって噂よ。」
「……橋本……付き合ってるの?」
「友田君。もういいじゃん。ここで、そんな話……。」
「じゃあ、後で聞かせて……いい?」
「……ここでいいよ。」
「沙希子……。」
「デートした! この間、初めてだったの。楽しかったよ。」
「……デート……楽しかったんだ………良かったな。」
「うん。」
「………おめでとう……。」
「あ…ありがとう。」
「じゃあ……な。」
「うん……友田君!」
「うん?」
「頑張ってね。元気でね。……幸せになってね。」
「……君こそ……。じゃあ……。」
「沙希子……良かったの?」
「これで、良かったの、良かったの……。」
「ちょっと……別の場所に行こ。」
陽菜に引っ張られて屋上庭園に行った。




