新たな噂
あの上司の誘いで同僚たちと居た店から増田翔平と二人で居た短い時間を知っているのは、足立花梨一人だった。
出社すると、直ぐに佐伯陽菜から呼びかけられた。
「沙希子! あんた、ちょっと……こっちに来て!」
「何?」
「あんた、いつの間に付き合ったのよ?」
「誰と?」
「誰とって……えっ?
あのね、この前に仕事終わりに誘われてみんなで行ったんでしょう。居酒屋!」
「うん。美味しかったよ。」
「美味しかったの……良かったね。じゃない!
その時に、誰と二人で店を出たの?」
「あぁ……増田翔平さんね。」
「知り合いが居たの?」
「うん。」
「付き合ってるの?」
「まさか!」
「付き合ってないのね。」
「うん。」
「はぁ~~っ………噂を流した張本人は誰なのかしら?
誰かに見られたの?」
「うん。先に帰るようにって……。」
「誰?」
「足立花梨ちゃん。」
「ああああああああ! あの子……噂するの好きな子よ。」
「そうなの?」
「そうなのよ!」
「そのうち消えるから大丈夫よ!」
「強い子になったのね。」
「もう噂は無視しててOKだもん。嘘だし……嘘? デートしたらどうなるの?」
「でぇとぉ………?」
「誰と?」
「増田翔平さん。」
「なんで?」
「生まれてこの方デートしたこと無いって言ったのね。」
「うん。」
「そうしたら、デートしようって、映画観に行ったの。」
「何それ?」
「だから、このままだと一生デートできないかもしれないから、一回だけね。一回
だけデートしたの。」
「中学生かっ! まぁ中学生レベルだわね。」
「楽しかったよ。緊張しなかったし、そういう相手じゃなかったからね。」
「相手は? 相手は沙希子のことどう思ってるの?」
「一回だけのデートをしてくれただけで終わりだよ。
お互いに好きとかの感情は全くないの。」
「そう……。」
「これで、私もデートが出来たのよ。」
「何それ?」
「一生無いから、こんな機会。」
「あるかもしんないじゃん!」
「ないない!」
「沙希子、映画を見てからは?」
「うん。お昼ご飯食べて、ちょっと買い物して帰った。」
「送ってくれたの?」
「ううん。駅で別れたよ。」
「そっか……。良かったよ。何も無くて……。」
「ある訳ないじゃん。私だよ。」
「沙希子、自己肯定感低すぎ……。」
「でも、事実だから、ね。」
「分かった。仕事しよ。」
「うん。あ……。」
「何!」
「元気? 今度会いに行ってもいいかな?」
「あ……うちの子?」
「うん。」
「来てよ!」
「じゃあ、また日を決めて!」
「OK!」
噂は結構広がっていた。
また、聞かれる度に付き合っていないことを話す。
これを繰り返していたら、必ず消えてくれる。
実態が無いのだから……。




