自覚
アイリーンがやっと帰国してくれる。
ホッとした友田悠にアイリーンが最後のお願いを言ってきた。
最後のお願いは空港まで送って欲しいことと見送って欲しいことだった。
了解して、空港まで車で送り、搭乗ゲートに入って行くアイリーンを見送った。
⦅終わった。
好きじゃない子と付き合うもんじゃないな。
凄く強引で、その押しに負けて付き合ったけど……
楽しくなかったし、嬉しくなかったし……そんな俺と付き合い続けてもアイリー
ンも幸せじゃないと思って、付き合って直ぐに別れ話をした。
でも、応じてくれなくて、帰国した後に追いかけて来られてしまった。
アイリーンに悪いことをしたな。
最初から付き合わなかったら良かったんだ。
ごめん。アイリーン、幸せになってくれ!⦆
ふと見ると、友田悠が立っている場所は、橋本沙希子が立っていた場所だった。
胸に甘い痛みが走った。
⦅あの時に、あの時も……二回も見送ってくれたなぁ……。
二回とも辛かったんだろうな。
知らなかったから……気付かなかったから……
辛い想いをいっぱいさせてしまった。
ごめん。橋本………。⦆
車に戻って、手まで甘い痛みが走っていることに気付いた。
こんなことは初めてだった。
⦅会いたい……会いたいなぁ……。
会う術がない。
もう前を向いて歩き始めたんだ。橋本は……。
橋本……。心の中でだけ……。
俺の心の中でだけ、沙希子って呼ばせてくれよ。
心の中でだけだから、口には決して出さないから……。
沙希子……会いたい。⦆
いつからだったのか、分からないほどだった。
いつからか心の奥深くに沙希子が居たのだ。
それに気が付くことが無いまま、海外へ行ったんだと分かった。
自分の気持ちに気が付くと、もう想いは募る一方だった。
その想いのままに走り出せないことが何故なのか分からないのだ。
臆病になった気分だ。
手にまで広がった甘い痛みは、沙希子を抱きしめたいからだと分かるのに時間が掛かった。
麻美を愛していた頃に、そんな甘い痛みが手にまで広がったことはなかった。
手が届く人だったからなのか、届いたからなのか分からない。
麻美を愛してた自分と今の自分が違い過ぎて分からないのだ。
友田悠は自分の気持ちと向き合う時間をこれから過ごすのである。
その時間が、どのくらいかも分からない。




