嘘から出た二度目の噂
本社の近くで友田悠が「俺の好きな子」と橋本沙希子を紹介していたという噂が、沙希子の支社にも届いた。
佐伯陽菜の耳にも入った。
「沙希子、どういうことなの?」
「何が?」
「知らないの? 噂になってるよ。友田君が沙希子のこと『好きな子』って言った
って………。それ、本当のことなの?」
「あぁ……、それね、説明が長くなるんだけどね。」
「長くてもいいから!」
「あのね、本社に仕事でちょっと行った時にね。
正面玄関前で友田君とアメリカの彼女が揉めてたのよ。」
「揉めてた?」
「うん。なんか……追いかけて来た彼女に帰って欲しいって言ってたよ。」
「追いかけて来たの?」
「うん。そうみたい……。」
「結婚するって約束してたの?」
「知らない……、兎に角、それで帰って欲しいって話をしている時に、たまたま、
たまたまよ。私が通りかかって……。
友田君、咄嗟に嘘ついちゃったみたいなの。」
「えっ? 咄嗟の嘘だったの。」
「うん。でも、その嘘で彼女、泣いちゃって……泣きながら帰って行ったの。
それから後は、知らないわ。」
「じゃあ、咄嗟の嘘だったって訳ね。」
「うん。嘘……だったの。仕方なかったのよ。そうするのがBESTだったんだと思
うわ。私……。」
「沙希子、あんた……。大丈夫?」
「うん。大丈夫。ごめんね。心配ばかりかけて……。」
「ううん。」
「もう、二度と会わないから……大丈夫よ。」
「二度と会わない……か……。そうあって欲しいわ。」
「噂だから、いつか消えるし。」
「うん。」
「放っておけばいいよね。」
「うん。……今も胸が痛む?」
「嘘だってこと?」
「ううん、友田君を思い出すだけで胸が痛む? 苦しいくらい胸が痛くなる?」
「………うん。」
「恋は、恋でしか癒せないのかな?」
「いつか、薄らぐと思うから……心配しないでね。」
「……心配だよ。幸せになって欲しいもん。」
「ありがとう。でも……いつか消えてくれると思うから、ね。」
「うん。その日が来て欲しい。」
「うん。………私も………。」
⦅私って、こんなに執着する性格だったのかな?
執着は……駄目だよね。
本当に消し去りたい!⦆
いつの日か、いつの日にか、消え去ってくれると思いながら時が過ぎて行って今に至っているのだと分かっていても、自分の心をどうしようもなく……また時が過ぎ去っていくのだろうと思った。
噂は少しずつ消えていった。
「付き合ってるの?」と聞かれて、「付き合っていません。」と事実を答えていくうちに消えていった。




