友田悠の嘘
その後、仕事で本社へ行かねばならないことがあった。
本社へ行くと言っても前のような一日中ではなかった。
友田悠に出逢えるはずがないと言い聞かせて本社へ行った。
用事を全て済ませて帰路に就こうと会社を出た時だった。
騒がしかったのだ。会社の正面玄関が………。
野次馬が増えて行っているようだった。
「会社の前……警備員さんには連絡出来てるのかな?」
近づくと英語が飛び交っていた。
その声が……忘れられない男性の声だった。
⦅友田君?⦆
覗き込むと、友田悠が居た。
向かい合っている女性は黄金の髪で綺麗な青い目をしている。
⦅もしかしたら……友田君の彼女? 追いかけて来た彼女?⦆
「帰ってくれ!」と「もう一度やり直したい。」という言葉の繰り返しのようだった。
友田悠が「ここでは、多くの方に迷惑をかける。別の場所に行こう。」と言い歩き出した。
友田悠が歩き出した先に私が居た。
咄嗟に俯いてしまったその時……腕を掴まれた。
「この子が俺の彼女だ。」
「嘘よ!」
「本当だ。もう好きな人が居るから帰ってくれ!
迷惑だ。別れたのに押しかけられるのは迷惑だ。
君のことは愛していない!
もう二度と、俺の前に現れないでくれ。」
見る見る間に美しい青い目から大粒の涙を流して、何かを言って走り去った。
最後の言葉は分からなかった。
走り去る彼女を呆然と見つめていた私の腕を、友田悠は慌てて離して言った。
「橋本、ごめん。巻き込んでしまった。」
「え?……ううん。いいよ。」
「ありがとう。会社の人居たかな?」
「さぁ、分からないわ。」
「居たら、噂になるな……。ごめん。」
「別にいいよ。」
「あ……あの、さ……お詫びにご飯奢るよ。」
「いいって、私、もう帰るから……。」
「あ……もう帰るんだ。」
「うん。……じゃあね。元気でね。」
「うん。君も……。今日は本当にごめん。」
「もう、いいって……。じゃあ、さようなら。」
後ろを振り向かずに歩いて行った。
震えていた。
友田悠に摑まれた腕が熱かった。
暫く歩いていると、後ろからまた声がした。
振り向く勇気が足りなかった。
すると、腕を……熱くなっている腕を掴まれた。
「待って! あ……ごめん。また……。
佐々木風花さんのこと、断ったんだ。ごめんな。
俺は無理だったから……。
その後、気まずくなった? 大丈夫かな?」
「大丈夫。……そんなに会う人じゃないから……。」
「そっか。良かった。」
「こちらこそ、ごめんね。もう二度と、あんなことしないから……
安心してね。」
「うん。……あの、さ……優一、君のこと沙希ちゃんって呼んでるんだな。」
「うん。義理でも従姉弟になったから……。仲良くして貰ってるの。」
「そっか………。従姉弟か……。」
「うん。…………じゃあ、さようなら。」
「………うん。……また、会えるよな?」
「え?…………………。」
「会えるよな!」
「……………分かんないわ。もう本社に来ないかもしんないし……。」
「……本社……。」
「じゃあ………さようなら…元気でね。」
「…………うん。君も………。」
もう本社へ来ることは無いだろうから、もう会うこともない。
そう思って熱くなった腕を優しく撫でた。
「これで、本当の終わり。」と思った。




