海外
妻を亡くして間もない友田悠にアメリカの大学への留学が決まった。
会社から行く留学だった。
2年間の留学期間だということである。
社内でも2年に一人というエリート社員だけの留学なのだ。
「流石、友田悠よね。」
「うん。」
「行こうか? 二人で空港に見送りに……。」
「陽菜、身体は大丈夫なの?」
「大丈夫よ。私のことよりも沙希子のために行こう。」
「私のため?」
「うん。ちゃんとお別れした方がいいよ。」
「お別れ……そうだね。」
「行こう!」
「うん。」
その日は爽やかな日だった。
爽やかな風が吹き抜ける。
空港へは陽菜の夫の運転する車に乗せて貰って行った。
陽菜の身体を想いながらの優しい運転だった。
「愛されてるね。陽菜……。」
「な、何を急に言うのよ。」
「だって、とっても運転が優しいもの。」
「もう、そのくらいにしておいてくれないか?」
そう言った陽菜の夫の耳は赤くなっていた。
空港に着き、出発ロビーに向かう。
そこに、会社の人が数人居た。
友田悠の母親らしき人も居た。
その中に富田優一も居たのだ。
そして、その輪の中の真ん中に友田悠が居る。
「おはようございます。」
「おはよう。」
「おはようございます。」
「来てくれたのか。二人とも……。」
佐伯陽菜の夫を見つけた友田悠が頭を下げて言った。
「佐伯さんですね。おめでとうございます。」
「ありがとうございます。
お祝いを言わないといけないのは僕の方ですのに………。
この度は留学、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
「大丈夫か? 身体?」
「うん。ありがとう。大丈夫よ。」
「そのために一緒に来てくれたのよね。佐伯さん。」
「うん。まぁ……。」
友田悠が笑顔で話していたが、私にはその笑顔が少し寂し気に見えた。
「友田君。元気でね。」
「おう、君もな。」
「うん。」
「彼氏と仲良く、な。」
「居ないよ。彼氏なんて……。」
「えっ? でも、あの動画の爽やかイケメン……。」
「あの人はうちの犬の訓練士さん。ただ、それだけよ。」
「そうなのか……。ごめんな。勘違いして……。」
「いいよ。私も直ぐに訂正できなかったから……。」
「兎に角、元気でね。頑張って来てね。」
「うん。」
「それから、あっちで……いい人と巡り会いますように!」
「えっ?」
「そして、幸せになってね!」
「ありがとう。」
後は言葉にならなかった。
これ以上、友田悠と話していると泣いてしまいそうだったので、他の人と話せるように少し後ろに下がった。
「沙希子、大丈夫?」
「大丈夫。……話せたよ。」
「うん。頑張ったね。」
「うん。」
陽菜とは小さな声で話した。
その時に富田優一から声を掛けられた。
「お久し振りです。……僕のこと、覚えてる?」
富田優一が声を掛けたので、佐伯夫婦は少し私から離れて、友田悠の傍に行った。
「お久し振りです。覚えてますよ。富田優一さん。」
「良かった。……来たんだね。」
「はい。」
「ありがとう。悠は喜んでるよ。」
「そうですね。大勢の方の見送りをして貰えて……。」
「うん。……それから、ありがとう。内緒の話のこと……。」
「何もなかったですよね。」
「あ……うん。そうだね。………本当にありがとう。」
「あ……友田君、行くみたいです。」
「あ……。行こう。」
「はい。」
友田悠は航空機に乗るために搭乗ゲートへ向かって行く。
見送りの人達は、その後ろを付いて行った。
搭乗ゲートへ入って行く時に、友田悠は手を挙げて大きく振ってくれた。
「いってらっしゃい。」
小さく呟いたその言葉を富田優一は聞いていた。
そして、手を振って別れた。
搭乗ゲートの中へ消えていったその姿をしばらくの間、茫然と見ていた私に、陽菜が声を掛けてくれた。
「沙希子、帰ろうか……。」
「ありがとう。……でも、私、一人で帰るね。」
「でも……。」
「陽菜、沙希ちゃんの気持ち優先だよ。」
「分かった。気を付けて帰ってね。」
「うん。佐伯さん、今日は迎えに来てくださって本当にありがとうございまし
た。助かりました。」
「いいよ。気にしないで。」
「じゃあ、帰りますね。
陽菜、会社でね。バイバイ。」
「うん。バイバイ。」
会社の人にも挨拶して帰路に就いた。
その後ろを富田優一が追いかけて来た。
「橋本さん、良かったら一緒に帰ろうよ。」
「えっ? お昼ご飯、奢るよ。」
「奢って貰うのは、ちょっと悪いです。」
「じゃあ、割り勘で!」
そう言って私の隣を富田優一が歩いた。




