手術が終わった
日が経ち、今日は生後6ヶ月になった海の去勢手術の日である。
朝から父が落ち着かない様子で、見ていて面白い。
「海、頑張るんだよ。」
⦅何を?⦆
「あぁ……取っちゃうんだなぁ……。」
⦅お父さんが手術を受けるんじゃないのよ!⦆
「海、お父さんが付いてるぞ!」
⦅手術室には入れません。⦆
「あぁ~~~っ。止めるのは……。」
「駄目です。何を言ってるんですか? お父さん!」
「いやぁ~、海小さいから、心配なんだよ。お母さんは心配じゃないのかい?」
「先生を信じて待つんです。それに、海は強い子ですから……。」
「海、強い子でもなぁ~。」
「お父さんの……を取るんじゃないですよ。」
「分かってるさ! 分かってるよ。」
⦅あ……そういうことなのね。
見てて飽きないなぁ……。⦆
「さぁ、行きますか?」
「え? もう?」
「行きますよ。お父さん!」
「え? もう行くの? お母さん。」
「時間ですからね。」
「あぁ~~っ!」
さっと、海を抱き上げて車に乗り込んだ母の後を、父が追いかけて車に乗った。
それを見ていて吹き出しそうになった。
父は何故か運転席には乗らず、後部座席で母と海の傍に座った。
「お父さん、運転しないの?」
「沙希子、してくれ!」
「分かった。じゃあ、出発進行! なすのおしんこ!」
「なんだそれ?」
「クレヨンしんちゃん!」
「馬鹿言ってないで、ちゃんと安全運転だぞ!」
「Roger.」
動物病院に着いて、海を先生に委ねて帰宅した。
父だけが落ち着かない様子だった。
病院からの電話で無事に手術が終わったことを知った。
家族で迎えに行った。
海との再会で父は泣きそうになっていた。
見ていて面白かった。
その日、父は海の傍に居て離れなかった。
急変があった時のために傍に居るのだと言っていたが、何も起こらなかった。
良かったと家族全員で胸を撫で下ろした。
父が入浴中に母が急に話し始めた。
「沙希子がお嫁に行ったら、行くと決まったら、お父さん大変ね。」
「お母さん、私、行けないかもよ。」
「そうなの?」
「そうなの。そういう人……居ないの。」
「そう……。」
「お見合いをしたい気持ちにもならないの。」
「そうなのね。」
「お母さん、ごめんね。」
「何を謝るのよ。」
「だって、友達、もう結婚してるし、子どもが生まれる友達も居るし……。」
「人は人、沙希子は沙希子でしょ。」
「うん。」
「どういう人生でもいいのよ。」
「お母さん。」
「沙希子が幸せだったら、それだけで親孝行だわ。」
「………お母さん、ありがとう。」
「お礼を言うのは私の方よ。生まれて来てくれてありがとう。」
「お母さん………。」
「さぁ、お父さんがお風呂から上がってきた時に、その顔は駄目よ。
心配するから……ね。」
「はい。」
海の去勢手術が終わったら、訓練も終える予定だった。
その日を決めようと思っている。
両親は「続けてもいいけど……。」と少し続けたそうな様子だった。
私は終えるつもりだ。
あれから、莉緒さんが何かを言ってくることは無いまま過ぎていったが、あの経験は二度としたくない経験だった。
それが心に残っていて終わりにしたいと両親に話した。
そう話すと、両親も終わることを理解してくれて「じゃあ、切りが良い時に終わろう。」ということになった。




