永遠
幸せな結婚をしたはずの友田悠。
何故か、沈んでいる表情の時があった。
「ねぇ、陽菜、友田君、なんか変だよね。」
「えっ? そうかな?」
「うん。なんか……こう……沈んだ表情って言うのか……
なんて言ったらいいんだろう?
寂し気? 悲哀?
兎に角、幸せと逆なのよ。」
「そうかなぁ?……そんなことないと思うけど?」
「そう?」
「うん。……それより、そんなに観察しちゃ駄目よ。
気持ち、バレるよ。」
「そうだね。気を付けるわ。」
ある日、一人で友田悠がタバコを吸っていた。
その姿は……新婚さんとは遠い雰囲気だった。
外で一人タバコを吸っている姿が目に焼き付いた。
ぼんやりとしていた。
タバコを吸っているようで、吸っていないように見えた。
⦅何かあったのかもしれない。⦆
そう思ってしまうほどに……哀し気に空を見ているような見ていないかのようだった。
その日から3ヶ月後、訃報が入った。
友田悠の妻の訃報だった。
「嘘! だって……えっ?……そんな……嘘よ。」
聞いた時に私の口から出た言葉だった。
友田悠の妻の葬儀に参列した。
見たくない友田悠の姿だった。
これほどに人は愛する人の死を悲しめるものなのか?と思った。
立っているのがやっとという状態のようだった。
葬儀が終わって、喪主の挨拶の際に分かったことがある。
・結婚する前から『助からない』と言われていたこと。
・余命宣告を受けた状態での結婚だったこと。
知らなかった。
そして、思った。
⦅友田君、愛していたのね。誰よりも深く強く……。
そして、たぶん、この想いを一生持ち続けるのね。
それほどまでに愛した女性を忘れられるわけないものね。⦆
泣きながら逝ってしまった妻に「愛してくれてありがとう。結婚してくれてありがとう。」と言った夫。
そんな夫なのだ。友田悠という男性は……。
会社の人達と葬儀会場で別れた。
一人、駅に向かって歩いた。
駅に向かっている時、一人の男性から声を掛けられた。
「橋本沙希子さん?」
「はい。そうです。あの……。」
「あ、ごめんなさい。俺は小学校で同級生だった富田優一です。」
「あぁ……友田君から伺っています。」
「良かった。聞いてくれてたんですね。」
「ええ……。」
「今日は、ありがとう。来てくれて……。」
「?……会社で同期ですので当たり前です。」
「そっか……。」
「富田さん……奥様のこともご存じだったんですか?」
「うん。知ってたよ。もう大学生の頃にね。出逢ったから……。」
「そうなんですね。」
「橋本さん、悪いけれど、ちょっと聞いてくれる?」
「えっ? 私にですか?」
「うん。遠くの人に聞いて貰えたら、楽になるかもしれない。」
「?」
「身近な人には言えないから……。友田には言わないで欲しい。」
「はい……でも……。」
「これから帰るんだろう?」
「はい。」
「じゃあ、駅の途中にある店に入ってもいいかな?」
「ええ、いいですけど……。」
富田優一と並んで歩き始めた。
駅に近づくと様々な店が増えていった。
喫茶店があった。
古い店でお客は地元の人が多いような喫茶店だった。
「ここで、いいかな?」
「はい。」
「ふぅ―っ、あのね。俺達は三人同時に出逢ったんだ。
大学に通っている時にね。
バイト先で、俺と友田は彼女に出逢った。
実はね、俺も彼女に一目惚れだったんだ。」
「え?」
「うん。そうなんだ。でも、二人は知らないんだ。俺の気持ち……
言ってないからね。」
「そうだったんですね。」
「うん。あの日、友田が言ったんだ。
『一目惚れした。』って……。
参ったよ。先に言われたら、もう言えない。何も……。」
「そうですね。」
「それから、直ぐだった。二人が付き合い始めたのが……。
彼女は離婚歴があって………。」
「えっ?」
「あ……知らなかったよね。俺達より7歳上なんだ。」
「そんな……上には見えない……。」
「そうだろ。可愛いからね。彼女……。
いつも実年齢よりも10歳くらい下に思われてたよ。」
「私も、そう思っていました。」
「だよね! でも、離婚歴がある大人の女性だったんだ。
友田は凄く好きだから、猛烈にアプローチを掛けて……
そして、想いが通じたんだ。
俺は見ているだけだった。
離婚の理由も嫁姑の問題だったらしいし……別れたご主人に想いが残っているか
もしれないと思ったけど、そういうことも友田は考えないようにしてたよ。」
「そうですか……。」
「順調だと思ってた。結婚すると思ってた。
友田もプロポーズしたって言ってたし……。
それが、急に駄目になったんだ。
俺だけが駄目になった理由を彼女から聞いたんだ。
好きな人の恋心を聞くのは辛かったし、それ以上に話の内容が辛すぎた。
彼女は癌に罹ったから別れるんだ、って言ったんだ。」
「そんな!」
「そうだよな。 そんな!だよ。」
「若いのに、どうして?」
「そうだよな。若いけれども罹ってしまったんだ。
その場で泣いてしまったんだ。俺……
例え、友田と結婚しても生きていてくれればいいと思った瞬間だった。
その後、悩んだんだけど、友田に話したんだ。
別れの理由を……。」
「………。」
「友田に言った。愛しているなら結婚して幸せのうちに逝かせてあげて欲しい!
って、ね。
そして、俺が知っている彼女の居場所を教えたんだ。
彼女は入院する予定だったから、実家と入院先を……
彼女から聞いた全てを話したんだ。
きっと、彼女は俺に伝えておけば、俺から友田に伝えると……そういう想いも
あったはずなんだ。」
「きっと! そう思われていました。」
「だよね……。それから友田が言ったんだ。
もう一度、プロポーズしたら受けてくれた!って………。
友田も彼女も幸せなうちに永遠の別れになったけど、これで良かったと……
俺は思いたいんだ。」
「良かったんです! 良かったんですよ!
お二人は感謝されています。富田さんに……。」
「ありがとう。」
富田優一は静かに涙を流し続けました。
その姿を美しいと思ったのです。
別れ際に富・・田優一が言いました。
「ごめんね。こんな話を聞かせて……。
それも一方的に俺が喋ってただけだったし……。」
「いいんですよ。」
「ありがとう。
本当にありがとう。
誰かに話したかったんだ。
誰かの前で話して楽になりたかったんだ。」
「それで、いいと思います。」
「ありがとう。」
「富田さん、お元気で!」
「うん。君も……元気で!」
「さようなら。」
「さようなら。」
涙が出てきてしまった。
泣かないようにしていたのに……
友田悠のことも、富田優一のことも気掛かりだった。
でも、無関係なのだと言い聞かせた。
いつしか涙が頬を濡らしていた。




