謝罪
翌日、馬場大和と莉緒という若い女の子の訪問があった。
ひたすら謝罪する馬場大和、その隣で小さくなって俯いたままの莉緒。
「莉緒さんでした?」
「はい。」
「大きな勘違いだとご理解いただけたのでしょうか?」
「はい。」
「うちの娘と馬場先生は、ただの飼い主と訓練士だとご理解いただけたのです
ね。」
「はい。」
「ただの雇用契約をしている間柄であって、そういう関係ではないと断言出来ます
よ。断言できるとともに短くなった訓練時間の補填するか、その金額を返すかし
ないといけないということご理解されているんですよね。」
「……はい……。」
「貴女は『ごめんなさい。』だけで済むと思っておられるんですか?」
「あ………どうしたら?」
「先ずはちゃんと謝りなさい。娘にですよ。」
「はい。」
「ごめんなさい。」
「違いますね。」
「え?」
「申し訳ございません。ですよ。」
「はい。申し訳ございません。」
「もう、いいですよ。」
「まだだ! うちの娘に対して『おばさん!』と言ったそうですが、貴女に『おば
さん!』と言われる立場ではありません。それも、謝罪すべきです。」
「はい。すみません。……違った。申し訳ございません。」
「あの、本当に申し訳ございません。もう二度とこのようなことがないように僕か
ら話しますので……。」
「沙希子、いいか?」
「お父さん、私はもういいですって言いましたよ。」
「それでもな、言葉遣いがなってないから、ちゃんと大人が教えないと……。」
「お父さん、ありがとう。でも、もういいの。
もういいですからね。でもね、先走ったら大間違いってことあるって学べた?」
「はい。」
「じゃあ、良かったわ。」
「橋本さん、本当に申し訳ございません。」
「馬場先生、この子あなたのこと大好きなのよ。大切にしてあげてね。」
「……はい。………
それから、昨日の件ですが、返金させて頂きます。」
「もういいわよ。」
「良くありません。」
そう言って馬場大和は封筒を差し出した。
「お確かめください。金額を……。」
「多いわよ。」
「全額とお詫びに少し入れています。どうかお納めください。」
「受け取ろう。」
「お父さん。」
「それが契約というものだ。では、受け取ります。」
「はい。どうぞ。」
「これからも馬場先生にお願いします。」
「本当ですか? ありがとうございます。」
「よろしく。」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。」
「莉緒さん。」
「はい。」
「一つ教えて頂きたい。」
「はい。」
「どうして勘違いされたですか?」
「……そ、それは……。」
「私どもには何ら落ち度はありません。」
「はい。それは、その通りです。」
「だからこそ、なんで、こんな勘違いをされたのか知りたい。
教えてください。」
「あ……あの……最近、会って貰えなくって……。」
「だから、忙しいから。」
「馬場さん、話を聞いていますので。」
「はい。申し訳ございません。」
「あ…会って貰えなくって……それで、他に好きな人が出来たんじゃないかって
思って……大和のスマホを見たんです。
そしたら………大和のスマホに……写ってたんです。
この人が……。」
「写真? あ……それはお願いして被写体になって貰ったからスマホに残ってただ
けだ。」
「あぁ、ホームページに載せるための写真ですね。
僕は聞いていましたよ。娘だけじゃなくて僕と妻も撮って貰いましたよね。」
「はい。それです。」
「えぇ~~っ、そうなの?」
「だ~か~ら~、僕に先に聞けよ。」
「だって、先に聞いたら誤魔化すでしょう。」
「誤魔化す必要はありませんよね。事実ですから……。」
「すみません。……違った、申し訳ございません。」
「全て理解しました。次はこのようなことが無いようにお願いします。」
「はい。」
「では、これで終わりましょう。」
「はい。本当に申し訳ございません。………お許しいただきありがとうございまし
た。今後も何卒よろしくお願い申し上げます。」
「はい。こちらこそ。」
「では、失礼いたします。」
「では、また訓練で!」
「はい!」
見送った時、母が言った。
「お父さん、ちょっと意地悪だったわ。」
「当然だろう。娘のことを『おばさん!』っていう子だぞ。許せなかったんだ。」
「あの子からしたら、私は『おばさん』よ。」
「違う!『おばさん』はお母さんだ。」
「あ・な・た……今、なんて?」
「いやぁ~ 良かったなぁ。兎に角、無事に終わったな。良かった。良かった。」
父は直ぐに家に入って、暫くの間、書斎から出て来なかった。




