もう一人の同期
自宅の少し前でタクシーから下りた。
⦅スマイル! スマイル! スマイル!⦆
何度も心の中で繰り返した。
玄関ドアを開ける前に大きく息を吐いた。
ドアを開けると同時に明るく聞こえるように少し大きな声で言った。
「ただいまぁ~。」
母が玄関に来て……
「お帰り。」
「ただいま。すっごく素敵な結婚式だったわ。」
「そう……。」
リビングでは海が出迎えてくれた。
「海、ただいまぁ~。」
「おう、お帰り。」
父が読んでいる本から目を離して迎えてくれた。
「ただいま。」
「少し、疲れたから部屋で休むね。」
「ゆっくりしなさい。」
「はい。」
部屋に入るなり、ベッドに飛び込むようにして俯せになった。
涙が出て、声を殺して泣いた。
どの位経ったのか分からないまま茫然としているとスマホにLINEの通知が着ていた。
見ると、先輩からと同期の佐伯陽菜からだった。
先輩からは「大丈夫? 無理しちゃ駄目よ。幹事と友田君には伝えたからね。お大事に!」というメッセージだった。
陽菜からは「もう家に着いたかな? 電話しても良かったら…… 返信メッセージを頂戴ね。」というメッセージだった。
涙は止まっていなかったけれども、頬を叩いて涙を止めた。
涙を拭いて、笑顔を作ってから返信メッセージを送った。
先輩には「ありがとうございます。今、ベッドで横になっています。明後日はちゃんと出社します。大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ありません。」
陽菜には「ごめんね。返信が遅くなって、少し横になってたから、今は起きてるから電話OKだよ。」
直ぐに先輩からメッセージが届いて「良かった。でも、くれぐれも無理しちゃ駄目よ。じゃあ、明後日ね。ゆっくり休んでね。」と……「ありがとうございます。」とだけ返信した。
その時に陽菜から電話が架かって来た。
「もしもし。」
「沙希子、大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。」
「ビックリしたよ。急に顔色が青くなっていって後退ったんだもん。」
⦅見られてた?⦆
「ごめん。心配かけて……。」
「……ねぇ、間違ってたらごめんね。」
「うん? 何?」
「今頃になって、気が付いたんだけど………。」
⦅まさか……? まさか、バレた? 私の片思い……⦆
「もしかしたら、沙希子、友田君のこと……好き?」
⦅あ………もう無理だ………。⦆
涙が止まらなくなって、せめて泣き声だけは聞かれないように気を付けていた。
「沙希子………。沙希子………? やっぱり……好きなのね。
気が付かなくって、ごめんね。」
⦅違う。悪くない。謝らないで!⦆
声が出なかった。
涙でたぶん顔はグチャグチャになっている。
「沙希子、話さなくていいからね。聞いて………。
たぶん、沙希子の気持ちに気が付いたのは私だけだと思うから……
安心して!
叶わない想いだったから誰にも言えなかったのよね。
好きな人に大切な人が居るって分かっても、その人を蹴落とすように奪う人も居
るけど、沙希子はそんなこと出来ない子だって知ってるよ。
辛かったね。今日も凄く辛かったと思う。凄く頑張ったね。
月曜日、一緒に帰ろうか。晩御飯、一緒に食べようよ。」
「……でも、旦那さんは? 旦那さんと晩御飯………。」
「そんなこと気にしないでよ。」
「でも……。」
「沙希子の気持ち、うちの人に話していい?」
「誰にも言わないって約束してくれたら……。」
「勿論、私とうちの人の二人だけ!」
「じゃあ、いいよ。夫婦だもんね。」
「……沙希子、話したら月曜日、ゆっくり出来るからね。
二人で飲み明かそうよ。」
「うん。ありがとう。」
「じゃあ、約束だよ。時間は追って連絡します! Roger?」
「Roger.」
「じゃあ、月曜日ね。久々の女子会だわ。めっちゃ嬉しい!」
「二人だけの女子会?」
「そうよ。じゃあね。」
「うん。月曜日に!」
「バイバイ。」
「バイバイ。」
佐伯陽菜に友田悠への想いが知られてしまったことは誤算だった。
でも、少し楽になったような気がした。
聞いて貰えることで楽になって、いつしかこの想いが消えていってくれそうな気がした。




