嘘の噂
海が来てくれたお陰で癒される時間が生じて、心が穏やかに、無理ない笑顔が出るようになった。
仕事は、育休から戻ってくる人たちとの兼ね合いもあり今後は不明である。
職場では張り付けた笑顔で仕事をしていると自負している。
自宅で海といる時とは大違いだ。
スマホの待ち受け画面は海になった。
スマホの待ち受け画面を見るだけで、自然に笑みが零れる。
「嬉しそうだな。」
「ビックリしたぁ……急に声掛けないでよ。」
「え? そんなに驚くとは思わなかった。」
「……ビックリしたもん。」
「何? 何見て、その笑顔?」
「覗かないでよ。」
「彼氏?」
「そうね、可愛い彼氏なの ♡ 」
「そっか……おめでとう! 良かったよな。
橋本はいい奴だから、きっと!って思ってたんだよ。」
「奴ぅ?」
「あ……ごめん。いい人。」
「宜しい!」
「その彼氏と仲良くな。」
「ありがとう。」
⦅嘘、ついちゃった。あはは……。海は犬なんだけど……。
まぁ、いいか、な。⦆
それよりも、友田悠の距離感が辛いのだと声に出して言いたかった。
今もスマホの画面を覗こうとした時の距離感。
近すぎるのだ。
「止めて欲しい!」と思った。
好きだという気持ちが消え去って無いのに、近づかれると胸が鼓動を打つ。
顔が赤くならないように気を付ける。
それが、もう辛くて堪らないのだ。
そして、叶わない想いだということを実感する。
すると、胸が苦しくなる。
「近づかないで欲しい。苦しくなるから……。」と、言えればいいのだけれど、言えば全てが終わると思っている。
今までと同じ同期として、そして同僚として接して欲しいから……。
この日以降、橋本沙希子には可愛い彼氏がいる。―という噂になり、それが、可愛い年下の彼氏がいる。に変わるのに時間はあまり掛からなかった。




