殺したはずの女
「ありえない。あるはずがない。そんなはずがない。でも、でも、実際におこったのよ。そんなことおこるはずがないのに!」
多数の看護婦に囲まれた入院患者が、錯乱して叫んでいた。
「死体が生き返ったのよ。それも、何度も何度も。生き返るはずが無いのよ。私が確実に殺したんだから!」
「落ち着いてください。わかりますか?ここは病院ですよ」
「はじめは事故だった。嫌味な女で、こっちの嫌がることをねちねちと。思わず突き飛ばしたら、壁に頭を打ちつけて死んだ。それなのに、あの女は、二日後に平然と現れた。それどころか私に『昨日は休んでしまってごめんなさい』と言いやがった。いままで芸能界の先輩の立場で、パワハラしまくったやつが。私は悟ったのよ。このままだと一生ゆすられる。だから、首を絞めて殺したやったのよ!そして、死体はまた白いゴミ箱に捨てた。でも、でも、あの女は、また現れたの!きっちり二日後に。何もなかったかのように、すました顔で、私にわざとらしい、いままでしたことのない挨拶をしてきた。私は、その女の後頭部を殴った。そして、首の骨を折った。これで確実に始末した。生きているはずがない。それなのに!二日後!あの女は現れたのよ!」
「それは幻覚ですよ。無理もないです。アイドル活動が忙しすぎたんです。これからはゆっくり休めますよ」
「思い込みじゃない!この手に殺した時の感覚が残っている!その後だって、何度も殺した。でも、そのたびに生き返る!」
「あなたは誰も殺してません。あなたは疲れて、混乱しているだけです。仮に、誰かを殺して、死体をコンサート会場のごみ箱に突っ込んだら、発見されないわけないでしょう」
「生き返ったからでしょう!私がおバカアイドルだからって、それぐらいは理解できるわよ!」
「睡眠薬をうちますね」
「話は終わっていないわよ!私は正常だか・・・」
「田中さんって、このコンビニバイトの前は何やっていたんですか?」
「俺はやくざだった」
「冗談言わないでくださいよ。見た目、やくざに恐喝される側じゃないですか。その人相で、足を洗ったとか、無理がありますよ」
「いや。俺の場合は、足を洗ったよりは、リストラに近いな」
「ほら。やくざがリストラなんて言葉は使わないでしょう」
「俺は秘密部署にいたから、現場やくざの言い回しは使わなかった」
「やくざの秘密部署って、小学生でも、そんな嘘は信じませんよ」
「秘密部署の仕事は、ヤバイ物の隠蔽だな。例えば、使用された不正拳銃の処理とか。花形エリート部署だ」
「はいはい。そんなエリート部署の人が、なんでリストラされたんですか?」
「秘密主義がいけなかった。組長しかその存在を知らないのに、その組長が急死して、誰も秘密部署の存在を知らなくなった」
「ふふ。それで仕事がなくなったと」
「いや、ひどいのは、金が振り込まれないのに、仕事は大量にあったことだ。白いゴミ箱に、死体が次々と途切れなく」
「死体?」
「システムとしては、指定された白いゴミ箱に、ヤバイ物が隠される。それを俺が回収処理する。すると、金が振り込まれる」
「冗談でも、お客様の耳に入る可能性があるレジで、死体とか言わない方がいいですよ」
「すいません。気をつけます」
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
「今度のドラマに、私どものタレントを使っていただければと」
「おたくのタレント、評判が悪すぎるよ。現場からすぐにばっくれるしさ。いじめもエグイって」
「確かに今までは酷すぎました。ですから新体制の元でタレント教育を徹底し、ドタキャンなど許しません」
「あと、予算ケチって、安い整形させているのも、陰口叩かれているよ。二十年前の整形技術だから、みんな同じ顔に見えるって」
「予算をかけて、最新技術の整形をさせるようにしました。ちゃんと個性美人に見えます」
「じゃあ、お試しで使ってみるか」
「ありがとうございます」
「ただし、まだ信用してないよ。いままでのように二日システムを使ってきたら出入り禁止だからね」
「二日システム?」
「おたくの会社がやっていたバレバレのあれよ」
「あれ、ですか?」
「そうだよ、おたくの会社のプロ意識の無いタレントが、仕事を投げ出して行方をくらませた時に、よくやっていた小細工。1、タレントが仕事を放り投げていなくなる。⒉、安物の整形させているから、同じ顔に見える別人が事務所にいる。3、タレントの不始末を誤魔化すために、同じ顔をした別人を、本人のふりをさせて出勤させる。タチが悪すぎるよ。表沙汰になっていないだけで、けっこうなトラブルが発生しているはずだよ」
おわり