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……これはレーノが客室にてスヤスヤと眠りについている深夜のお話……。
コンコンと静かに扉をノックする音に入室の許可をだす国王。
「失礼いたします」
と入ってきたのは彼の息子である王太子であった。
「父上、お呼びと伺い参上いたしました」
「あぁ、座りなさい」
と着席を促し、国王も向かいへを移動しソファへと腰を下ろした。
「事情は?」
「おおまかには……この度は私の不手際で申し訳ありませんでした……王子達の管理は私の仕事でございましたのにこのような大事になってしまうとは……」
「いや、私もきちんと自分の目で確認することを怠った……本当の責任は国王たる私にあるだろう」
「いえ、王子達の素行は王太子たる私の仕事の一つですからすべて私の責任です、なので私は責任をとり王太子の座を」
「それ以上言ってはいかんぞ王太子!」
慌てて制止する国王。
「言葉には責任が伴うものだ、不用意にそのような発言は許さんぞ!」
「しかし父上……この問題は誰かが責任を取らねば元老院が納得いたしません……」
王太子は沈痛な面持ちで力なく言う。
「確かにこのままでは誰かが責任を取らねばいかん、だがシュアークの住む王子棟を根こそぎ調べ上げたところ、王宮に登録のない小姓が一人紛れ込んでおった」
「父上……まさか間者の類ですか?」
「それがな……どうも隣国に遊学した際にシュアークが拾ってきた者らしいのだ」
「拾った……とは?」
「シュアークを昔から世話している執事に確認したところ、遊学から帰る道で行き倒れていたのを拾ったらしい」
「……そんな怪しげなものを王宮へ入れたのですかあいつは!……しかしそのようなものを拾うような殊勝な奴ではないような……執事が反対したりこちらに何の報告もしないなどと……まさか父上……」
「あぁ、どうやら他国の神の祝福をうけているようでな……神殿へ連れて行って検査した所、『思考誘導』の力があったらしい」
「では愛し子様であると?」
「いや昔は分からんが、恐らく賜った力を『悪意』で振るったせいであろうな……弱弱しい力の片鱗が確認できただけだと報告された……その後尋問を行ったところすべて話したそうだ」
「そうでしたか……」
「最初は異国の神が王城にて保護させるためにシュアークに拾わせたのであろう……だがその後に王宮でシュアークの小姓として暮らすうちにグーシャを見かけ、嫉妬の念を抱いたそうだ。
自分は両親を病で一度に無くし、行き場なくさまよっていたのに自分と同じ年ごろのグーシャは何不自由なくノビノビと王城で暮らせていることにな……」
「……それは……確かに同情の余地はありますが、だからと言って……」
「まぁ最後まで聞け、確かに嫉妬はしたが、だからと言って亡き者にしようと暴力に訴えたりすることは考えてはいなかった、シュアークを使ってちょっとした嫌味やイジワルをするように『思考誘導』をつかったと……だが、そのちょっとした事とシュアークの元々の性格が合わさり悪い方へ作用していったようだな、過度な体罰や罵倒などを繰り返していたらしい、さすがにまずいとその小姓はグーシャに『これはグーシャ殿下を鍛えるための王子教育なのだと』思考誘導し、グーシャの世話係や護衛なども同じく、たまに見かねて止めようとした第三王子にも誘導の力を使って誤魔化したのだという」
「なんてことだ……」
拳を強く握りしめ怒りを鎮めようとする王太子。
「さすがにそこまでの事をしては、神の寵愛も薄れるのも道理、だがまだ繋がりが完全に断たれたわけではないから下手に手出しはできん。隣国の神殿へ送ることが決まった」
「…………それしか方法がないのは頭では理解しています……ですが弟達の人生を狂わせて置いて何の咎も受けないなんて……」
王太子が愛し子の存在そのものを憎く感じてしまうのも無理はなかった。
「王太子よ……咎を受けぬわけではないぞ」
「え?」
「神より賜りし力を不当に操ることは、神がお許しにならない。神殿へ送られた小姓がどういう末路をたどるのかは神のご意思次第ではあるがな」
「そうなのですか……ですがシュアークとグーシャの処刑は免れないのでは……?」
やりきれない思いで国王へ問いかける。
「そこもまぁ……グーシャは厳罰を受けるかもしれぬが命は助かるのではないか、シュアークについては生殺与奪の権利を与えられたデスワー嬢次第……だなぁ、だがあの令嬢なら『処刑なんて生ぬるい!』と生かしてこき使いながら屈辱を与え続ける道を選ぶだろうよ」
そういいながら、ははははっと笑う国王であった。




