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レーノは目の前の豪奢な扉の前でめちゃくちゃ緊張していた、そんな様子を微笑ましそうな顔で見ながら家令は扉を開けるように、扉を守っている近衛騎士へ指示を出す。
「陛下、御命令通りにマキコマ子爵令息であられるレーノ・マキコマ様をお連れいたしました」
「こちらへお通ししてくれ」
おそらく陛下の私室の一つなのであろう豪華な応接室へ通されますます緊張するレーノ。
「お……王国の輝ける太陽である国王陛下に拝謁を賜り恐悦至極に……」
「いやいや!そんな堅苦しい挨拶などなさらずともよろしいのです!」
国王陛下自らが慌ててレーノの口上を静止する。
「え……ですが私はただの子爵の三男ですから……」
その発言に少し困ったように国王陛下は
「確かにその通りではありますが、貴方様は学院で『生徒会長』を立派にお勤めになった……つまり貴方は『神のいとし子』としての適性を持たれ、尚且つ神おろしまでなされたと報告が上がっております」
「いや、あれは自分の意志ではなくて……」
「ええ、そこはきちんと理解しておりますよ。ですが短時間といえども、肉体に神を宿しながら無事でいられるのは並みの適性ではありません、恐らく神殿で判定を受ければ『御子様』となられる可能性も……」
「じ……冗談じゃありませんよー! 私は神殿で飼いご……げふん……下にも置かない扱いとか金もう……オホン……浄財を賜るために全国を巡る旅など、とてもとても……」
ブンブンと首を振りながら慌てていらないことを口走りそうになるレーノを見て
「ははははっ! マキコマ子爵子息……いやレーノ君はとても愉快な青年だねぇ」
と楽しそうに笑う国王陛下であった。
「陛下……いつまでも立ち話もなんでございますから……」
「あぁそうであった、とりあえず茶を用意させるのでどうぞお座りください」
「あ、ありがとうございます……あと、恐れ多いんでその……普通に一貴族の子供として接していただけたら……」
「……本来であれば、学院の生徒会長となった時点で、非公式にではあるが身分だけなら国王と同等とされるのだからそこまで気にせずともいいのだがね……気を使わせるのも本意ではないから少々くだけた言葉にしようか」
「はい!ありがとうございます!」
ほっとしたように微笑むレーノ
「ははは!そんなことでお礼を言われるなんて初めてだよ、ところでレーノ君はもう就職先は決めてあるのかね?」
「はい、王立図書館の司書をされていた先輩が退職されるそうなのでその後任に立候補しました」
「そうか、王立図書館なら警備も万全だから問題ないな、だが念を入れて警備陣の人選の見直しはしておくように」
チラリと側に控えていた家令に指示を出す国王陛下、その言葉にうやうやしく礼をして答える家令であった。
だが、一連のやりとりにイマイチぴんと来ないレーノ。
「え?図書館に危ない事なんてありませんよ?」
「あぁその通りだ、だが図書館は『知の神』の愛する場所だからね、火事なんか起きても大変だろう?だからちゃんと定期的な警備の見直しが必要なんだよ」
「あーなるほど!」
納得顔のレーノをニコニコと見ながら国王陛下と家令は、唇の動きだけで会話する。
【やはりこの気質こそが神に愛される、いとし子様になる素養なのであろうな……くれぐれもおかしな連中が、変な考えを起こさせないように手配せねばならん】
【昨日の今日で、権力に物をいわせたレーノ様への縁談の持ち込みや自らの家門への取り込みなどを工作し始めている愚か者が幾人かおりましたので、すでに処分いたしました。又ご家族の方へもすでに影をつけております】
【卒業後の学院生徒会長への不当な干渉は法で罰せられると決まっておるのに、理解できないような馬鹿のせいで国が滅ぶような事態だけはなんとしても避けねばならん……そのために審判の神がワザワザ釘を刺していかれた事に気づかないような者などわが国にはいらぬ……相手が誰であろうと容赦はせぬように】
【畏まりました】
そんな物騒な会話がなされているとも知らずに、のんきにお茶を口にしながらこのクッキー美味しそうといわんばかりの表情で菓子の皿を見ているレーノ。
「ところでレーノ君、今回はうちの愚息共が本当に申し訳ないことをしたね……一個人の子供たちの父として謝罪させてほしい」
そう言いながら深々と頭を垂れる国王陛下。
「へぇっ……! いやいやいや、あ、頭をお上げください陛下ぁ……」
「後日卒業生達へも迷惑をかけた謝罪をするつもりではあるが、パーティーの準備のために一人だけコッソリ連日徹夜で準備を進めていたと聞いているよ? 頑張った君の努力を無駄にするように騒ぎを起こしたばかりか『禁止ワード』まで口にして神明裁判まで起こさせてしまった……父として本当に情けないやら申し訳ないやら……」
国王陛下の旋毛などという普通の人は見たことがないのではないかと思われるものを見せられ、レーノは半ばパニック気味に
「だ、大丈夫ですっ!パーティーは、みんなが喜んでくれましたし神明裁判も『テンビーン・ハカルー神』とデスワー嬢がほぼ解決してくださいました。私は特になにもしてませんので頭をお上げください!」
あわわわと手をパタパタさせながらなんとか国王陛下に謝罪を止めさせようとするレーノ。
「陛下」
国王陛下のほうへ冷気を感じさせる笑顔で声をかける家令。
「そうだな……レーノ君に謝罪で負担をかけるのもおかしな話だ……ただ一言だけ良いかな」
「はい、なんでしょうか」
「末王子のグーシャを救ってくれてありがとう」
「え?」
「夕べのうちに審判の記録を読ませてもらったよ。君とアークヤーク公爵家がグーシャの置かれた境遇に同情を寄せてくれたおかげで、問答無用の断罪を受けずに済んだ……恐らくその情状酌量がなかったら最短で神罰を受けてそのあと処刑コースだったろうね」
「あー…………。 陛下は……」
言いづらそうにレーノは言い淀む。
「ん?何でも聞いてくれて良いよ」
「グーシャ殿下の置かれた境遇をご存じだったのですか……?」
「正直に言おう……まったく分からなかった。 王子間に諍いなどの兆候は見られないとずっと報告を受けてそれを真に受けていた……もっと子供たちとの時間を取るべきであったと今は後悔しているよ」
悲しそうに国王陛下は答えるのであった。
・そろそろ『愛し子』についての説明をば
愛し子と呼ばれていますが、この世界では多数の神がいてそれぞれの神と波長が合う(その神に声が届く)
人が基本『愛し子』という存在になります。(他国にも色んな制度がある)
レーノ君達の学院の場合は審判の神に声が届けられる存在じゃないと裁判が開けないので、生徒会長=愛し子という事ですね。
ちなみに生徒会長の選任は、裁判を開くための鍵が勝手に選びますので学院はノータッチ。
※ただし作中でかいてあるように神との契約で王族は選ばれないようになってます。
・ちなみにレーノ君上手く誤魔化されてますけど、図書館は知恵の神の加護があるので絶対燃えません!




