6
その瞬間、審議場へ一人の男が現れる。
そう、第四王子シュアークであった、彼は突然見知らぬ場所へ飛ばされた事にひどく驚いていた。
「な……なんだここは! 一体なぜ私はこんな場所に……んん?そこにいるのはデスワー嬢ではないか!」
「ごきげんようシュアーク殿下、ここがどこかお分かりにならない?」
「いきなり飛ばされてきたのだっ!分かるわけがないだろう! ……いやそもそもデスワー嬢は学院の卒業パーティーに参加中だったはずでは……? ん?よく見たらグーシャもいるじゃないか、何を泣いているんだ?」
「あらまぁ、グーシャ様が泣くようなことに心当たりはございませんの?」
「なぜ私が? 大方また馬鹿な真似でもして醜態をさらしているだけなのでは?」
と馬鹿にしたようにグーシャを見ながらせせら笑うシュアーク。
「まぁ確かに馬鹿な真似をなさってはおりますわね、どうやらそこのピンク髪の令嬢に上手く乗せられたようですけども……おかげさまで現在『禁止ワード』を発してしまった件でわたくしに告発されて神明裁判の真っただ中……というわけですわ」
「き……『禁止ワード』だとおおおお! なんでそんな事に……」
「お二人は真実の愛で結ばれているのだと高らかに宣言されてしまいましたのよ? その辺はそこの令嬢にきつく言い含めておくべきだったのではないかしら? あと愛人はきちんと躾けておくべきですわよ?」
ニコリと笑いながらシュアークへと忠告めいた言葉を告げるデスワーに、またしてもカッとなったネートリーが突っかかっていく。
「私は愛人なんかじゃないって言ってるじゃないの! シュアーク様!あの性悪女に言ってやってください!私たちは愛し合ってる、将来私を妃にするんだってー!」
「ばっ馬鹿をいうなお前なんて……」
途中から言葉を発せられなくなったシュアークを見て
「おやぁ?『お前なんて知らない』とでも言いたかったのでしょうか?残念ですけどこの場で嘘はつけません事よ?」
「はっ?」
一連のやりとりを静かに見守っていた裁判長であったがここでカンカンと木槌を鳴らし
「デスワー嬢のおっしゃる通り、この場は神明裁判の審議中です。現在この場は『審判の神テンビーン・ハカルー神』が降臨されている神域であることを殿下も肝に銘じてご発言ください!」
「なっ……なんだってそんな事に……」
すべての事態を悟ったシュアークは呆然と立ちすくむ。
「そこのピンク髪の令嬢がシュアーク殿下に対してきちんと発言できている時点ですべて真実を語っていることになります。その発言の中にシュアーク殿下が令嬢を甘い言葉で唆し、デスワー嬢とグーシャ殿下の婚約を破棄させようとしたとほぼ自白されています」
「はっ?わ、わたしは………」
途中から話せなくなって、蒼白な顔で首を振るだけになったシュアーク。
「これ以上嘘をつき続けようとされると、神罰が起きるかもしれ……」
ピシャアアアアン!と轟音がなり響き眩い光に全員の目がくらむ、ようやく目が慣れてきた時に目に映ったのは、気絶して白目をむき大の字に床に転がっているシュアーク、その頭には一本の髪の毛もなくなり、顔には大きく赤い×が書かれており、額には『姑息で卑怯な女の敵』と書かれている。
その姿に一同ポカーンした表情になっていた。
「いやああああああ!シュアーク様しっかりなさってぇぇえええ」
そこは愛の力なのか、すぐ我に返ったネートリーが駆け寄り、シュアークを抱き起そうとした触れた瞬間
パチーーーンと電撃が走りネートリーも感電したように倒れた。
どうやらネートリーの顔にも×が描かれているようだがシュアークほど大きくはなく片側の頬に見える程度だった。
「ネートリーぃぃぃ!」
拘束がとけて動けるようになったグーシャが叫びながら駆け寄る。
騙されたと足蹴にでもするのかと思いきや
「大丈夫か?」
なんとネートリーを、助け起こそうとするグーシャであったが、一連の音よりも大分小さいペチンと音がして
「あ痛ああああ」
とおでこを両手で押さえて悶えている。
「裁判長、これはもしや裁定がおりたということなのかしら?」
レーノは目を瞑ったまま言葉を放つ
『もう茶番は良かろう、そこの愚か者どもに必要な我の裁定は終わった。まったくこのような茶番の必要性が分からぬが契約は契約だ、手間を取らせおって』
「これは『テンビーン・ハカルー神』直々のお言葉を賜り恐縮至極に存じます」
『良い、まぁそなたの言動も良い余興であった故、そこの愚か者の償いはそなたに一任しよう。後は愛し子の良いように』
「ありがたき幸せにございます」
デスワーは美しいカーテシーにてテンビーン神を見送る、それに倣い聴衆も深く礼をとるのであった。
その数秒後、レーノはハッと目覚めたようで
「……『テンビーン・ハカルー神』の裁定は下りたようです、後は下界の方によって裁きを受けさせよとの事でした!では神明裁判はこれにて閉廷されます!」
カン!と鳴らされた木槌と共に法廷は消え、元のパーティー会場へと戻された。
それと同時に、レーノは会場にいた職員を呼び王子達を連れ出させながら
「パーティー会場の皆さんお疲れ様でした! 裁判は神域で行われていたため時間はまったく経っておりませんから楽しいパーティーの続きをお楽しみください!」
とにこやかに告げた、その言葉に裁判の興奮冷めやらぬ卒業生たちが嬉しそうにパーティーを楽しみだすのであった。




