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「グーシャさま……こわい……」
涙目でグーシャを見つめるネートリー。
「ネートリー!大丈夫だ俺がついている、さぁお前が受けてきたひどい仕打ちの数々をすべて訴えよう!」
その言葉に、ネートリーはダラダラと汗をかきはじめ目が泳ぎだす。
「そ、それは……」
ネートリーはモゴモゴと何やら言い始めた。
「裁判長!何を言ってるのか全く分かりませんわ!」
「そうですね……ピンク令嬢!きちんと発言しないと『神罰』が下りますよ!」
「ひ……わ、わかりましたぁ……私は学院で『グーシャ殿下に近づくな』とイジメや嫌がらせを受けていました! 犯人の顔はみていません!後ろ姿の髪色がデスワー公爵令嬢にそっくりだったからデスワー令嬢だと思いました!」
「なるほど、その件に関しては事実であるようですね。ただし犯人がデスワー嬢であるという確たる証拠はないと……ならばデスワー嬢のアリバイが証明できれば問題ありませんね」
「そうですわね……では裁判長、ここで証人を喚んでくださいますか?」
「どなたをお呼びすれば?」
「わたくしと殿下の婚約時の契約には婚姻が成立する日まで『王家の影』をつけるという契約もありますの」
その言葉に固唾をのんで見守っていた聴衆もどよめく。
「第五王子の婚約者に『王家の影』をですか……」
「父が過保護なもので」
とニッコリ笑うデスワー。
「……なるほど、承知いたしました。『証人をここへ』」
その言葉と共にデスワーの向かい側に一人の黒づくめの人物があらわれる。
「王家の影という特性上顔や素性を保護するために特別な認識阻害がかかっていることをみなさんにお知らせします。また、この人物を召喚したのは審判の神ですのでくれぐれも、偽物などと疑ったりなさいませんように!」
そういいながらグーシャを睨む裁判長であった。
「この先、殿下には進行を阻害しないように沈黙を保っていただきたいので、着席して愛する方の証言を静かにお聞きください」
そう言うとカンカンと木槌を叩いた瞬間、少し離れた場所に椅子が出てきたと思うと、次の瞬間シュッとグーシャが椅子に座らされた。
反射的に立ち上がろうとしているようだが、動けないようでビクビクと体を痙攣にように短く動かしているが果たせないようだ。
「では、影の方もお忙しい事でしょうから、さっさと済ませましょう」
「承知した。神明裁判にはすべてを答えて良いと決まっているので、なんなりとお答えしよう」
男か女かもわからない不思議な声色で、影は答えた。
「では早速、デスワー嬢には影がついていたという事ですがずっとお一人で任務をこなされていたのですか?」
「いや、婚姻まで片時も離れることがないよう5人がそれぞれ交代で任務にあたっていた」
「ということは、デスワー嬢は朝起きてから夜寝ている間もすべて影の方が側にいたということですね」
「そう、だから学院に通っている時間も我々は常に側にいた。 だからこの審判の中での疑惑を持たれているそこの令嬢に対して、護衛対象のデスワー様が、嫌がらせ等の行為を行ったかどうかの証言をすることができる」
「なるほど……では率直にお聞きいたします。 デスワー嬢は嫌がらせ等を行っていましたか?」
「いや、そんな事実はない」
「そ……そんな……だってあの時確かに姿を……」
「デスワー様は、確かに何度かそこの令嬢を見たことがある。だかその時は必ず側にグーシャ殿下がいた、それ以外の接触は一切なかったと証言する」
「承知しました。 ではデスワー嬢の潔白が証明されましたので、影の方はお帰りいただいて結構です、ありがとうございました」
そういうと裁判長は木槌を打ち鳴らし影を帰還させた。
「ピンクの令嬢に対して嫌がらせを行っていた人物はデスワー嬢ではなかったと真実が明らかになりましたので、この件はここまでとします。この先の犯人捜索は学院側の方へご依頼ください」
その言葉に目に涙を貯めながらうつむくネートリー、それを見てまたガタガタと小刻みに動くグーシャであったが、誰もその姿を見ていなかった。
「では、今回の裁判の争点『禁止ワード・真実の愛』について改めて問います。ピンク令嬢、貴女はグーシャ殿下と真実の愛で結ばれた恋人なのですか?」
「あ……あの……それは……あ、そうだ!そもそも『禁止ワード』ってそもそも一体なんですかぁ?」
そう問いながら小首をかしげるネートリー。
「……確かにこの『禁止ワード』は高位貴族のみに適用されるので、ご存じないのは無理ないでしょうね。『この禁止ワード』に該当する言葉はいくつかあります、まぁ今回の裁判とは関係ないので省略しますが、高位貴族が大衆の前でこの言葉を放った時点で、言われた人物、親族や機関等の責任者などが告発した場合に、問答無用で審判の場が開かれます。今回は学院内での告発でしたのでこのように開かれましたが、王城や公共施設、屋外などいろいろな場所に審判の場を開くことが出来る人物がおりますので、高位貴族の方はくれぐれもよく考えて行動されることをお勧めいたします!」
その言葉に聴衆からざわざわと声が漏れ聞こえる
『あの話本当だったのか……乳母の適当な寝物語かと思ってたよ……』
『そうね……私も思ってたけど現実にこうやって神明裁判が開かれてるわけだし……発言にはきをつけないとね……』
などと驚きの声が広がるのであった。
この場面で書くことか分からなくなっちゃったので後書きにて補足。
レーノ君が審判を開ける人物が、そこら中にいると言っていますが、実全員元生徒会長の卒業生です。
学院創立自体が100年以上前なので元生徒会長も結構な数が存在します。




