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「な……なんでお前の質問なんかに答えてやらねばならんのだ!」
未だに事態を把握しきれていないグーシャは、苛立ちをぶつけるように裁判長へ言葉を投げ付ける。
「何度もは言いませんよ殿下……質問に答えなければ問答無用で『神罰』が下ります」
その言葉と同時にピシャァァァンと、グーシャの足元へ雷が落ちた。
「ヒッ……ひぁぁぁっ」
驚いて尻餅をつきながら後ずさりするグーシャ、するとそれまで無言を貫いていたネートリーが
「グーシャさま……ダっさ……」
と吐き捨てる。
「ね……ネートリー……?」
「ち……違うんです! なんか口が勝手に……」
そう言いながら両手で口を覆い隠し涙目でグーシャを見つめる。
「そうか……きっと妖術かなにかで思ってもいないことを言わされたんだね……」
その言葉に裁判長は驚愕し
「はぁ? だからそんな訳ないでしょうが……神域ですよここ!し、ん、い、き! 意味わかってますか⁉ 神域の中で通用する妖術なんてあるわけないでしょ!」
「いや、俺の愛するネートリーが俺を罵倒するなんてありえない!」
キッパリと言い張るグーシャをみて
「……まぁ……殿下がそこのピンクを心から愛してるのはなんか分かりましたし、もういいです……」
予想以上に気疲れしてきた裁判長は、早々に質問者を変えることにした。
「では、そこのピンクは後回しにするとして……デスワー嬢へお聞きいたします。グーシャ殿下はデスワー嬢と婚約をされていたわけですが、そもそも婚約に際しての契約はどういったものだったのでしょうか? 」
「そうですわね……本来であれば、王家との契約ですのでうかつにお話するような真似はできませんけれども、審判の場での問いであれば問題ないでしょう……お答えいたします。 まず、結婚と同時に殿下は臣籍降下してわたくし、デスワー・アクヤークの婿になる予定でございました」
「は?何言ってるんだ?臣籍降下して王族を抜けるなんて聞いてないぞ!」
と、グーシャは驚愕する。
「……殿下は一体どういう教育を受けてきたのか、王城の教育係と国王陛下にぜひともお聞きしたいですわね……契約の中に『馬鹿は婿にできないので最低でも伯爵の嫡男相当レベルの知恵はつけさせる』契約になってたはずですけど……まぁ確かに学院のテスト自体は真ん中を彷徨っているくらいですから、完全な契約違反ではないのでしょうが……王族以前に貴族としての常識がダメダメなようですわね……」
そう言い終えるとデスワーは大きくため息をつく。
「殿下は、どうしてご自身が第五王子であるのに王族に残ったままでいられると思われたのかしら?」
「それは……王子なのだから、兄上である王太子殿下のイザという時の為のスペアとして……」
「それは第二王子と第三王子殿下くらいまでの話ですわね、しかも王太子殿下には、もうすでに王子殿下がお二人もお生まれですし、猶更グーシャ殿下を王族に残しておく意味は薄いのでは?」
「え……だって兄上達がいつも言っていたぞ?『おまえは将来立派なスペアになれるぞ』って……」
「それは殿下が幼児の時によく言われてたセリフですわねぇ……。簒奪なんて馬鹿な考えを起こさないように洗脳ぎみに刷り込まれてましたけど、まさか未だにその言葉を信じていらっしゃったとは……そういえば殿下はお小さい頃から、兄上である王子殿下方によくオモチャにされてましたわね」
「オモチャってなんだ! 兄上達は俺を可愛がって下ってただけじゃないか! 兄弟仲が良いからっておかしな嫉妬心を起こすなみっともない!」
「あれは兄弟愛……なんでしょうか……わたくしには理解できませんけれども……」
そう言い淀んだデスワーへ裁判長が問いかける。
「なにかそう思えるような出来事でもあったのですか?」
「……昔、幼児だった殿下とお兄様方がお庭で遊ばれてたりしたのを、たまにお見掛けいたしましたけど、紙に包んだ菓子を『グーシャ、これは特別製の空飛ぶ菓子だぞ!すごいだろう!ほーら飛んでった!取っておいでーー』と遠くに投げつけて拾いに行かせておりましたわ……」
「あぁ『空飛ぶお菓子』か……懐かしいな……兄上方はいろんな遊びを考案するのがすごくお上手でなぁ、俺のためにと王子修行を考案してくださって、その一環で庭石に体を縛り付けて一晩明かしたり、池で水行なんかも考案してくださったのだ」
と懐かしそうに目を細めるグーシャ。
「えぇ……グーシャ殿下……実はあまり良い待遇でお育ちでないのでは……?」
「まぁ、腐っても第五王子ですから直接危害などは……それにわたくしとの婚約が決まってからは最低限の交流のみになったようですわよ」
「あぁ、婚約が決まった時に『これからは一人で修行頑張るんだよ』と声をかけてくださったんだ」
嬉しそうに微笑むグーシャ。
「……すみませんなんか胸が痛いんですけど……」
「そうですわね……このような方だから『王家に残しておけないと思って引き取ることにした』と父が言っておりましたわ……」
「なるほど……婚約の経緯は確認いたしました、この婚約は政略……というよりほぼ公爵の慈善活動的なものだったと」
「契約ですからそれなりのメリットも頂戴はしておりますので、慈善ではございませんわ」
ふふ、と可愛らしく微笑むデスワー。
「それに、わたくしも殿下が性悪とおっしゃる通りそれほど善良な心根ではございませんし」
「そ、そうだ! お前は私の愛するネートリーを散々いじめるような性悪なんだ!」
とグーシャは勝ち誇るようにデスワーを指さす。
「あら殿下、性格の良い者が高位貴族など勤まるとお思いですの? そんな甘ちゃんな考えで社交界を渡り歩くなど、とてもとても出来はしませんのよ?」
そう言いながらバッと手に持った美しい扇子を広げて見せる。
「家門を守るためならば、卑怯だ極悪だと陰口や噂話を言われる位当たり前ではありませんの。 まぁそれを表立って行動に移して、証拠を残すような愚か者は高位貴族にはおりませんけどもね?
……そもそもそこの名前も知らないピンク髪にイジメとか嫌がらせをしたなどと、何の証拠もないことを言われてもわたくしも困りますわ」
「なっ……ネートリーをバカにするのは許さないぞ!」
「わたくしは事実を述べているだけですわ!学院でベタベタしている姿は拝見いたしましたが、そもそも殿下に紹介されてもおりませんので名前も存じませんでしたし、どこのどなたかも分からないので嫌がらせのしようもございませんわ!」
「そんなはずはない! ネートリーはお前にイジメを受けたと言っていたのだ!」
その言葉にギラリと目を輝かせ、デスワーは
「ならばこの場で決着をつけようではありませんか! 裁判長!そこのピンク髪に証言を求めます!」
とネートリーを指さす。
「分かりました、ではそこのピンク!その証言と共に最後の『禁止ワード』についても証言してもらいましょう!」
と裁判長も木槌を突き付けるのであった。
・この世界では、貴族同士の慣例で自己紹介の挨拶を受けてない人物の名前は、知っていても呼んではいけないという慣習があったりします。
・デスワーとグーシャは幼馴染です。
デスワーは、他の王子とも婚約する可能性があったため頻繁に王城へ、遊びにいらっしゃいとお呼ばれしていました。
・ちなみにネートリーが一切会話に混ざらないのは、ヘタに口をはさむと危険だと察知していたからです。




