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バーーン!といきなり開いた扉を驚愕した表情で凝視しているのは部屋の主であるグーシャ。
「たのもーーう! ですわ!」
カツカツと部屋に入ってきたのは、デスワー。
「デ、デスワー……? 一体何しに来た……あぁ、俺の処分か」
納得した表情のグーシャ。
「逃げも隠れもしない。さぁ裁定を……」
「何一人で納得しやがってらっしゃるのかしらっ!」
その言葉と共に鋭い拳がグーシャの鳩尾にクリーンヒット!
「ぐはぁぁっ」
その勢いでグーシャは後方へ飛ばされるが幸いソファーの置かれている方向だったため、ソファーに叩きつけられて勢いが削がれた。
「まったく……ご自分がなにかおっしゃることが出来る立場だと思って? いいからわたくしの話を黙ってお聞きなさい!」
「う……ぐ、ゲホッ……わ、分かった」
そう言いながら痛みをこらえつつソファに座りなおすグーシャ、その前に仁王立ちでグーシャを見下ろすデスワー。
そのままじっと見続けられ、だんだん居心地が悪くなってモジモジとしてしまうグーシャであった。
「デ……デスワー……?」
「……わたくしは」
「……はい」
「殿下を子供のころから知っておりますわ」
「はい……」
「なのに、殿下があのクソ男のシュアークに虐げられているのを見て分かっていたはずなのに理解できていなかった……」
「それは……」
「えぇ、それが『思考誘導』の結果なのだと今はわかっておりますわ、でもグーシャ様……貴方が内密に父に相談された時点ではまだちゃんと、考えることが出来ていましたわね」
「うん」
「やはり、わたくしとの婚約が直接の原因で完全に意識をシュアークの良いように誘導されてしまったのですね……」
「……最初はね、なんかおかしいなって気はしていた。 でも兄上が僕のためを思って色々指導してくださってると思ってたし……でも、アークヤーク公爵にそれとなく相談してしばらくたってから、デスワーと婚約が決まって正直嬉しかった、デスワーとは幼馴染だし嫌いじゃなかったから……だから兄上が王籍を抜けて城をでるか僕が結婚するまでガマンするだけでいいなって、軽く考えてたんだ」
「……あのピンク令嬢とは?」
「ネートリーと初めて会ったのは、王家主催の茶会が初めてだったと思う……普段会う機会がない低位の貴族の子息や令嬢と学院に入る前の顔合わせも兼ねて主催されるやつ」
「確か、王妃様や王太子殿下を始めとした王子方も出席されていましたわね」
「うん、低位貴族とも交流することは王族として大事にしないといけない事だからね……そこでシュアーク兄上から紹介を受けたんだ」
「そんなに前から計画されていたんですのね……」
「始めは、学院の廊下なんかで顔をみたら会釈するくらいだった気がする……そこから少しづつ立ち話をするようになって、ちょっとした相談を受けたり……距離が近くなっていってた……そこからは君も知ってる通り、学院でやらかした通りの結果だ」
「えぇ、覚えておりますわよ。何度も廊下や教室、食堂などいろんな場所でお二人に謂れのない事で糾弾されましたわねぇ……えぇそれはもう毎日……そのせいで毎回騒ぎになって、事態の収拾のためにレーノ・マキコマ生徒会長が蒼い顔ですっ飛んでくるのが常態化してましたもの」
真顔で当時の記憶を思い返すデスワー。
「……学院の生徒や関係者には本当に申し訳なく思うよ……何度思い返しても恥ずかしい真似をした……」
ソファに座り、両手で頭を抱えてしまうグーシャ。
「そうですわね、学院の方にも改めて謝罪に行くべきですわね……後日行けるように手配いたしますわ」
「ところでデスワー、僕の処罰と今後はどうなるんだい? 王籍を抜けるのは当然としてどこかに幽閉かな?」
「なにをいってるんですの? 幽閉なんてもったいない! 今までグーシャ様に施された教育を無駄にするような真似をさせるわけないですわよ? それにグーシャ様に施されてたのは、わたくしの婿教育なんですから、当然アークヤーク公爵家からの支援金も使われてますの! それを無駄になんてしたら領民に顔向けができませんわっ」
ふん! と横を向き視線を逸らすデスワー。
「え……でも婚約は破棄されたんじゃ……それに僕は神明裁判の中で『真実の愛』を誓って……」
「ませんわよ」
「え?あれ?」
「レーノ・マキコマ子息が、『愛してるって発言できたからもういいです』っておっしゃっただけで、グーシャ様は誓っておりませんわよ」
「あっ……」
「あと、婚約の破棄はわたくし了承しておりませんし、裁判でもとくに触れられておりません」
「デスワー……それでいいの?」
涙目になってデスワーを見上げるグーシャ。
「わたくしは、悔しいのですわ……事実に気づけなかった自分に、そして結局何もできなかった事にもとっても腹が立ちましたの!」
デスワーも目に涙を浮かべながらグーシャを見る。
「グーシャ様とあのピンクが仲睦まじく寄り添う姿をみて何度も苛立ちましたわ……なんでちゃんと相談してくれないのか……これからどうしたいのかちゃんと話したいって……」
「うん……デスワー……ごめん……本当にごめんなさい」
立ち上がり、深々と頭を下げるグーシャ。
「このバカ王子! 浮気なんてしたら二度と許しませんわよ!」
「デスワー……」
デスワーがグーシャの胸に飛び込む、ちょっと勢いが良すぎてグエっとなるがそこは死んでもガマンしなくてはいけないところだ。
デスワーが胸に顔を埋めて泣いているようだったが、少し経って体が小刻みに震えだした。
「デスワー?どうしたの?」
「……ふふふっ、よく考えたらおでこにそんなデカデカと『おバカ』って書かれてる人が浮気できるわけないなって思いましたの!」
そう言いながらグーシャの前髪をかき上げて『おバカ』の字を見て笑うデスワー。
その言葉にションボリしながら
「浮気なんてしないってば……そういえば父上に『お前はその字は一生消さない方がいいぞ』って笑われたんだよ」
「そうですわね! 浮気防止もかねて一生そのままでいいと思いますわ!あと外に出るときは前髪は上げてくださいましね! それがグーシャ様の処罰ですわ」
ニコニコと嬉しそうに言うデスワー。
「うぅ……はい、分かりました」
「よろしい! ではそろそろ行きましょうか」
「え?どこに?」
「アークヤーク公爵邸、つまり『我が家』ですわっ! グーシャ様はもう王籍も抜けておりますし城からたたき出される予定になってますから、処罰のついでに拾いにきたんですのよ!」
おーほほほ! と高笑いするデスワー。
「そうか……拾ってもらえて嬉しいよ、デスワー」
とニッコリ笑うグーシャに
「ふ、ふん!さぁ荷物は後で運ばせますから行きますわよグーシャ様!」
と、真っ赤になってツンデレみたいなセリフになっているデスワーに
「では、エスコートさせてくださいご令嬢」
と手を差し出すグーシャ
「よろしくってよ!」
そう言いながら手を乗せ二人仲良く歩き出すのであった。
グーシャとデスワーは、今のところ恋愛2家族愛8的な感じの間柄です。
おかしくなってたグーシャに対して何もできなかった悔しさとこのバカは私が一生面倒を見る!という責任感もまざっての婚約続行でした。
『おバカ』の字が書かれた時に何度も思考誘導を受けて性格まで歪んでしまっていたグーシャの思考が元に戻ったのが確認されたため、いろいろな情状酌量が認められた感じです。




