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007冒険者登録

本日も数話投稿します。

「トルエノさん、お疲れ様です」


「セヴァちゃん!」


 トルエノとセヴァに呼ばれた女性は、安堵の表情を浮かべてセヴァを迎える。


「よかった……いつもより戻ってくるのが遅かったから心配したのよって、あれ? そっちの子は初めまして…………あれ?」


「トルエノさん、こちらはファムさんと言って……トルエノさん? トルエノさん? どうしました? おおーい」


 トルエノはファムを見たまま固まっていた。その様子にセヴァは不思議そうに声を掛ける。


「……はっ! う、ううんっ! ごめんね、なんでもないの……んんっ! えっと……初めましてですよね? 依頼の発注でしょうか?」


「ファムといいます。実は冒険者登録をしたくて……」


「え! 冒険者登録ですか!?」


 受付嬢のトルエノは驚きの声を上げる。そんな彼女の反応にファムは不安に駆られる。


「えっと……できますよね? 登録費用を払えば、冒険者登録ができると聞いたんですけど……」


「え、あ、はい、すみません。冒険者登録は問題なくできますよ。それじゃあ、こちらの用紙に必要事項を記入していただけますか?」


「わかりました……え?」


 トルエノがカウンターに置いた用紙にファムが早速記入しようとしたところ、それを阻むように大きな手が用紙に叩きつけられた。


 ファムがその手の持ち主を確認すると、酒のせいか顔が赤くなった巨漢の男だった。


「おいおい、こんなガキを冒険者にすんなんておかしいだろ!」


「バットさん! 冒険者は誰にでもなれる権利はありますし、この子ぐらいの歳の冒険者はたくさんいますよ! おかしいことは何もありません!」


「見たところセヴァと同じくらいだろぉ? セヴァみたいな雑魚がいるんだからよぉ……冒険者にする奴はもっと選んだ方がいいぜぇ?」


「っ!」


 バットという男の言葉にビクッと怯えたように体を震わせるセヴァ。それを見て調子づいた男は呂律の怪しい口で続ける。


「冒険者は魔物を相手にするのが領分だってぇのに……こいつは冒険者になって三年間、一度も魔物を倒したことねぇんだよ。たくっ、子供でも下水に増えたスライムくらい倒して小遣い稼ぎするってぇのに、この役立たずは……毎日毎日、草ばっか採ってよぉ……大した金にもならねえのに、ヒック」


「セヴァさんは役立たずじゃないですよ。薬草の採取も立派な仕事です」


 トルエノはきっぱりと反論するが、バットは怯む様子はない。


「ああ、大事だなぁ……でもよ。そんなのは新人の為にあるような仕事だろ? 三年間もやられたら目障りだぁ……たくっ、冒険者なんてやめて娼館で働けって俺は散々アドバイスしてやってんのによぉ……グヒッ」


 男はセヴァの体を舐めまわすように見て笑みを浮かべる。


セヴァは小柄だが容姿は愛らしく、胸は大人顔負けの大きさだった。バットは「こんな立派なものをもってるのにもったいねえ」と下品な笑みを浮かべながら、彼女の胸へと手を伸ばそうとする。


だが、その手は途中でファムに掴まれてセヴァには触れることはなかった。


「何しようとしてるの?」


「あん? なんだ嬢ちゃん・・・・、その手はよぉ?」


「? 嬢ちゃん? 僕は男だよ?」


「「「え?」」」


 その時、セヴァ、トルエノ、バットは声を揃えて驚きの声を上げた。ファムたちの様子を見ていた冒険者や職員も目を丸くすしている。


「……酔い過ぎて耳が馬鹿になってるみたいだ。こいつ、自分のことを男って言っているように聞こえたぜ」


「あ、あはは……ミニスカートがとってもよく似合っている女の子が、男の子なわけないじゃないですか」


「そ、そうですよ。ファムさんに借りた私服……可愛いワンピースで、どう見ても女の子が着るもので……」


 険悪だったバット、トルエノ、セヴァだったが、ファムの言葉があまりにも衝撃的で、自分たちが聞き間違えたのだと確かめるように言う。


「女の子の格好はしてるけど、男の子だよ僕は。似合うでしょ?」


 三人は全員ファムのことを完全に女の子だと思っていた。というのも容姿が可愛らしい女の子というだけでなく、服装もトルエノが言うようにミニスカートを履いていたからだ。


 ファムは女の子の格好をしていることに対してなんとも思っていない。女装をしているという意識もない。


 サキュバスたちからは自分が似合う格好をするのが一番と教えられた。それで彼は自分に似合う可愛らしい少女の装いをしているのだ。


「に、似合いますけど……」


「はっ! 男のくせにそんな服着てよぉ……気持ち悪いんだよぉ! んんっ? んぐっ……ぬおおおおおおっ、おいっ! どうなってやがる!?」


 バットはファムの手を振り払おうとしていた。だが、腕がピクリとも動かない……その細腕からは想像もできないほどの膂力に抑えつけられていたのだ。


「この、男女(おとこおんな)がっ!」


 掴まれていない方の手を振り上げるバット。それに対してファムは動じることなく見据える……すると――。


「あぁ……?」


 突然バットが膝から崩れ落ちた。


「ど、どうなってやがる……ち、力が入らねえ……うっ」


 しばらく四肢で体を支えていたバットだったが、やがて全身から力が抜けたように地面に倒れ伏すバット。そのまま彼は意識を失ってしまう。


「え……ええっ! ファ、ファムさん……何か、したんですか?」


「ん? いや、何もしてないよ。酔いが回っちゃったんじゃないかな?」


 仲間の冒険者と思われる男たちにバットは運ばれていくのを見ながら、ファムはそうセヴァに答える。


 だが、それは嘘だ。サキュバスなどの一部の魔物が使うエナジードレインを使ったのだ。


それは生物の生命力を吸う力で、本来この能力はサキュバスの場合、性行為の最中、対象と深く結びついた状態で扱える力だ。だが、高位のサキュバスほど軽い接触でエナジードレインを使うことができる。ちなみにファムは視界に入れるだけで、エナジードレインを行える。


 相手によってエナジードレインの効き具合は変わるが、バットであれば生命力を全て吸収することもできるが、さすがに死なせるわけにはいかない。意識を失う程度に吸うだけに留めた。


「さて……とりあえず邪魔者もいなくなったし、冒険者登録をさせていただきますね」


「え、あ、はい……それにしても男の子…………だとしたら、やっぱり……」


「? 何か言いました?」


「いえいえ、何も……あ、書けましたね! それじゃあ証明書を作らせていただきますね!」


 その後、トルエノに対応してもらって、冒険者証明書のカードが発行されて冒険者になることができた。

読んでくださりありがとうございます。


もっと他の話も読みたい、面白かったなど思っていただけたら、☆で評価・ブックマーク・いいねをしていただけると嬉しいです。


よろしくお願いします。

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