002黄金の魂
「あらあら、久し振りにここまで来た冒険者だったから、期待してたんだけど……がどれほどの実力かと思ったら……この程度なの?」
休憩の後にダンジョンの奥へと男たちは進んだ。そして下層と呼ばれる場所に足を踏み入れた時、それは突然目の前に現れた。
見た目は思わず息をするのを忘れてしまうほどの美貌を持った女性。男性が見れば劣情を、女性が見れば嫉妬を抱くであろう、妖艶で不思議な魅力を放っていた。
このような美女がダンジョン奥深くにいるとは思えない。そして彼女の頭には二本の角を生やし、身体は宙に浮いていた。
彼女を見た瞬間、男たちはすぐに彼女が魔物の上位的存在の魔人であると察して、逃げようとする。
だが、魔人は彼女だけではない。彼女の配下と思われる複数の魔人が彼らの退路を断ち、男たちは戦うしか道はなかった。そして一分も経たずに戦闘は終了する。なすすべなく男たちは殺された。
この場で生き残った人間は奴隷の子しかいない。
「はぁ……私のダンジョンに性奴隷を連れてくるなんて舐めているのかしら? まあサキュバスである私も、あんまり人のこと言えないけど……」
サキュバス。淫魔。性欲が強く、人を魅了し、人の生命力を好む魔物。
魔人の中でも戦闘能力が劣る存在だが、冒険者たちを圧倒したサキュバスは別格だった。
彼女がグリムリーパーサキュバス。サキュバスの上位種であり、魔王の一人として人間には認識されている。今回相手にした冒険者程度であれば、たとえ千人集まったとしても討伐することはできない存在だ。
「さてと、この子はどうしようかしら? 薄汚れてるけど、可愛い顔をしているわね。殺すのはもったいないけど……あら? この子……」
男たちを殺し終えた魔人は奴隷に近付き、纏っていた粗末な服を引き裂き裸にする。そして股にぶら下がっているものを確認した。
「ああ、男の子だったのね。大方、女の奴隷だとお金が足らなくて、男の、それもこんな小さな子を買ったんでしょうね」
「えー! ちょっと汚れてるけど、めちゃくちゃ可愛いじゃないっすか! 魔王様、アタシにくださいよ! 超好みっす!」
「ちょっとちょっと! ワタシも欲しいー!」
二人のサキュバスが、グリムリーパーサキュバスにそう懇願する。そんな二人に悩ましげに唸り声を上げる。
「うーん、別にあげてもいいけど……なんだかこの子、気になるのよね……」
「気になる? 珍しいですね、魔王様が人間に興味を持たれるなんて」
グリムリーパーサキュバスの傍に控える、執事のような装いのサキュバスは目を見開いて驚いた。
サキュバスであっても彼女は人間から生命力を吸うことは滅多にない。自身に見合った人間でなければ基本見向きもせず、性欲も湧かないのだ。
「あなたたちは分からない? この子から感じられる生命力……人間や魔物、魔神とも違うわ」
「んんー? そういえば、なんか違うっすね…………強いて言うなら、めちゃくちゃ美味しそう? じゅるり」
「そうなのよ…………もしかして黄金の魂かもしれないわ?」
「黄金の魂、ですか?」
「ええ、特別な魂……千年に一人生まれるかどうか。生命力が強く、深く魂が結びついた相手の魂の格を引き上げると言われているわ」
「深く魂が結びついた? それは……どういう?」
「さあ? ただ興味深いわね……決めた。しばらくこの子をペットにするわ。つまみ食いくらいなら許すけど、搾り取って衰弱死なんてことはさせないように」
こうして奴隷だった彼は、サキュバスのペットとなる。
彼は強欲の迷宮の奥にあるサキュバスたちの隠れ家で三年間飼われるのだった。
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