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記憶の消失  作者:
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プロローグ

新しい連載。

 背の高い木々が星々の光を隠していた。

 ここは、森の中。細く荒い獣道を、少女は歩いている。彼女はカンデラを右手に持っており、余裕の笑みを浮かべていた。その後ろを、付き添うようにして一人の女性が歩いている。彼女は先頭を歩く少女とは違い、目線がきょろきょろと動き、足取りがおぼつかない。彼女は化粧をしていて背が高い。スーツを着ているため、仕事帰りだろう。彼女はここに来るのが初めてだった。

「ここ、何処なの?」案の定、後ろを歩く女性が不安そうな声を出した。

「森の中です」少女は透き通る声で答えた。「安心してください。もうすぐ、着きますから」彼女はゆっくりと女性に振り向く。

 まだ、この森に来て三分も経っていない。

 だが、丁度二人の目先に、一軒のログハウスのシルエットが見えた。二人は黙って道を進む。ログハウスの外装は、そのほとんどがツタの緑で覆われている。屋根を遮るものは何もなかった。降り注ぐ月光の形は、丸くある。

 ログハウスの入口には、古びた板が立掛けられていた。

【記憶屋――店主・冠ミミ】

 女性は唾を飲み、再度ここに来た理由を思い出す。目の前にいる少女は記憶屋。記憶を売り買いする、商人であり、自分はその客であるのだと。

「さあ、どうぞ。商談は中で行います」少女は扉を開ける。

 最初は真っ暗な空間が見えた。それが、壁にかけられた蝋燭の炎が奥の方から順当に灯っていく。まるで幻影の世界に迷い込んだような錯覚を女性は覚えた。先は、ずっと長い廊下が続いている。奥は影が出来て何も見えない。明らかに、ログハウスの奥行きを超えた長さであった。

 女性は、心臓の鼓動が若干早くなるのを感じていた。

 明らかに、緊張している。

「ここなのね」足を踏み入れるのに、彼女は勇気を使った。

 ここに入ると、出てくるまでに大切なものを失っているようで、怖いのだ。だが、それは当然だろう、と彼女は思い込む。自分は記憶を売りに来たのだから。それは、人生の消失と近いものがある。

 右足から、ゆっくりと中に入る。

 身体全てが入った時、バタン、と大きな音が響いた。少女が扉を閉めたのだ。女性は驚き、振り返る。少女の顔がすぐ近くにあった。その後ろに扉は無い。驚くことに、少女の後ろはもう、ただの壁だった。

「それでは、ご案内します」

 少女が目線を上げ、女性に向けてにこりと笑う。すると、少女の後ろに長い通路が出来た。女性はとっさに後ろを向く。が、そこにあった通路はもうない。まるで、左右が反転したかのように、通路の位置が入れ変わっていた。

「…夢のような場所ね」女性は思わず口に出す。

「ええ。摩訶不思議な記憶屋ですから」少女はにこりと微笑んだ。 

週一投稿。月曜。…間に合うか?

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