あなたの側で私は歌う
本当はバッドエンドにするつもりだったけど。夏のホラー3作がバッドエンドだったので、ハッピーエンドにしました。
私は殺された。
5人の破落戸によって。
伯爵令嬢が笑いながら血塗れの私の屍を蹴っている。
気がすんだのか破落戸に命じて私の屍を崖から落とす。
崖から投げ捨てられた私の体。
ぐしゃりと嫌な音をたてた。
真っ赤な彼岸花が咲く。
それを私は空に浮かんで見ている。
伯爵令嬢と破落戸はやがて去っていく。
伯爵令嬢の笑い声を残して……
私はしばらくその場に留まっていたが、彼の顔が浮かぶ。
彼に会いたい……
やがて私は彼の住む町に向かって羽ばたいた。
どうやら私は白い鳥になっている様だ。
城壁に囲まれたミカサラの都が見えきた。
私は一気に彼の住む城に飛ぶ。
やがて彼が住む城が見えた。
彼の部屋の窓は閉められいるが。
私はすいっと窓をすり抜け彼の眠っているベッドに向かう。
彼はベッドで眠っている。
ああ……愛しい人。
心より愛しています。
私は彼の枕元に降りるとじっと彼を見つめた。
彼は魘されている。
私は彼の頭をチョンチョンとつついて彼を起こした。
彼は飛び起き辺りを見渡し、自分の部屋であることに気付く。
彼は汗を拭い私に気付く。
彼の青い瞳が私を見つめる。
「可愛い小鳥? 私を起こしてくれたのは君かい?」
私はチュンチュンと鳴いて頷く。
「ありがとう。小鳥くん。何か嫌な夢を見たんだ。何の夢か思い出せないが……」
私は彼の肩にとまり歌う。
彼を癒す。
生前の様に彼の好きな歌を歌う。
彼は肩の小鳥が何者か気付く。
彼の眼からつうーと涙が零れた。
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今宵は舞踏会。
皇太子と平民の娘との婚約発表が行われる。
平民と言っても彼女は聖女だ。
癒しの歌で人々を癒す。
聖女となった平民の娘は瞬く間に皇太子の心を射止めた。
元皇太子妃候補だった伯爵令嬢は父親に手をひかれ、王と妃にあいさつをしてニンマリ嗤う。
彼らの側に皇太子も平民聖女もいない。
尤も平民聖女は崖下にいるのだから、現れ様がない。
神官に金を握らせ神殿にいる聖女を拐わせた。
平民聖女は雇った破落戸に殺させ、崖下に突き落とした。
今頃は魔物の腹に収まっているだろう。
今頃神殿は上を下への大騒ぎ。
平民聖女も神殿も良い気味だ。
平民の癖にでしゃばるからこんなことになるのだ。
親切に何度も警告した。
身の程を弁えろと。
なのに……
頭の悪い平民娘は私の言う事を聞きはしない。
ざわざわざわ
人々がざわめいた。
伯爵令嬢はドアを見た。
皇太子のお出ましだわ。
白い豪勢な軍服を纏った皇太子が現れた。
えっ?
待って‼️ 待って‼️ 待ってちょうだい‼️
皇太子の横には白いベールを纏った平民聖女がいる。
白いドレスには真珠が惜しみ無く縫い付けられ、上品で皇太子妃に相応しい。
バカな‼️ バカな‼️ そんなはず無いわ‼️
だって平民聖女は私が殺したのだから‼️
あっ……
そうか……
あの平民聖女は偽者なのよ。
なんだ……焦ってしまったわ。
おそらく皇太子と神殿が口裏を合わせて、偽物の聖女を立てて時間稼ぎをしているのね。
そして狼狽えた私がボロを出して、その女は偽者聖女だと騒ぎ立てたら聖女殺しの罪を暴き立てるつもりだった?
フフフ……
そんな手には乗らなくってよ。
王様の挨拶が終わり、皇太子と平民聖女が踊る。
それにしてもそっくりね。
魔術で似せているのかしら?
それとも聖女見習いに似た娘がいたのかしら?
皇太子と平民聖女のダンスが終わった。
皆溢れんばかりの拍手をする。
人々は我先に皇太子と平民聖女に挨拶をするために二人を取り囲む。
そうね。私も偽者聖女に挨拶をしましょう。
「ご婚約おめでとうございます」
私は二人に挨拶する。
平民聖女はベールを上げて顔をさらしている。
本当にそっくりね。
上手く化けたものだわ。
どうやって化けの皮を剥がしてやろうか。
ああ……そうだ。
「聖女様。婚約のお祝いに祝福の歌をお聞かせ願えませんか?」
伯爵令嬢は可愛くお願いする。
いくら外見を似せても聖女の歌は真似出来ない。
伯爵令嬢はニタリと嗤う。
聖女は頷くと祝福の歌を歌う。
聖女の身体が仄かに輝き祝福の光が皆に舞い降りる。
「ああ……膝の痛みが消えていく……」
「まあ……右手の痣が消えたわ」
「目が……目が……失明した右目が見える‼️」
人々は偽者聖女を褒め称える。
なっ‼️
まさか……本物の聖女なの‼️
「痛い‼️」
私は転ぶ。
いきなり両足が無くなったのだ。
「痛い‼️ 痛い‼️ 痛い‼️」
「聖女の祝福は聖女に害を為した者には呪いなの」
平民聖女の姿は薄れていた。
やっぱり平民聖女は死んでいたのだ。
「女神様の慈悲で罪無く殺された聖女は、殺した相手の身体と命を引き換えに生き返れるの」
「そんな……そんな……馬鹿な‼️ 知らない‼️ 誰もそんなこと言わなかったわ‼️」
伯爵令嬢の両腕がサラサラと消える。
「これまで聖女を害そうとした者は居なかったから。教皇様も忘れていたみたい。今頃あの破落戸達も今の貴女と同じ様に消滅している事でしょう。転生も叶わず。完全消滅です。可哀想に……貴女はわたしに言いましたよね。身の程を知れと。確かにその通りです」
「いや‼️ いや‼️ お父様助けて‼️」
「知らない‼️ 私は知らない‼️ 娘が勝手にやった事だ‼️」
彼女の父親は娘から距離を取り絶縁を言い渡す。
彼女の胴体が消え去り。
伯爵令嬢は憎しみに美しい顔を歪ませてやがて、その顔も消えた。
豪奢なドレスと髪飾りを残して彼女はこの世から消滅した。
数年後、この国では皇太子と聖女の結婚式が執り行われ。
結婚式は1週間続いた。
誰も伯爵令嬢の事を口に出す者もおらず。
みんなの記憶から忘れ去られていく。
彼女の父親は爵位を返上し船に乗って巡礼の旅に出た。
その後、父親がどうなったのか誰も知らない。
やがて皇太子は王になり国は栄え、平民聖女といつまでも幸せに暮らしたと言う。
~ Fin ~
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2023/7/11『小説家になろう』 どんC
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~ 登場人物紹介 ~
★平民聖女(17才)
伯爵令嬢に殺された後、小鳥に姿を変える。
★皇太子(20才)
平民聖女の婚約者。平民聖女に惚れて婚約する。
★伯爵令嬢(18才)
小さい頃から王妃に成るため厳しく教育されてきた。
★ 伯爵令嬢の父親(45才)
娘を甘やかした挙げ句、陰から煽っていた。
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