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承……(3-2)

 一限目には物語科の新入生が全員、校庭に集まった。


 全三クラスが班ごとに分かれている。

 僕達の班は前から歩、紗智、僕の順で地面に座った。


 一人残らず、制服を着たままだった。

 黒と赤を基調としたブレザーに、同色のスラックスかスカートの組み合わせだ。


 静かに、と教師の声が響いた。

 見覚えのある顔が前に出る。


「今から班対抗戦を行う。

 これで暫定的な班の順位を決めるからそのつもりでいろよ」


 テノール担任が全体を取り仕切るようだ。

 百人以上を前にしても、昨日と同じくチンピラっぽい。


 校庭に出て驚いたのは、広さだ。

 三クラス全てが集まっているのに、全然狭い感じがしない。

 ていうか、広すぎて校庭の全容が把握出来ないほどだ。


 学校の敷地自体が大きいとは言え、異常な広さだ。

 普通科で使うのか? いや、絶対に使い切れない。


「対戦相手はランダムで決めた。クラスは関係ない」

「声高くね?」「歌手にでもなればいいのに」「早口言葉とかやって欲しい」


 どこかの班が無駄口を叩いた。

 担任は気にした風もなく話を進め――


「さて、ルールの説明だが……」


 ギロリとCクラスを見た。確証はないが、僕には分かった。

 絶対に陰口を囁いた班を睨みつけてる。


「お前ら三人に手伝ってもらおうか」


 担任が口角を吊り上げた。

 三人が前に出る。一人残らず、酷く後悔しているようだった。


「じゃあ説明するぞ。

 お前らがやるのは、簡単に言えば【鬼ごっこ】だ」


 生徒達が首を傾げる。

 周りを囲む他の先生達は苦笑していた。


 当たらずも遠からず、といった感じらしい。

 担任はこの反応を予想していたようで、一枚の紙を取り出した。


「知ってるだろうが、これは幻想文学の略式だ。

 本来は一度しか使えないはずの物語を紙に込めることで分割する技術だな。

 班対抗戦では、この幻想文学を利用する」


 言ってから、担任は題名を読み上げた。


『飛ばし鬼』


 だが、特に変わった様子はない……失敗だろうか。


「じゃあ、お前。

 どちらか片方のメンバーに右手で触れ。あと早口言葉とかしねーから」


「は、はい。スミマセン」

 おずおずと右手で班員の肩を掴んだ。


「そのままで『捕まえた』って言え」

『……捕まえた』

「!?」


 全員の驚きも無理はない。

 その瞬間、触れられていた側の男子生徒が消え去ったんだから。

 特に、肩を触っていた生徒の動揺は半端じゃない。


「え? 消え、た。まさか消滅とか――?」

「落ち着け」


 言いながら、担任は僕達の後ろを指した。見れば、ここから百メートルほど向こう側に『飛ばされた』生徒がぼうっと突っ立っている。

 

「右手で触れて『捕まえた』と言えば、発動する物語だ。対抗戦の間、戦場にこの幻想文学を語っておく。

 もう分かったと思うが、相手の班員を全て『飛ばした』側の勝利だ。幻想文学の使用は自由。

 ただし、相手に必要以上の怪我を負わせたら反則だ。もちろん『飛ばされた』班員は戦いに戻ってはいけない」


 なるほど。鬼ごっこ……か。


「それじゃあ、対戦相手を発表する」

 その声に応じて、教師達が全員にトーナメント表を配る。


「静夜さん、シードですよ。よかったですね」


 紗智が小声で話しかけてきた。

 他の班も話しているようなので同じく小声で応じた。


「まあ、楽でいいかな。一時間後だから時間も余裕があるし。

 対戦相手のB6っていうのは……」


「Bクラスの六班でしょうね」

 無意識にBクラスへ目を向ける……すぐに一人と目が合った。


 いかにも邪悪そうな顔つきだった。目は鋭く尖り、口を真一文字に結んでいる。

 体格は僕と比べようがないほど大きくて、僅かに俯いている。


 まるで僕を睨んでいるようにも見えた。

 直感だが、おそらくは彼が相手だろう。


「アイツ、静夜さんと雰囲気が似てません?」

 そんな分かりきったことを訊くなんて、紗智は幸せな人生を送ってると思う。


 ――アレは僕とはまったく異なるモノだよ。


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