ある日、願いが叶ったんだ。
――ミミちゃんは、とっても可愛い三毛猫のぬいぐるみ。小学三年生のマイちゃんからすごく大事にされています。
ミミちゃんがこのお家に来たのは、マイちゃんが小学校に入学する前のこと。七歳のお誕生日に、ママにプレゼントされたのです。
それ以来、マイちゃんは小さなミミちゃんのことがすごく気に入って、夜も一緒にベッドの中で寝ています。
「ミミちゃん、おはよう!」
「ミミちゃん、あたしは学校に行ってくるから。いいコで待っててね!」
「ミミちゃん、ただいま! 今日のおやつはドーナツだって。おいしそうでしょ?」
マイちゃんは朝起きた時、学校へ行く時、学校から帰ってきた時、お部屋にいるミミちゃんに真っ先に声をかけます。
楽しいことがあった日はもちろん、つらいことやイヤなことがあった日にも、ミミちゃんに話しかけます。
ミミちゃんにはちゃんと心があります。マイちゃんにお返事をしてあげたいけれど、ぬいぐるみだから、そのお話を聞くことしかできません。落ち込んでいる時も、動けないから前足で「いいコいいコ」もしてあげられません。
(アタシもマイちゃんになにかしてあげたいニャー……。どうしてアタシはうごけニャいのかニャ。どうしてぬいぐるみニャのかニャ)
ミミちゃんにとって、マイちゃんは大事なお友だち。でも、自分はマイちゃんに可愛がってもらうばかりで、マイちゃんには何もしてあげられません。
ミミちゃんは自分が動けない、鳴き声も出せないぬいぐるみでいることが、ものすごくもどかしくて仕方がありませんでした。
(せめて、ホンモノのネコさんになれたらニャー……)
動けるようになって、鳴き声が出せるようになったら少しはマイちゃんを励ましてあげられるのに……。ミミちゃんはいつもそう思っていました。
* * * *
――ミミちゃんのそのお願いは、ある日突然神様に届いたのです。
それは、お月さまがミミちゃんの目みたいにまん丸な夜のことでした。
「――ミミちゃん、もう寝ようか。おやすみ……」
マイちゃんはお布団をかぶって、スヤスヤと眠ってしまいました。ミミちゃんを一緒のお布団に入れずに、窓のそばに置いたまま――。
(マイちゃん、アタシのことわすれてるニャ! でも、じぶんではおふとんまでいけニャいし……)
たまたま窓の外の方を向いていたミミちゃんは、まん丸のお月さまを見上げました。
大きな大きなお月さまは、まるで神様みたい。お願いごとをしたら、叶うかもしれない。……ミミちゃんはそう考えました。
(ホンモノのネコさんになったら、アタシはもっとマイちゃんとなかよしになれるのかニャ……。ホンモノのネコさんになりたいニャ。おつきさま、おねがいニャ。アタシをホンモノのネコさんにしてくださいニャ!)
すると……、お月さまからあふれてきた優しい光がミミちゃんを包み込みました。こんなにまぶしい光なのに、ぐっすり眠っているマイちゃんはまるで気づきません。スヤスヤ夢の中です。
(ニャニャッ!? アタシいま、いったいどうなってるニャ!?)
ミミちゃんにもわけが分かりません。でも、あまりのまぶしさに、いつもならつぶることができない目をなぜかギュッとつぶることができました。
そして、いつの間にかそのまま朝になり、お日さまの光の中でおそるおそる目を開けてみると――。
「ニャー……?」
窓ガラスに映っているのは、一匹の三毛の子ねこでした。そうです。ミミちゃんはなんと、本物の小さな子ねこになっていたのです!
(……ニャニャッ! アタシ、なけるニャ! じゃあ、うごけるのかニャ?)
声が出せることがうれしくなったミミちゃんは、その場でくるりとひと回りしてみました。今までは何も感じなかった自分のシッポも、初めて見るオモチャみたいでおもしろくて、シッポを追いかけてはくるくる回って遊んでいました。
(わぁ、うごける! アタシ、うごけるニャ! うごくのたのしいニャ!)
あまりに楽しすぎて、くるくる回りすぎたのか目が回ってしまって、出窓の棚からマイちゃんのベッドの上にポテンと落っこちてしまいました。
「……ん? 何か落ちてきた。何だろ……?」
ビックリして目をさましたマイちゃんが、あくびをしながら目をゴシゴシ。手さぐりで子ねこの体温に触り、またビックリ!
「……わっ!? 子ネコちゃんだ! ネコちゃん、どこから来たの?」
(マイちゃん、おはよう! アタシ、ミミだよ。マイちゃんがだいじにしてくれてるミミだよ)
ミミちゃんは一生懸命声を出してマイちゃんに訴えかけますが、その声はマイちゃんの耳には「ニャーニャー」としか聞こえないようです。
それでも、マイちゃんはこの子ねこがミミちゃんだと気づかなくても、「ふふふっ、ネコちゃんかわいい」とニコニコ笑っています。
「かわいいねぇ……。あなた、三毛ちゃんなんだね。あたしが大事にしてるミミちゃんとおんなじだ」
(だから、アタシがミミちゃんなんだってば! どうやったらきづいてもらえるのかニャ……。あ、そうだニャ!)
またニャーニャーと訴えかけていたミミちゃんは、あることを思い出しました。ぬいぐるみだった時についていた首のリボンに「ミミ」と名前が入っていたのを。そして、本物の子ねこの姿でも、そのリボンはちゃんとついたままです。
ミミちゃんは、今度は前足で一生懸命、胸のリボンを持ち上げてマイちゃんに見せました。
「三毛ちゃん、なぁに? ……あれ? 〝ミミ〟……? あなた、もしかしてミミちゃんなの?」
マイちゃんはすぐにそれに気づき、この子ねこがミミちゃんであると分かってくれました。
「ニャン」
(そうだよ、アタシはミミちゃんだよ!)
ミミちゃんが嬉しくてひと鳴きすると、マイちゃんは「すっご~い!」と言ってミミちゃんをフワッと抱き上げました。
「あたし、ずっとミミちゃんとお話したかったの! すごいすごい! ミミちゃんが本物の子ねこちゃんになっちゃうなんてすご~い! 神さまがあたしのお願い叶えてくれたのかなぁ?」
「ニャッ!?」
(マイちゃん! くるしいニャ……)
興奮するマイちゃんにギューッと抱きしめられて、ミミちゃんは思わず悲鳴を上げてしまいました。
「……あっ、ゴメンねミミちゃん! 苦しかったね? ビックリしたよね!?」
「ウニャッ」
(だいじょうぶニャ。でもうれしいニャ。マイちゃんもアタシとおんなじねがいごとしてたんだニャ?)
あわてたマイちゃんに下ろしてもらったミミちゃんは、目を細めて可愛く鳴きました。
「あ、そうだ! お母さんに、ミミちゃんを飼ってもいいか訊かないと。でも、きっと大丈夫! お母さんもお父さんもネコ好きだから」
マイちゃんはそう言って、ミミちゃんの首のリボンを見つめながらちょっと考えました。
「……このリボンがついてたら、近所の飼いネコちゃんがウチに迷い込んできたと思われちゃうかな……。ミミちゃん、これ外してもいい?」
「ニャー」
(それはこまっちゃうニャ。マイちゃん、はずしていいニャ)
「ありがとね。いいコいいコ♪」
マイちゃんはミミちゃんのリボンをほどいてから、ミミちゃんの頭をなでなでしてくれました。ミミちゃんはすごく嬉しくて、また目を細めました。
「――マイー、起きてるの? 朝ゴハンの用意できてるから下りてらっしゃーい!」
「は~い! 今着替えて下りるー!」
マイちゃんはベッドから出ると、パパッと着替えを済ませてランドセルとミミちゃんを抱えた。
「ミミちゃん、下に行こっ」
「ニャー」
マイちゃんの腕の中で、ミミちゃんは頷くように小さく鳴きました。
* * * *
――その日のうちにマイちゃんのお父さんとお母さんからのオーケーをもらって、ミミちゃんはこのお家で「本物のネコ」としての生活を始めました。
「ミミちゃん、はい! ゴハンよ」
「ニャー」
(ホンモノのネコさんって、みんなこんなにおいしいものたべてるニャ? しあわせニャー♪)
今までぬいぐるみとして過ごしてきたミミちゃんにとっては、ゴハンを食べるのもオモチャで遊んでもらうのも、病院での痛~い注射でさえもみんな初めての経験でした。
注射は本当に痛くて、思わず暴れてしまったミミちゃんでしたが、これも大好きなマイちゃんと一緒に暮らすため。ガマンガマン!
(このままずーーーーっと、マイちゃんと一緒にいられたらいいニャー……)
本物のネコとして過ごす毎日は本当に楽しくて、このままぬいぐるみに戻らなければいいのに、とミミちゃんは思っていました。
でも、ミミちゃんは知らなかったのです。このお願いが、次の満月の夜には消えてしまうことを……。
* * * *
――それから半月ほど経ったある夜のこと。
「ミミちゃん、今日も一緒に寝ようね。おやすみ」
「ニャーン」
フワァ……とあくびをして、マイちゃんの枕元に丸くなったミミちゃんが寝ようとしていると……。
『……ミミちゃん、ミミちゃん。起きて』
誰かの呼ぶ声が聞こえてきて、ミミちゃんはパッと目を覚ましました。
「んー……、だれニャ?」
寝ぼけまなこで出窓の棚にトンと乗り移り、外を見ましたが、誰もいません。
「おかしいニャー……、誰もいない。だれがアタシのこと呼んだニャ?」
首をかしげて、ミミちゃんはキョロキョロと声の主を探し始めました。すると、またあの声が――。
『あなたを呼んだのは私、月です。ミミちゃん』
「ニャニャッ!? おつきさまがよんだのニャ!?」
ミミちゃんが見上げた夜空には、たくさんのお星さまに囲まれたキレイな半分のお月さまがありました。
『ミミちゃん、あなたは今の姿のままでずっといたいそうですね?』
「そうですニャ。アタシはホンモノのネコさんになって、まいにちすごくたのしいニャ。マイちゃんともいっぱいあそべるし、ゴハンもおいしいし、おちゅうしゃはいたかったけど……。でも、マイちゃんがおちこんでるときはいいコいいコできるし、いまのすがたになれてホントによかったとおもってるニャ。できたら、ずーーっとこのすがたのままで、マイちゃんやお父さんやお母さんといっしょにくらしていたいニャ」
本物のネコさんになってから、ミミちゃんにはできるようになって嬉しかったことがいっぱいありました。だから、この楽しい日々がずっと続けばいいなぁと思っていたのですが……。
『ミミちゃん、ごめんなさい。残念だけれどそれはできません。次の満月の夜、あなたは元のぬいぐるみの姿に戻ってしまうのです』
「えっ? そんな……」
お月さまからのお返事があまりにも悲しくて、ミミちゃんはシュンとしてしまいました。
『私があなたのお願いを叶えてあげられるのは、次の満月までの一ヶ月間だけだったのです。最初にお伝えしておけばよかったですね。本当にごめんなさい』
ミミちゃんの変身は、ひと月の間だけの期間限定。お月さまは魔法使いではないので、それが精いっぱいだったのです。
「そんな、そんな……。イヤだニャ、アタシはいやだニャ! ぬいぐるみさんにはもどりたくないニャー!」
ミミちゃんは悲しくて、悲しくて、とうとう泣き出してしまいました。
『……泣かないで、ミミちゃん。まだ半月あります。それまでの間に、マイちゃんやご家族と楽しい思い出をたくさん作って下さい。それに、ぬいぐるみの姿に戻っても、あなたがマイちゃんの大事なお友だちであることに変わりはないのですよ』
「…………うん、そうだニャ。おつきさま、ありがとニャン。アタシ、もうなかないニャ! おもいでづくり、がんばるニャ!」
『よかった。私があなたとお話できるのはここまでです。あと半月、大切に時間をお過ごしなさい』
その後、お月さまの声はパッタリ聞こえなくなりました。
* * * *
「――おはよう、ミミちゃん。朝ですよー」
次の日の朝、あのまま出窓の棚の上で眠ってしまったミミちゃんは、すっかり着替えを済ませたマイちゃんに起こされました。
「フニャ―……」
ミミちゃんは目を覚ましましたが、お月さまに言われたことがまだ気になっていてマイちゃんのところへなかなか行けません。
(アタシはあとはんつきで、ぬいぐるみのすがたにもどっちゃうニャ……。マイちゃんともっといっしょにいたかったニャ。なんだかさみしいニャ……)
人間の言葉が話せたら、マイちゃんにもそのことをちゃんと伝えてお別れができるのに……。もしも半月後、マイちゃんの目の前でぬいぐるみに戻ってしまったら、マイちゃんはどんな気持ちになるのでしょう?
(マイちゃんショックをうけて、アタシとおともだちでいてくれなくなっちゃうかもしれないニャ)
ミミちゃんは何だか悲しい気持ちになって、自分の目に涙があふれてくるのを感じました。
(ないちゃダメニャ! まだはんつきもあるニャ。まだマイちゃんとおわかれしないニャ!)
せめて本当にお別れするその時までは、マイちゃんを悲しませないようにしよう。ミミちゃんはそう決めたのです。
「? ミミちゃん、どうしたの? 今日はあたし、創立記念日で学校お休みだから、い~っぱい遊ぼうね! まずは朝ゴハンだ! 下に行こう!」
「ニャン!」
(このはんつきで、もっといっぱいマイちゃんとたのしいおもいでつくるニャ!)
おなかがすくのも、悲しい気持ちになるのも生きている証拠です。本物のネコでいられるうちにできることをたくさん経験して、マイちゃんと過ごせる時間を大切にしていこうとミミちゃんは思ったのでした。
* * * *
――それから二週間の間、精いっぱい本物のネコとして過ごしていたミミちゃんですが、徐々に自分がまたぬいぐるみに戻りつつあることを感じていました。
(もし、もとのすがたにもどっちゃうときがきたら、マイちゃんのみえないところでもどりたいニャ)
よく窓の外へ遊びにくるご近所のおじさんネコが、こう言っていたのです。
「ネコっていうのはな、自分がもうすぐ死ぬって分かったら大事な人の前からフラッて姿を消すもんなんだ。その人を悲しませないためにな」 ……
(アタシだっておんなじニャ。マイちゃんをかなしませたくないニャ)
ミミちゃんは死んでしまうわけではありません。でも、マイちゃんの前で動けなくなるのはイヤだったのです。
(……アタシはもう、ここにはいられないニャ。どこか、マイちゃんにみつからないところにいかないと!)
マイちゃんは今日は学校に行っていて、まだ帰ってきていません。お父さんはお仕事で、お母さんもお買いものに行っているので今家には誰にもいないのです。姿を消すなら今がチャンスでした。
ミミちゃんはヨロヨロと立ち上がると、もうあまり動けなくなっている体でヨタヨタと歩き始めました。
マイちゃんはミミちゃんが今病気で体が弱っているのだと思っています。お母さんも、そんなミミちゃんのために、病気のネコさん用のゴハンを買いに行ってくれているのです。
(みんな、ごめんなさい! アタシはこのおうちからでていきますニャ! さよなら!)
ヨタヨタ、ヨロヨロと階段を下りて、一階の玄関までどうにかたどり着くと……。
「――ただいま……って、ミミちゃんどこ行くの!?」
ちょうど帰ってきたマイちゃんとバッタリ鉢合わせ! マイちゃんは今にも倒れそうなミミちゃんが外へ行こうとしていたので、真っ青な顔をしています。
「ニャー…………」
(マイちゃん……、きょうまでなかよくしてくれてありがとニャ。もうおわかれニャ)
顔を上げたミミちゃんの目に涙が浮かんでいることに気づいたマイちゃんは、ネコの言葉が分からなくてもミミちゃんの伝えたいことが分かったようでした。
「ミミちゃん……、もしかしてもうお別れなの? またぬいぐるみに戻っちゃうの?」
ミミちゃんは涙を浮かべたまま、コクンとうなずきました。これでもう、マイちゃんに嫌われる、そう思いました。
でも、マイちゃんが意外なことを言ったので、ミミちゃんはおどろきました。
「……あたしね、神さまにお願いしたんだ。『ミミちゃんとお友だちになりたいです』って。でも、あたしのお願いはもう叶ってたんだ。あたしとミミちゃんはもう友だちだったんだよ。ぬいぐるみのミミちゃんも、あたしの大事なお友だちだったの。だから、元に戻ってもだいじょうぶ。あたしたちはこれからもずっと、ずーーっとお友だちだよ」
「ニャー……」
ミミちゃんはかすれた声で、マイちゃんに返事をしました。
(マイちゃん、ありがとニャ。アタシはずっとかんちがいしてたんだニャ。ホンモノのネコさんでもぬいぐるみでも、マイちゃんはずっとアタシのことおともだちだとおもってくれてたんだニャ。アタシ、バカだニャ……)
それならもう、このままぬいぐるみに戻っても大丈夫だと思いました。
もう秋もぐっと深まっていて、外は暗くなり始めています。もうすぐ、空にはまん丸なお月さまが出てくるでしょう。
「――ただいま! マイ、ミミちゃん、遅くなってごめんね」
そこへ、お母さんが帰ってきました。マイちゃんはお母さんの顔を見るなり泣きながらこう言いました。
「……お母さん、ミミちゃんのゴハン、もういらないの。ミミちゃんはもう食べられないから」
「えっ? マイ、どういうことなの? ミミちゃん、死んじゃうの?」
「ううん、そうじゃないけど……」
その時、開けたままの玄関ドアのすき間から月の光が入ってきて、あっという間にミミちゃんの体を包み込みました。
そして、ミミちゃんはマイちゃんとお母さんの目の前で、元のぬいぐるみの姿に戻ってしまいました。
「お母さん……。あの子ネコのミミちゃんは、このコだったんだよ」
マイちゃんは動かないぬいぐるみの姿に戻ったミミちゃんをそっと抱えて、お母さんに見せました。
「これって、お母さんがマイに買ってあげたネコのぬいぐるみ? ……じゃあ、ここにいるミミちゃんが本物の子ネコになってたってことなの?」
「うん。ミミちゃん、あたしと友だちになりたかったみたい。でもね、あたしはこのコがウチに来てからずっと、友だちだと思ってたんだ。もうこのコは動けないけど、可愛い鳴き声も聞けないけど、あたしはこれからもずっとミミちゃんとお友だちでいたい。ずっと大事にするから」
マイちゃんはミミちゃんをなでながら、そう言いました。
「だからお母さん、このコをウチに迎えてくれてありがとう」
(アタシからもありがとニャ、お母さん。アタシもこのおうちにこられてよかったニャ。アタシはしあわせもののぬいぐるみだニャ!)
お母さんはマイちゃんに「うん」とうなずいてから、しゃがみ込んでミミちゃんの頭をいいコいいコしてくれました。
「ミミちゃん、これからもずっとマイと一緒にいてあげてね。お父さんにも言っておくわね。絶対にミミちゃんを捨てたりしないように、って。だって、このコはマイのお友だちなんだもんね」
もう本物のネコではないけれど、ミミちゃんはこれで本当にマイちゃんの家族の一員になれたような気がしたのでした。
* * * *
「――マーイーちゃ~ん、あーそーぼー!」
数日後、マイちゃんの学校のお友だちが一緒に遊ぼうとお誘いにきました。
「うん! 今行くよー! ――ミミちゃんも一緒に行こうね」
お部屋の窓を開けて返事をしたマイちゃんは、ミミちゃんをトートバッグに大事に入れてくれました。
――あの日以来、マイちゃんが遊びに行く時にはいつもミミちゃんが一緒です。だって、ミミちゃんはマイちゃんにとって大事なお友だちだから。
「ミミちゃんとお友だちになりたい」というマイちゃんのお願いが叶っていたように、「マイちゃんとなかよくなりたい」というミミちゃんのお願いごとも、もしかしたらずーーっと前に叶っていたのかもしれません。
ミミちゃんとマイちゃんの仲のよさは、これからもずっと変わらないでしょう。五年後も十年後も、大人になってからもずーーっと。
おしまい。