表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏側の天使  作者: ひつじ
3/3

3刻目  月の影

ぎぎい、と石と石壁が擦れあう音がする。壁には、一面にえいごが並んでいた。



「なんで、こうなるんだろう。みんな、サタの話を聞いてくれない。エンはまだ意識を失ってるし……」



サタは、狭い石造りの部屋に閉じ込められていた。そう、牢屋という名の、部屋に。

あの騒動の後、サタは、何かを言う権利さえもらえずに、ここに連れてこられた。

サタは、殺人、器物損壊の罪で、死刑になる。明日には、首をはねられるのだ。


「クライン……サタのこと、嫌いだったもんね……」


牢屋には、小さな窓が、手が届かない場所に一つだけ、空いている。



「うう……」



外から、月明かりがわずかに届き、夜になったのだと分かった。


「この月がいなくなっちゃったら、サタは死ぬんだ」


途端にとても怖くなって、サタは月を捕まえようと、窓に手を伸ばした。



その伸ばした手に、もう一つの手が重なった。



「え……」



「サタちゃん。迎えに来たよ」




窓に、エンがいた。

正確には、エンの顔が出ていた。この高い窓までどうやって登ったんだろう。サタのために、何度もよじ登ったのだろうか。


「え、エン……」


エンは、えい、と言い、私を引き上げた。ものすごい力だ。サタが学んでいない、柔道や剣道で鍛えられたのだろうか。


窓まで引っ張り上げられ、そっと牢屋を振り返る。



「……やっぱ、ダメだよ、エン」


エンは、もう窓から飛び降りて、サタを待っている。


「え、なんで……?」


「だって、またお母様を怒らせちゃう。また、嫌われる」



「そんなこと言ってられないよ、サタちゃん」



エンはいつになく強い光を目に帯びさせていた。


「もし死んじゃったら、お母様の顔も見れないよ!エンも、サタちゃんの顔、見れなくなっちゃう」


エンは、サタが明日死ぬことを知ったみたいだ。



「……うん」



サタは息を吸い込み、勢いをつけて飛び出した。









 「サタちゃんが死ぬなんて、間違ってるって、お母様に言ったんだよ? でも、『もう決まってしまったことですよ』って、話にならなかった」


うん、だって、お母様からしたら、サタは生まれた瞬間から悪魔で、不要だったんだもん。サタを『消す』いい機会って思ってるんだよ。


そう言いそうになり、サタは慌てて口を閉じた。

こんなこと、サタが死んでからも、ずっと生きるエンが聞いたら、悲しくなってしまうから。




 「わあ、サタちゃん、見て! 大きな湖」


サタ達が歩いていると、崖の下に大きな湖が広がっているのを見つけた。


「ほら、見て、見て」


「エン、崖から落ちたら死んじゃうよ?」


サタは、エンを抱きしめて、崖淵から離した。


「でも、近くで湖、見たいのー!」


最後の望み。サタに向けられた、最後の願いだ。サタは、顔を緩め、エンと一緒に崖淵に座った。





風が強く吹いた。


「……サタちゃん、本当に死んじゃうの?」


エンが、頼りない声を出す。


「うん」


サタは、あえて簡単に言った。そうでないと、泣いてしまいそうだったから。


「クラインが悪いの?」


「ううん」


エンが、クラインに憎しみを持たないように。いつも笑顔で過ごせるように、サタは嘘をつく。


「……じゃあ、なんで」



「サタが、悪魔だから」



つい口走ってしまい、息をのむ。

エンは、首を傾げた。


「悪魔?」


サタは、それ以上何も言わないようにした。


「ねえ、どういうこと、悪魔って。サタちゃんは、悪魔なんかじゃない!」


サタの肩が震えた。


「何でもない」


「サタちゃんは、優しいよ! 悪魔なんかじゃなくて、天使みたいに、優しいよ!」


サタの頬を、涙が伝った。


「エン……ありがとう」



エンは、何も言わずに、サタをきつく抱きしめた。



「いやだ、別々なんて、絶対に嫌だ」



湖に、月が反射する。


「一緒にいたいって、思ってくれるの……?」


サタは震える声を出す。


「うん、絶対に、サタちゃんがいないなんて、いやだよ……」


湖に、サタは手を伸ばした。反射した月。月を捕まえたら、明日は来ないから。



「じゃあ」



サタは、エンを抱き込んだ。強く、強く抱きしめた。






「ずっと、一緒にいよう」







体を、湖の方へ、流した。













一段、強く風が吹いた。




どぼん。水が跳ねる音がした。


月が、ゆらりと揺らいだ。






最後まで読んでいただき、ありがとうございます!!


裏側の天使、完結です!

この物語が初投稿なので…これからも、成長できたらなと思います


コメントを頂けると、本当に嬉しいです


とにかく読んでくださった方々、本当にありがとうございました!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ