表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏側の天使  作者: ひつじ
1/3

1刻目  同じで違う

「まあ、きれいなお花! 私のために、二人共、摘んできてくれたのね。嬉しいわ」


お母様はそういうと、いつも先にエンの方から花を受け取る。


「あら、本当に素敵ね。色も統一されてて、見とれちゃう。さすがエンね。私の部屋に飾っておくわ」


香りや色、すべてを満面の笑みで褒めちぎってから、ようやくお母様はこっちを見てくれる。


「サタも、摘んできてくれたのね」


お母様は、それだけ言うと、さっとサタの手から花を取る。

そして、またエンに向き直り、彼女の頭をなでる。


「とにかく、花瓶に生けてくるわね。こんなにかわいらしい花がしぼんでしまっては、悲しいもの」


「うんっ、ありがとう!」


エンは、花のように、にっこりと笑う。


満足そうに微笑みながら立ち去ろうとするお母様を、サタは必死に呼び止めた。


「あのっ、お母様…、そのお花ね……お母様のために、たくさん悩んで選んだの!」


「サタ。いつも敬語を使いなさいと言ったでしょう。それに、私を止めるほどの用事だとは思えないわ」


「あっ……ごめんなさい」


「全く、反省しない子ね。毎度毎度言ってるのに」


お母様はそう吐き捨てると、サタが摘んできた花を地面に落とした。


「それに、なんなのこの花は。雑草も交じってるじゃない。色合いもめちゃくちゃ。少しは、エンを見習いなさい」


お母様はそういうと、苛立ちげに部屋へと戻っていった。

地面に落とされて、しおれている花を、サタはぼんやりと眺めていた。




私、サタと、妹のエンは、この国の王族の血を引いている、双子の姉妹だ。今年で6つになる。

顔も、性格も、好みも、全てが同じ。

なのに、いつか二人の間に壁ができてしまったのだろう。

お母様は、いつもエンばかりをかわいがる。


「サタちゃん……なんでお母様、怒ってるの?」


エンは、泣きそうな目で、私を見つめる。サタは、地面にしゃがみこんだ。


「また、怒らせちゃった。何がダメだったんだろ。私はただ、お母様に笑ってほしくて、花を持ってきたのに……」


サタの目から涙がこぼれた。


「どうやったら、笑ってくれるのかな……」


私が悲しんでいる横で、エンが一緒になって悲しそうにするのが、サタにとって一番つらく、悲しかった。

お母様には、エンには、いつも笑っていてほしいのに。


「……じゃあ、勉強を沢山するとか、どうかな。お母様、きっと笑ってくれるよ! えらいえらい、って、頭なでてくれるよ」


エンは、サタの背中をさすりながら、嬉しそうに笑った。


「た、確かに…! 今から、図書館に行って、勉強してくる! エン、ありがと!」


「うん! エンは、今からピアノのお稽古だから、また後でね!」



駆け出す足音と、心臓の音が、リンクする。

いい子ね、えらいわ、と言って、お母様に頭を撫でられる様子が頭に浮かび、サタの唇に笑みがこぼれた。


階段を下り、ホールを抜け、近道の裏庭を通る。ドレスが汚れたり破れたりすると、お母様に怒られるから、木を慎重によける。

そして図書館の裏側にたどり着くと、そこにある大きな窓に手をかけ、勢いをつけて中へ転がり込んだ。


「よかった、ドレス、汚れてない」


サタは念入りにドレスの確認をしてから、図書館の中を歩き始めた。

図書館はとても広く、エンと一緒に使っている部屋が三十個以上入りそうなくらい、大きい。

そびえたつ本棚にびっしりと埋まっている本は、サタを誘っているようで、心臓が高鳴った。


「どんな本を読んだら、お母様は笑ってくれるだろ」


本を眺めながら歩いていると、ふと、一冊の本が目に留まった。


「え……えいご、なのかな」


背表紙には、自分には読めないような字が並んでいた。

でも、前にお母様がこのような文字を使って、手紙を書いているのを見たことがある。

そして、この文字のことを、えいご、と言っていた。

サタは、試しに本を開いてみた。


「あ! えいごの横に、読める字が書いてある!」


どうやらえいごを、この王国の文字へと変える、辞書のようだった。


「アリは、あんと。 ハチは、びー。 ラクダは、きゃめる」


サタは、すっかり辞書に夢中になっていた。


「えいごって、面白い!」


サタは、有頂天だった。エンが知らない言葉を今、サタは知っている。お母様だって、きっと褒めてくれる。そう、期待が膨らんでいた。





そう、サタが、その言葉の意味を知るまでは。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ